スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

出てきて欲しい「ポスト誠也」 巻き返しに期待する2人のドラ1右腕 元広島スカウト部長が明かすドラフト秘話

永松欣也

メジャー行きがささやかれた頃からカープは鈴木誠也の後釜を探し続けているが… 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか?

 1977年から2024年まで広島のスカウトを務め、数多くの名選手を指名してきた苑田聡彦氏に、スカウト部長に就任した2006年以降の選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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“錚々たる顔ぶれ”から1位に選んだ栗林

苑田氏が思い切りの良さを買っていた栗林は不動の抑えに成長した 【写真は共同】

 2020年は早稲田大の早川隆久(楽天1位)、近畿大の佐藤輝明(阪神1位)、苫小牧駒澤大学の伊藤大海(日本ハム1位)など、錚々たる顔ぶれがいた年ですが、球団方針としては早くからピッチャーでいくことが決まっていましたから、佐藤の1位は最初からほとんど考えていませんでした。

 ピッチャーでは抽選覚悟で早川にいくことも選択肢にありましたが、怪我の多さが少し引っかかりました。高校生では福大大濠の山下舜平大(オリックス外れ1位)の名前も挙がっていました。体のサイズがあって真っ直ぐ速くて特にカーブが良かった。とはいえピッチャーが足らない時期でしたから、欲しいのは高校生ではなく即戦力。それでトヨタの栗林良吏でいこうとなったわけです。

 栗林はまず思い切りの良さがある。それとやっぱりカーブとフォークが良かった。先発のつもりで獲ったのですが、この年は抑えがいなくて佐々岡監督が開幕から抑えで起用しました。社会人時代に抑えをやったこともありましたが、まさかあんなにハマるとは思いませんでしたね。栗林の次の2位(天理大・森浦大輔)も3位(八戸学院大・大道温貴/現・ヤクルト)も大学生ピッチャー。それくらい即戦力が欲しかった年でした。

「誠也が近い将来メジャーに行くかもしれない」。ドラフトでも当然そこは考えました。ですが坂倉、中村、小園、林と若いバッターをそれまでに獲っていましたし、彼らがこれからどんどん伸びてくると期待していた時期でもありました。それでピッチャー中心のドラフトでいけると判断したわけです。

 4位もピッチャー、智辯和歌山の小林樹斗を指名していますが、当初は他の選手を予定していたんです。小林は腕の振りがしなやかで150キロくらい出るしコントロールも悪くない。スカウトの評価も高いピッチャーでした。ですが事前の想定では3位までには名前が呼ばれると思っていましたから、指名は諦めていたんです。それが4位まで残っていたから「いきましょう!」ということで急遽指名しました。

 1年目から一軍で先発もするなど期待も高かったのですが、怪我もあって5年で戦力外になってしまいました。今年から独立リーグで投げていますが、藤井皓哉(2014年4位)も独立リーグを経てソフトバンクで大活躍しました。小林にもここから巻き返してもらいたいと思います(※取材後にソフトバンク入団が決定)。

 6位が亜細亜大の矢野雅哉です。肩は良かったのですが「バッティングは中学生レベルや」と私は厳しい事を言っていました。大学時代に首位打者も獲っていますが、ほとんど全打席を見ていた私に言わせれば、ボテボテの内野安打ばかり。担当の松本は「足もあります。1試合6盗塁もしています!」と推していましたが、足もそんなに速くはないんです。矢野には失礼ですが「下位指名だし、まぁいいか」という、ほとんど「肩」という一芸で獲ったような選手でした。入団してからは、打てないのは想定通りでしたが、守る方では想定以上によく頑張っていますね。

 DeNAが2位で獲った中央大の牧秀悟はプロであんなに良くなるとは思いませんでした。打つ方は評価もされていましたが「プロでは守るところがない」と思って見ていました。大学時代はセカンド守備の横の動きが全然ダメでしたから。うちの二遊間には菊池、田中という守備の良い2人もいましたしね。それが今ではDeNAの主軸で侍ジャパンでもセカンドを守っています。守備範囲は広くはないけれど確実に捕る。セカンドであれだけ打てるなら守備はあれでもう十分です。本当に良い選手になりました。

惚れ惚れするバッターになった森下

カープが上位指名を考えていなかった森下は、阪神入団後に飛躍してやがては侍ジャパン入りするまでに 【写真は共同】

 2021年は誠也のカープでのラストイヤーになりますね(オフにカブスに移籍)。この辺の年から私はスカウトとしては一歩引いていましたから、そんなに選手のことをよく見ていない時代になります。

 3年目の林がホームランを10本打って、これから打線の中軸を担っていけるんじゃないかと期待しました。林が出てきたこともあって、誠也が抜けた後の打線はどうにかなりそう。それでドラフトでは即戦力の左が欲しくて、1位で西日本工大の隅田知一郎(西武1位)にいきました。それを外して法政大の左腕・山下輝にいって(ヤクルト外れ1位)、それも外して最終的に関学大の黒原拓未になりました。これはもう左で評価の高い順に指名したといったところです。天理の達孝太(日本ハム1位)も評価が高くて名前も挙がっていましたが、この年は特に左の即戦力が欲しかったですからね。

 2位でも同じ左腕の三菱重工Westの森翔平が残っていたのでいきました。黒原はどちらかというとリリーフ、森は先発を想定しての指名だったと思います。3位のトヨタの中村健人、6位の大阪ガスの末包昇大は、いなくなる誠也の後釜候補として右で大きいのが打てる打者が欲しかったということなのでしょう。

 2022年は前年の即戦力中心の指名から一転して、苫小牧中央の斉藤優汰を単独指名しています。これは年齢構成的にバランスをとって、高校生でイキの良いピッチャーでいったということ。斉藤は先発完投型でスケールの大きさを評価したのですが、入団後はプロの壁にぶつかっています。ボールが抜けることがあってコントロールに課題がある。ボールカウントを悪くしてストライクを取りにいったら痛打される。そういうところがまだあるようです。順調にきているとは言い難いですがまだ4年目。大学に進学したと思って、ここから巻き返して欲しいところです。

 2位が利根商業の内田湘大。体があって高校時代は投手もやっていて、誠也みたいになってほしいと期待して獲った選手です。練習は一生懸命やっていると思うのですが、量をこなすだけじゃなく、もっと考えてやっていかないといけない。内田あたりがそろそろ頭角を現してくれないとチームとしても困るんですけどね。

 誠也がメジャーに移籍したこの年、四番は外国人選手が打ったり、坂倉や西川が打ったりしていました。誠也クラスの穴は簡単には埋まらないものですが、結果論で言えばこの年は中央大の森下翔太(阪神外れ1位)がいたんです。東海大相模時代から覇気のあるプレーをしていて良い選手でした。ただ大学3年のときは良かったのですが4年になってあまり良くなかったというのもあるし、このときはバランス的に投打共に高校生の活きの良い選手でいく予定でしたから、森下の上位は考えていなかったと思います。

 どの球団もそんなに評価は高くなかったはずですから「阪神もよう外れでいったな」という印象でしたが、いまは惚れ惚れするようなバッターになりましたね。あれだけ打てる選手に阪神がよく育てましたね。

 その森下も高松商の浅野翔吾(巨人1位)の外れ指名でした。浅野の評価も最初は低かったのですが、春から夏にかけて評価が上がって担当スカウトが「ひょっとしたら2位か3位で指名されるかもしれません」と言っていましたから、まさか1位で競合するとは思いませんでした。うちは上位では考えていなかったですから。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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