SVリーグ・大阪Bはどう「世界一」を目指すのか? パナソニック スポーツ久保田CEOが語る野心

大島和人

久保田はパナソニック スポーツCEOとして大阪ブルテオンの事業化に取り組んできた 【撮影:大島和人】

 日本のバレーボール界に「首都」があるならば、それは東京でなく大阪だろう。2025-26シーズンSVリーグ男子チャンピオンシップは大阪ブルテオンが制した。その一つ前の王者はサントリーサンバーズ大阪だ。女子も大阪マーヴェラスが2024-25シーズンに優勝、翌シーズンに準優勝をしている。

 人気の面でも「青」のブルテオンと、「赤」のサンバーズは日本のバレーボールを牽引している。特にブルテオンは経営面、事業面でもSVリーグの中で一歩先に立っているクラブだ。昨季はホームゲーム22試合の合計観客数が107363人に到達。チームのブランディングに関しても、未来に向けた手を打っている。

 ブルテオンの前身は「パナソニック パンサーズ」だ。2024年の新生SVリーグ誕生に合わせてリブランディングを行い「地名+愛称」を名乗り始めた。パナソニックは2022年4月にスポーツ事業を分社化し、「パナソニック スポーツ」を立ち上げている。大阪ブルテオンはパナソニック スポーツの傘下で、厳密に言えばパナソニック ホールディングスの孫会社に当たる。

 スポーツナビではパナソニック スポーツのCEOで、大阪ブルテオンのブランディング、成長のキーマンでもある久保田剛氏にインタビューをしている。内容はバレーボールに関する取り組み、未来への展望だ。(以下敬称略)

Jクラブから「実業団スポーツ」に転身

 久保田はスポーツ業界の中でも、分かりやすく叩き上げのキャリアを歩んでいる。ただし50歳を過ぎるまでバレーボール、パナソニックとは無縁の人生を送っていた。

 苦学生だった彼は大学入学前からゴルフなどスポーツイベントの現場でアルバイトをしていた。そんなつながりからテレビ制作会社に就職し、その後NTT系列の広告会社「エヌ・ティ・ティ・アド」に転職。さらにスポーツマーケティング関連の企業に転じている。その間、母校・明治大は仕事と両立できず一旦除籍となり、再入学を経て「18年」かけて卒業した。

 エヌ・ティ・ティ・アド時代に関わった縁もあり、Jリーグ大宮アルディージャの取締役事業本部長に迎えられたのが2010年秋。そこから9年近くにわたって、プロサッカーの現場にいた。パナソニックに迎えられた理由は想像以上に単純な経緯だった。

「2019年の5月くらいに突然、転職のエージェントから電話が来たんです。大宮が2014年にJ2へ降格したとき、責任を取って辞めようと思って、登録していました」

 「大阪のとある会社がスポーツの統括責任者を探している」という連絡を受け、担当者に興味を伝えたところ、紹介されたのがパナソニックだった。当時は男子バスケットボールのBリーグが軌道に乗り、バレーボールやラグビーでも事業化、プロ化の構想が浮上していた。パナソニックはそこに対応できる外部人材を求めていた。Jクラブの要職にあり、3カ月近く悩んだ末、久保田は転身を選択する。

 もっともバレーボールのプロ化は、当時の嶋岡健治・日本バレーボールリーグ(Vリーグ)機構会長が前向きだったものの、チームを所有する企業が躊躇(ちゅうちょ)していた。この競技は代表を中心に根強い人気がある。有力な企業が支援をしていて、特に運営面で「追い込まれて」いたわけではない。日本バスケットボール協会のように国際連盟からの圧力があったわけでもない。

20枚しか売れなかったユニフォーム

パナソニックアリーナは集客を意識して手が入った 【(C)OSAKA BLUTEON】

 ともかく久保田はパナソニック社内のバレーボール、ラグビー、陸上、野球といった各競技を統括する立場になった。パンサーズについていうと、まだファンクラブがなく、SNSも運用していなかった時期。今でこそ多くのファンが着用している青のユニフォームも「オーセンティック」のみで、年間に20枚しか売れないレアアイテムだったという。

