甲子園で内野5人シフトの奇策はあり? 監督に問われる「根拠と覚悟」
データに頼りすぎず、試合の中で見極める
ただ、1試合、2試合の映像を見ただけで、相手チームのすべてがわかるとは思っていない。社会人野球をしていたとき、チームとして集めたデータを参考にしたことはある。しかし、それは年間を通して積み上げた調査の結果だった。何十試合も見ていけば、チームの傾向や選手のクセもある程度見えてくる。しかし、数試合の映像だけで「このチームはこうだ」と決めつけるのは危険だ。
相手バッターについては、事前の情報で攻め方を固定しすぎないようにしている。大切なのは、バッテリーが試合の中で柔軟な対応をしていくことである。基本は、こちらのピッチャーが持っている一番いいボールで勝負すること。実際に対戦しながら、バッターの反応やタイミングの合い方、スイングの軌道などを見て、キャッチャーにも対応策を考えていってほしい。
もちろん、明らかに警戒すべきバッターはいる。ストレートだけを待っている。長打だけを狙って振っている。そう見えたときには、「このバッターは気をつけろ」「まっすぐ一辺倒でいくな」などと伝える。事前の情報を頭に入れたうえで、試合の中で見えたものを加えていく。その積み重ねで、攻め方は変わっていく。
どちらかといえば、事前に狙いを整理しやすいのは相手ピッチャーのほうだ。球種やコントロール、決め球、カウントごとの傾向、ランナーを背負ったときの変化……。そういったものを見ながら、どの球を待つのか、どのカウントで仕掛けるのかを私は考える。打線全体で狙いを共有できれば、打席に立ったときの迷いも少なくなる。
試合前には、ある程度の得点の見立てもする。相手ピッチャーから、うちは何点取れるのか。うちのピッチャーが、相手打線に何点取られる可能性があるのか。もちろん、予想通りに進む試合ばかりではない。それでも、1点を取りにいく試合なのか、ある程度点を取り合う試合なのかを想定しておけば、バントやエンドラン、盗塁、ピッチャー交代などの判断も変わってくる。
相手ピッチャーのクセを見る作業は、コーチの川下に任せている。川下は、そういうところを見抜くのがとてもうまく、ピッチャーのクセはモーションに入る前のグラブの位置や向き、肘の高さなどに出やすいそうだ。ワインドアップかセットポジションかによっても見るべきポイントは変わる。そういったわずかな違いから、球種や牽制の傾向が見えることもある。川下が気づいたことは、その都度、選手たちに伝えてくれている。
データや映像は、試合前の準備として欠かせない。しかし、それは答えではない。あくまでも判断するための材料である。実際に試合が始まれば、相手もこちらの予想通りには動かない。バッターの反応も変わる。ピッチャーの調子も日によって違う。事前に得た情報に、目の前で起きていることを重ねて、こちらの攻め方や守り方を決めていく。
相手を研究するのは、決めつけるためではない。準備した情報を持ちながら、最後はグラウンドで起きていることを見て、感じて、判断する。それが私にとっての采配なのだ。
極意 其の四十五
データや映像は、試合前の準備として欠かせない。しかし、それは答えではない。あくまでも判断するための材料である。実際に試合が始まれば、相手もこちらの予想通りには動かない。事前に得た情報に、目の前で起きていることを重ねて、こちらの攻め方や守り方を決めていく。
書籍紹介
驚異の110%超!
監督就任15年目で甲子園出場16回。
そのうち優勝1回、四強2回、八強1回。
恵まれない環境下に置かれながらも、
いま高校球界で最も勝ち切れる指揮官が語る、
日本一の采配論!