レジェンド岸本加入で注目のBリーグ京都 不人気クラブを「倍倍」に伸ばした35歳・松島社長の熱量と手腕
岸本は沖縄県出身の36歳で、14シーズンにわたって琉球でプレーしていた。5年連続のファイナル進出を果たしたチームの中心選手であり、象徴的存在でもあった。岸本の移籍はキングスブースターにとって寂しいニュースに違いない。一方でこれは京都の変化を示唆する現象の一つでもある。
「京都ハンナリーズを変えた」男が現在35歳の松島鴻太社長だ。彼が2022年に就任した時点で、このクラブは集客に苦しんでいた。2021−22シーズン(レギュラーシーズン)の合計観客数はB1最小で、要はもっとも人気の低いチームだった。その集客を1試合平均1230人→2704人→4345人と伸ばし、2023-24シーズンからは安定してアリーナが満席状態になっている。スポンサー売上も4年間で4倍近くに伸びた。「共に、登る。」というチームスローガンを具現化してきた。
一方でチーム作りは途上で、経営的にもまだ「伸びしろ」はある。彼らが低迷したチームをどう立て直すか? 新加入の岸本選手に何を期待するのか? スポーツビジネスにおけるハンデをどう克服したのか? 成長軌道に乗ったチームを、これから更にどう伸ばすか? 今回は松島社長の単独インタビューを通して、京都の今後を考えたい。
昨季の「課題」をどう克服?
松島社長は2026年1月に現任者に引き継ぐまで、GMとして苦境を背負っていた。彼はこう説明する。
「慌てて新しいGMを呼んで編成をするより、まず自分がやろうと思いました。長い目で見たとき、自分のGM経験がクラブの財産になると確信していたからです」
松島社長は元ラグビー選手。東海大仰星高、東海大、コカ・コーラレッドスパークス(現在は活動休止)とハイレベルなチームで活躍したスクラムハーフだった。とはいえバスケットボールは畑違いで、彼自身もまだ多くを「学ぶ」必要があった。
最初は「行ける」と手応えのあったGM業だが、彼は次第にその難しさに直面していく。
「交渉事は得意だし、選手ともこれまで対話していました。しかし苦しかったのは、ケガ人が出てチームが勝てなくなったときに、チームの問題を改善していくところです。私がしっかり環境、人間関係といった部分をちょっとずつ改善させなければいけませんでした。そういうコミュニケーションを会社でできていても、チーム現場で同じようにできませんでした」
チームが勝てないときには選手、スタッフに「何とかしないといけない」という思いが生まれる。それが建設的な方向に向かえばいいのだが、噛み合わなければ思いが逆効果になることもある。GMはそれぞれの意見を傾聴しつつ、「落としどころ」を探り、全体の流れを作る立場だ。営業を中心とした社長業もある中で、松島はそれを十分に果たせなかった。もっとも2026年1月からは、京都の元選手でもある村上直氏がGMを引き継いでいる。
もう一つ昨季の反省を活かさなければ行けないポイントは「ケガ人の抑制」「コンディションの維持」だ。
「昨季はケガで苦しみ続けたので、コンデショニングとストレングスに関する部分は改善します。機材、用具を増やしますし、トレーナーも2人から3人に増員しました。Bプレミアは過密日程になって、遠征も増えます。ケガを限りなく減らす準備をするし、ケガをしても1日でも早く、少しでもいい状態で復帰するようにする。できる限りの投資をそこに回しています」
何より大きいのは、10月に竣工する京都市南区の練習施設「Logisnext BASE(ロジスネクストベース)」だ。建設費用は約9億円で、費用は金融機関からの借り入れで調達している。今までの練習環境は公共の体育館で、しかも使えるのは午前中だけという条件だった。それがBプレミアでも最高レベルの施設に変わる。ウエイトトレーニング、シューティング、ケアや休養といったあらゆる部分で大きな前進だ。
「アイスバスもサウナもつけました。カロイアロは地元の銭湯でサウナに入っていたんですけど『銭湯に行かなくて済むようになった』と喜んでいます(笑)。自立して安定したクラブ経営をしていこうとすれば、拠点は必須でした。環境が整うと、選手のリクルートにも大きく影響を与えてきますね」
岸本獲得もサラリーキャップは使い切らず
「チームサイドで言うと『勝者のマインド』に大きく期待をしています。私たちは経営が安定して、やっと未来に投資ができるようになった。それを『登り始めるタイミング』の我々に注入できます。戦力的にもムーさん(伊佐勉HC)のボールシェアしながら攻めるスタイルの中で、クリエイトできる人間が少なかったところに対してハマります」
岸本は勝負強いシューターだが、京都ではハンドラーとしてゲームコントロール、クリエイトの役割も琉球時代以上に求められるだろう。ファンに向けてはこう述べる。
「一番移籍しないと思われている人が移籍して、京都を選んだ。それだけの意味があるはずで、僕たちクラブもリスペクトを持って彼を迎えたいです。ただファンの皆さんは、変に下から構えないでほしいとも思っています。僕自身もクラブとしても、プライドと自信を持って、正面から彼を迎えたいと考えています」
京都は2008年に創立されたチームだが、今までタイトルとは無縁だ。一方で良き文化を徐々に作りつつあり、チームの人気も定着している。「卑屈さ」はもう必要がない。
ファンクラブはグレードが上がるほどチケット購入の優先度が上がる仕組みだが、今季は初速で昨年比2倍のペースで入会者が集まった。また「岸本効果」なのか、沖縄県から京都のファンクラブに加入した人が数十人単位でいたのだという。
他の選手についていうとジャクソン、カロイアロの残留も発表されている。また外国籍選手の枠が広がった「もう一人」については、203センチの大型ウイング、デメトレ・リバースが加わる。アジア枠はビッグマンを獲得予定とのことだが、正式発表はもう少し先になる。
Bプレミアは8億円のサラリーキャップ(年俸上限規制)と5億円のフロアキャップ(年俸下限規制)が導入され、戦力均衡を意識したリーグになる。今季の人件費予算と目標を尋ねると、彼ははっきりした数字を示してくれた。
「選手人件費は、キャップ計算上6億円強になると思います。成績は最低でもCS出場です。正直まだ8億円を使える体力が無いです。ただ『4年以内に日本一』と掲げていますし、そのためにはいずれキャップを全額まで使いたい。スター選手条項を使えば上限はもっと上ですし、売上を伸ばすほど人件費に投じられることになります」
現ホームアリーナの京都市体育館(※2026年4月から「にっしんでんきアリーナ京都」に改称)は築63年の“ビンテージ”なアリーナで、収容人数にも限界がある。
「売上は4年で3倍近くになっているものの、まだ8億をそこに投じられない状況です。来シーズンはもう1億積みたいですし、2028-29シーズンの新アリーナ初年度は全額を使えるようなイメージの売上の推移を見ています」