 また2019年の段階ではまだホーム&アウェイ制も確立されておらず、一会場で複数試合をやるセントラル開催が多かった。彼がまずバレーボールに関して手掛けたのはファンクラブ設立、SNS開設、パナソニックアリーナのトイレ改修、地元駅への広告掲出といった地道な取り組みだった。

「同じ仮設トイレでも、配管をつなぐと水洗にできるからそう変えたり、お花を飾ったりと、かなり細かくやりました。あと広告もかなり作り直して、出しました。試合をやっていても、誰も知らなかったんです」

 それでも久保田はバレーボールの事業化について、早い段階から成功を確信していた。一つのきっかけは2022年にフィリピン・マニラで目撃したFIVBバレーボールネーションズリーグ(VNL)の盛り上がりだった。現地のファンが日本選手の名を大声で叫び、「ニッポン!コール」でチームを後押しする様子を見て、この競技の持つ熱量と、日本国内に留まらない可能性に強く感じたのだという。

 2022年には、バレーボール界のその後を大きく変える人事があった。Bリーグ開幕時のチェアマンで、「プロリーグの立ち上げ、運営」に精通する大河正明がVリーグ(当時)の副会長に就任。大河が中心となり、2024年秋に地域密着、事業化を志向したSVリーグが誕生し、大河も新リーグのトップ(チェアマン)に就任した。軌を一にしてブルテオンの改革も加速していく。

「ブルテオン」を名乗る理由

 企業名を外したチーム呼称はサッカー、バスケットボールの標準だ。オーナー企業でなく地域に目を向けるという意思表示でもある。

 ブルテオンについてはもっと前向きで、踏み込んだ狙いがあった。

「『パンサーズ』はアメリカにいっぱいある名前ですから、(商標権の関係でグッズ販売などの関連事業を)何もできません。『パナソニック』もそうですが、SNSで検索したら被りまくるわけです。それはスポーツビジネスをやるうえでダメと分かっていたから、変えようと思っていました」

 商標を登録し一定範囲の「区分」を抑えておかないと、グッズの制作や販売に大きな支障が出る。パンサー(豹)に限らず、メジャーな動物は既に様々なネーミングに使われている。後発のプロスポーツチームは造語、合成語でそれをクリアするわけだが、ブルテオンもそんな一例だ。

 ブルテオンは「BLUE TO EON」から作った造語だ。由来は「永遠なる青」の意味で、青い空や海のように、永遠・永劫(えいごう)(EON)に続いていくという思いが込められている。

 未来だけでなく国外に向けた狙いもあった。チームカラーと愛称に決めるにあたって、久保田たちは綿密な調査をしている。調査の対象はアジア全域で「ブルテオン」の単語を商標登録できるか、その名と「青」が悪い意味・悪いイメージを持たれないかといったチェックを行った。

 またブルテオンはサントリー、ウルフドッグス名古屋と合同して2023年、24年とタイ・バンコクでプレシーズンゲームを行っている。これはリーグが引き継ぎ、2026-27シーズンはバンコクでSVリーグ男女の公式戦が組まれる。

 つまりSVリーグ開幕前から、チームは「世界」「アジア」を意識していた。もっとも現時点でアジアの日本バレー人気、ブルテオン人気を「稼ぎ」に変えることは容易でない。久保田は投資を回収する方法について、こう説明する。

「放映権料を上げていくことがまず一つです。もちろんインバウンド、アウトバウンドもあります。また今考えているのは富裕層のホスピタリティ、投資です。ヨーロッパの名だたるサッカークラブは、みんな東南アジアに事務所を持っています。SVリーグの場合はまだクラブ単位だと難しいかもしれません。リーグがアジアのどこかに事務所を構えて、各クラブのグッズを売ったり、試合のマネージをしたり、新しい投資を呼び込めるようになればいいと思います」

 障害は少なくない。現時点では単純に「海外のファンがSVリーグのチケットを買う、グッズを買う」ためのカード決済、物流などの仕組みが整っていない。そこはクラブ単位でなく、リーグとして取り組む話になる。

1/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

当サイトには一部アフィリエイトリンクが含まれています。

リンクから商品・サービスをご購入いただいた場合、スポーツナビに収益が発生することがあります。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント