采配では埋められない戦力差、ブラジルに逆転負けは妥当な結果 3人の識者による北中米W杯・検証座談会【前編】
ブラジルを追い詰めた価値は大きいが……
佐藤 厳しい言い方になりますが、負けるべくして負けたという印象ですね。多くの選手が「ここで終わるチームじゃない」という感触を得たのも事実かもしれませんが、たとえ相手がモロッコだったとしても、ここを越える力はまだなかった。その意味で、納得感はあります。
竹内 同じ意見ですね。一方で「これまでの32カ国制の大会ならグループステージ敗退だ」なんて言う人もいますけど、48カ国制のラウンド32敗退とはまったく意味合いが違うと思います。チームとして優勝を目標に掲げていたからこそ、試合の入りではブラジルを相手にしてもビビらず、真っ向勝負を仕掛けることができた部分はあったかなと。ただそれでもブラジルとの間には力の差があったし、時間が経つほどその差を感じました。ラウンド32敗退は不当な結果だとは思いません。
舩木 僕も妥当な結果だったと思います。ただし、決勝トーナメントの最初の試合で勝てなかったのは、これで3大会連続になりますが、前回のカタール大会のクロアチア戦、2018年のロシア大会のベルギー戦とは、同じ負けでも価値が違うなという印象です。ベルギーもクロアチアもすごく強いチームでしたけど、どちらもW杯で優勝したことのない国。それと比べると、過去優勝5回のブラジルはやっぱり格が違った。そのブラジルを追い詰めた価値は、負けはしたけれどかなり大きいと思います。
前回大会でクロアチアに負けた後はどこか悲壮感が漂っていましたけど、今回のブラジル戦後のリアクションを見ても、「やれることはやったけど負けてしまった」と、敗戦を冷静に受け止めている選手が少なくありませんでした。そうした姿からも日本代表は確実に成長しているんだと実感しました。
「まずは守備から」の立ち位置が変わらない限り
佐藤 例えば五分五分の戦力、あるいは6:4くらいの戦力差なら、それもできたかもしれませんが、僕は采配で埋められるような差ではなかったと感じています。結局「良い守備から良い攻撃」というチーム作りをずっとしてきたがゆえに、どうしても守備に重心が傾くというか、劣勢に立たされるとそこから反攻する力がないんだなと痛感させられました。後半にブラジルの(カルロ・)アンチェロッティ監督がサイド攻撃を強めるという策を講じたのに対し、森保さんが対応できなかったというよりも、そもそものチームの作り方自体がちょっと違ったのかもしれないという印象の方が現時点では強いですね。
いかにゴールを奪うかから逆算して選手の組み合わせを考えたのがロシア大会の西野朗監督でした。でも、ベルギー戦で2点のリードを守り切れずに敗れて、課題が見えた。その反省から新たにチーム作りに取り組み、カタール大会を経て修正を加えてきたこの8年の方向性は果たしてどうだったのか。この道の先に世界の頂点はあるのか。それとも現時点の日本のやり方という割り切りにおいての戦い方だったのか。一度、立ち止まってしっかり検証すべきだと思います。
――チーム作りのコンセプト自体に問題があったと?
佐藤 いえ、個人的には今の日本の力ではベストだったのだとも思います。特に決勝トーナメントに入れば、格上の相手ばかり。その相手に対して「まずは守備から」というやり方でこのW杯を戦っていく、世界に伍していこうとしたわけです。でも、その立ち位置が変わらない限り、軽々しく「優勝を目指す」ということは言えないんだなと思いました。
もちろん、それを口にしてはいけないとは言いません。でも、タークホース的な立場で戦うのと、対等な立場で戦うのとは大きく異なります。ブラジルが日本を舐めず、ちゃんと構えて迎え撃たれたら、こんなにも差が出るんだなというのが正直な印象ですね。オランダが日本に対してリスペクトしてくる戦い方をしてきた後で直接話を聞いたのですが、図らずも森保さん自身が「ここからはますます難しい戦いになる」と言っていたのは非常に印象的でした。
――選手交代を誤ったわけではなく、采配でひっくり返せるような差ではなかった、ということですね。
佐藤 それができる駒自体が、今の日本にはなかったと思います。
竹内 仮に後半の頭から中村敬斗に代えて鈴木淳之介を投入し、クロスの放り込みに先手を打ったとしても、きっとまたブラジルは別の手を打ってきたと思います。あのブラジルがなりふり構わずではなく、日本のリード時の振る舞いをきちんと分析した上で、ああいう戦いをしてきたんだろうなというのは、クロスを入れられ始めたときにすごく感じました。
逆にそれを想定したスタメンを組むこともできたかもしれませんが、最初からブラジルが放り込んでくるとは考えにくいし、まずはヴィニシウス(・ジュニオール)を抑えること、日本の足が残っている間に先制することを優先した選手起用には、整合性があったと思います。だから起用法というより、そのもっと前のところでリソースの限界があったということを本気のブラジルに突きつけられた、というのが現実でしょうね。