大型化と大阪化で夏の日本一 それでも変わらない静岡学園の“スタイル”

大島和人

静岡学園は厳しい展開の連続を粘り強く戦い抜いた 【写真は共同】

 全国高校総体(インターハイ)のサッカー男子決勝は8月1日に福島県のJヴィレッジスタジアムで開催され、静岡学園が近畿大学附属を2-1で下して優勝を決めた。静岡学園にとって初のインターハイ制覇で、静岡県勢の優勝も清水商業(現清水桜が丘)以来30年ぶりだ。

 静岡学園は2回戦から登場すると、まず大分に8-0と快勝。しかし3回戦・鹿島学園戦(2△2/5PK3)は2点差を追いつかれてPK戦を制する展開で、準々決勝・旭川実業戦(3◯2)も後半アディショナルタイムに勝ち越すきわどい展開だった。準決勝・大津戦(1◯0)も前半は一方的に押される苦戦で、決勝戦はラストプレーで勝ち越す接戦だった。

 高校サッカー界では「技巧的」「攻撃的」のイメージが強い静岡学園だが、今大会については勝負強さと粘り強さの光る勝ち上がりだった。また試練も乗り越えた。背番号10の松永悠輝が大会前に負傷し、さらに2回戦でキャプテン足立羽琉、準決勝でレフティの小田切颯佑が負傷。満身創痍の状況だったが、選手層の厚さで大会を乗り切っている。

「5試合」から得たもの

 静岡学園は優勝を目標にしてインターハイに臨んでいたわけではなかった。川口修監督が選手に対して口にしたターゲットは「5試合を戦う」こと。それは経験としての5試合で、結果を優先して内容や成長を犠牲にすることは彼らの流儀でない。

 大会後の川口監督は選手の奮闘を称え、選手層の厚みを手に入れたこと、勝負強さを発揮したことは喜んでいた。一方で「内容」についてはシビアな評価を述べていた。彼は準決勝、決勝をこう振り返る。

「準決勝で言えば、もう本当に(守備の)プレッシャーもハマなかったですし、ボールをつながせてもらえなかった。決勝も(近大附属の)守備の強度が非常に高くて、ボールを回せず、シュートまでいけなかった。そういうところを崩していくのが自分たちのスタイルですけど、そこをうまく表現できなかった」

 夏の静岡学園が欠いていた部分を、指揮官は決勝戦後にこう言葉にしている。

「途中から出た選手の中に、外から見ていてボール受けるのをちょっと怖がっている選手がいた。怖がっている時点で、ボールは回りません。大津高校はみんなが自信満々でボールを持って失わない。個の技術、気持ちの強さにはすごい差があるなと思いました。ただあれで気づきがあったので、やれて良かったです」

 インターハイに限らず、こういう大会は勝ち進めばレベルの高い相手との対戦が待っている。静岡学園は昨年、高校生年代の最上位カテゴリー「高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ」から降格している。だからこそ大津との準決勝は「プレミア基準」を味わう貴重な機会だった。

 守備陣が発揮した粘りについて、川口監督はこう説明していた。

「日本代表みたいな感じですよね。押されていても何とか粘って2人目、3人目でカバーする守備はよくできていた。力の差があると、ああやって守らざるを得ない状況になります。でもその中で守り切った」

 そこは選手が自然に発揮したものだった。

「守備のところは、まだあまり手をつけていません。切り替えとか、プレスバックの要求はあまりしてないです。この夏を越えてから、テコ入れをするつもりでした。1対1で負けるなしか言っていません。ここからテコ入れするために、大津さんとやったのはすごく良かった」

「ウチには坂本がいた」

 準決勝で大津から1点をもぎ取ったのはFW坂本健悟のヘディングだった。後半6分、安永龍生が左サイドから上げた浮き球に合わせて、豪快に叩き込んだ一撃だ。

 川口監督は展開をこう振り返っていた。

「前半あれだけ押されていて、失点はなかった。後半ちょっと立て直せるかなとは思ったけど、なかなか立て直すのが難しい試合でした。もう守備で踏ん張るのが精一杯で、ただウチには坂本がいた。それだけです」

 静岡学園は今までスピード、パワーを追わないチームという印象があった。しかし坂本は184センチ・75キロの偉丈夫で、ヘディングの高さとうまさは高校生年代でもトップレベル。相手がマークについていても、クロスがふわりとしていても、ファーサイドで待ち構えて「上から叩く」破壊力がある。今大会は5得点を記録し、得点王に輝いた。

 筆者が彼と向き合ったとき、胸や腕がたくましい逆三角形体型なことに気づいた。「器具を使ったウエイトトレーニング」をしている気配があった。

 坂本本人に聞くと、このような説明があった。

「筋トレは毎朝やっています。試合の中で自分のフィジカルが活きている感覚はあまりないですけど、朝から自分でやると自分の自信にはつながると思います」

 静岡学園は2011年に校舎が静岡市の駿河区から葵区に移転している。そのとき他の運動部と共用でトレーニングルームが設置された。チームのメニューとして、器具を使ったトレーニングはやっていない。だとしても選手が自発的にやるのはOKだ。坂本を含めたやる気のある、意識の高い選手はウエイトトレーニングに取り組んでいるのだという。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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