甲子園で内野5人シフトの奇策はあり? 監督に問われる「根拠と覚悟」
監督就任15年目で甲子園出場16回。そのうち優勝1回、四強2回、八強1回。恵まれない環境下に置かれながらも、
いま高校球界で最も勝ち切れる指揮官が語る、日本一の采配論!敦賀気比高校野球部・東哲平監督の著書「常勝軍団・敦賀気比 勝利を引き寄せる采配 56の極意」から一部を抜粋して掲載します。
※リンク先は外部サイトの場合があります
内野5人シフトに見る、守備の賭けと読み
近年は、あのような極端なシフトを敷くチームが増えてきたように感じる。私自身も、2023年の「くまのベースボールフェスタ」で横浜と対戦した際に、タイブレークで内野5人シフトを敷かれたことがある。そのときは、当時1年生だった岡部飛雄馬がファーストゴロを打ち、併殺で無得点に終わった。相手の狙い通りの結果になったわけで、守っている側からすれば有効な一手となった。
野球界では、「代わった選手のところに打球が飛ぶ」とよく言われる。実際、交代したばかりの選手や、動かした先のポジションに打球が飛ぶことは多い。そう考えれば、内野5人シフトには不思議な力があるようにも思える。しかし、私はあのシフトを確率の高い守備というより、ひとつの賭けに近いものとして見ている。
メジャーリーグでは、守備位置を大きく右や左に寄せるシフトが当たり前のように行われている。あれは相手バッターの打球方向や傾向を一定期間に渡って調べ、膨大なデータをもとに導き出された守り方である。高校野球で、そこまで長く相手バッターを追い続けることは難しい。1試合、2試合の映像だけで、打球が必ずそこに飛ぶとまで読み切るのは容易ではない。
そのため、私が内野5人シフトのような極端な守備シフトを敷くことは、おそらく今後も多くはないと思う。だからといって、あの作戦を否定しているわけではない。早稲田実業のように重要な局面で腹をくくり、実際に凌ぎ切るのはすごいことだ。ただ、自分が同じことをするかといえば、そこにはかなり慎重になる。外野をひとり削る以上、打球が抜ければ一気に試合が終わる危険性もあるからだ。
私が重視しているのは、事前のデータだけではなく、目の前で起きていることだ。バッターの立ち方やスイングの軌道、ピッチャーとのタイミング、相手ベンチの空気……。そういったものを見ながら、いま何を仕掛けてくるのか、こちらはそれをいかに防ぐのかを考える。ひらめきに見える判断であっても、何もないところから出てきたわけではない。試合前に見てきたものと、試合中に感じたものが重なったときに、ひとつの判断になるのだ。
本書でも触れたように、私は相手のスクイズを読むのは比較的得意なほうだと思っている。それでも、読みが外れることもある。相手の監督さんの采配のクセを見たり、ベンチの動きや空気を感じ取ったりする作業は普段から行っているが、すべてを読み切れるわけではない。読みには必ずリスクが伴うものだ。
「内野5人シフト」のような極端な策は、決まれば大きいが、そのぶん外れたときの傷も深くなる。賭けにも近い勝負の一手を選ぶ根拠と覚悟があるかどうか。そこまで背負えるかどうかが、監督に問われるのだ。
極意 其の四十四
私が重視しているのは、事前のデータだけではなく、目の前で起きていることだ。ひらめきに見える判断であっても、何もないところから出てきたわけではない。試合前に見てきたものと、試合中に感じたものが重なったときに、ひとつの判断になるのだ