飛ばなかったゴールキックと動けなかったハーランド ノルウェーの快進撃を止めた不運と誤算【準々決勝・ノルウェーvs.イングランド】

吉田治良

連戦の疲労からだろうか。終盤には膝に手をつくシーンが多く見られるなど、この日のハーランドはやや精彩を欠いた 【Photo by Hannah Peters - FIFA via Getty Images】

 現地時間7月12日、怒涛の快進撃で今大会を沸かせる伏兵ノルウェーが、60年ぶり2度目の優勝を目指す強豪イングランドに挑んだ準々決勝の一戦は、延長戦にもつれ込む白熱のバトルとなった。プレミアリーグのスターが集い、アーリング・ハーランドvs.ハリー・ケイン、マルティン・ウーデゴールvs.デクラン・ライスなど、見どころ満載だったが、最終的に両者の命運を分けたのは、少しばかりの運と、そしてベンチのクオリティーだった。

「バイキング・ロー」に背中を押されるように

 28年ぶりに出場の大舞台で快進撃を続け、ラウンド16で王国ブラジルを撃破したバイキングの末裔たちが、今度はフットボールの母国までのみ込んでしまうのか。

 そんな予感は大いにあった。少なくとも、前半のアディショナルタイムを迎えるまでは――。

 世界最高峰プレミアリーグのスタープレーヤーが集結したノルウェー対イングランドの準々決勝は、互いに相手の出方をうかがう、にらみ合いのような立ち上がりとなった。ボールを握ったのはイングランドだが、高地アステカでのメキシコとの激闘から中5日で、スタートから無理はしない。一方のノルウェーも守備時は4-5-1で構えて縦のパスコースを消しながら、静かにカウンターのチャンスを狙った。

 試合が動き始めるのは、前半のハイドレーションブレイク明けだ。すっかりおなじみとなった「バイキング・ロー」の掛け声に背中を押されるように、ノルウェーが徐々に前からの圧力を強めていく。

 ノルウェーに先制点が生まれるのは、機動力のある“黒子”パトリック・ベルグがフォアプレスを仕掛け、イングランドのセンターバック、ジョン・ストーンズを慌てさせた直後の36分だった。

 ウーデゴールからのパスを受けた右SBのユリアン・リエルションがクロスを送り込むと、これにハーランドが得意のヘディングで合わせる。このシュートはGKの正面をつくが、ここから素早くカウンターに出ようとジョーダン・ピックフォードがケインにつないだボールを、プレスバックしたベルグが再び奪い返す。

 そこからウーデゴールが左に展開。決めたのは、ブラジル戦でハーランドの2つのゴールをアシストし、この日は3試合ぶりに左ウイングのスタメンに抜擢されたアンドレアス・シェルデルップだった。エリア内に進入して角度のない位置から左足で放ったシュートは、一度右のポストを叩いてからゴールに吸い込まれた。

ハーフウェイライン手前で急失速したゴールキック

ラウンド16のブラジル戦に続いて好セーブを連発したノルウェーの守護神ニーランだったが、不運も重なってベリンガムに2ゴールを喫した 【 Photo by Buda Mendes/Getty Images】

 その後も攻勢を続けるノルウェー。44分にはウーデゴールが自陣から放った糸を引くような弾道のスルーパスがアレクサンデル・スルロットへと渡り、決定的なシーンも作っている。

 仮に1-0のリードを保ったままハーフタイムを迎えていれば、おそらくノルウェーの勝機は広がっていただろう。

 アディショナルタイムの45+2分の失点には、おそらく小さくない不運も重なっている。

 GKエルヤン・ニーランが蹴ったゴールキックが、ハーフウェイラインの手前で急失速。天井のテレビカメラのケーブルに当たったとの説は、試合後にFIFA(国際サッカー連盟)が即座に否定したが、それが事実だと考えてもおかしくないほど不自然な軌道に映った。

 落下したボールをイングランドのエリオット・アンダーソンが余裕をもって拾い、左のアンソニー・ゴードンへ。グラウンダーのラストパスを中央で受けたのは、ジュード・ベリンガム。今大会を通じて、フィニッシャーとしての感覚が一段と研ぎ澄まされた印象を与えるナンバー10は、ボールを突くようにして運んで相手ディフェンダーを剥がすと、左足で同点弾をねじ込んだ。

 追いついたスリーライオンズはさらに45+4分、ライスが縦に差し込んだパスをベリンガムが小さく弾き、これに抜け出したケインがGKニーランの頭上を破る華麗なチップキックでネットを揺らす。これはオフサイドの判定でノーゴールとなったが、流れは確実にイングランドへと傾いていた。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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