「スクイズ外しは得意」名将明かす見抜き方 沖縄尚学・末吉を攻略した指示のコツは?
監督就任15年目で甲子園出場16回。そのうち優勝1回、四強2回、八強1回。恵まれない環境下に置かれながらも、いま高校球界で最も勝ち切れる指揮官が語る、日本一の采配論!敦賀気比高校野球部・東哲平監督の著書「常勝軍団・敦賀気比 勝利を引き寄せる采配 56の極意」から一部を抜粋して掲載します。
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好投手を攻略するための声のかけ方
末吉投手の持ち味は、力のあるストレートと切れ味鋭いスライダーである。とくに注意していたのが、低めのスライダーだった。あの球に手を出せば、相手のペースになる。逆にそのスライダーを見極めることができれば、こちらに流れを引き寄せられる。実際、うちの打線が低めをしっかり見極めたことで、末吉投手の投球は少しずつ乱れていった。
あの日はとても寒い一日だったので、末吉投手の投球も本調子とはほど遠かった。相手の状態に助けられた部分もあったと思う。ただ、それでも低めのスライダーを振らず、甘く入った球を逃さなかったことは、うちの選手たちが試合の中でやるべきことを徹底できた結果でもあった。
この試合で、私は選手たちに「低めのスライダーは捨てろ」と伝えた。「低めを見極めろ」ではなく、「捨てろ」である。似ているようで、この言い方には大きな違いがある。
「低めを見極めろ」と言うと、選手は慎重になりすぎることがある。低めを意識するあまり、甘い球まで見逃してしまう。打席の中で迷いが出ると、バッティングは一気に弱くなる。だから私は、あえて「捨てろ」と言った。低めのスライダーは振らなくていい。その代わり、甘く入った球には思い切っていけ。そういう意味を込めていた。
たとえ一球、低めに手を出してしまったとしても、そこで選手を責めすぎてはいけない。「低めは振るなと言っただろう!」と強く言えば、次は甘い球にも手が出なくなる。ピッチャーとの勝負で、バッターから思い切りが消えたら終わりだ。低めを捨てることと、消極的になることはまったく違う。その線引きを、ベンチからの言葉で伝えなければならない。
かといって、ただ「思い切っていけ」と言えばいいわけでもない。その言葉を、「何でも振っていけ」という意味に受け取る選手もいる。相手ピッチャーの特徴や球種、コントロール、試合の流れ、打席に立つ選手の性格などによって、声のかけ方は変わる。同じ内容を伝えるにしても、言葉の選び方ひとつで、選手の打席での姿勢は大きく変わってしまう。
この沖縄尚学戦は、その意味でも印象に残っている。攻略のポイントは低めのスライダーを捨てることだった。しかし、ただ待つだけでは勝てない。低めを我慢しながら、打つべき球にはしっかりコンタクトする。そのメリハリを持って打席に入れたことが、11得点につながったのだと思う。
私たちは準決勝で広島商に敗れた。試合は延長タイブレークまでもつれ込み、9-11で敗戦。広島商はその後、決勝で横浜に敗れて準優勝となった。明治神宮大会に出るたびに感じるが、この大会は特別な意味を持っている。秋の時点で、自分たちの力が全国レベルの相手にどれだけ通じるのかを知ることができるからだ。
だから私は、明治神宮大会では必要以上に小細工をしようとは思わない。もちろん、勝つための準備はする。相手ピッチャーの特徴も見るし、打線の狙いも整理する。ただ、根本にあるのは真っ向勝負だ。いまの自分たちが、全国の強豪を相手にどこまで戦えるのか。それを肌で知ることに、この大会の意義がある。
勝てば自信になるし、負ければ課題がはっきりする。自分たちはどのレベルにいるのか。センバツに向けて、この冬に何を鍛えなければならないのか。明治神宮大会は、それを教えてくれる貴重な場所なのだ。
極意 其の三十一
「低めを見極めろ」と言うと、選手は慎重になりすぎることがある。低めを意識するあまり、甘い球まで見逃してしまう。打席の中で迷いが出ると、バッティングは一気に弱くなる。ピッチャーとの勝負で、バッターから思い切りが消えたら終わりだ。