「11.5ゲーム差なんて普通は無理」 中田翔が明かす2016年大逆転優勝の舞台裏

前田恵

2016年9月のペナントレース終盤、本塁打を放ち大谷翔平らに迎えられる4番・中田翔 【写真は共同】

 6月18日、首位とのゲーム差は11.5。誰もが優勝は遠のいたと思った。しかし、その翌日から球団新記録の15連勝。勢いそのままに大逆転優勝を成し遂げた2016年の北海道日本ハムファイターズは、なぜ奇跡を起こせたのか。当時四番としてチームを支えた中田翔が、焦りと重圧、そして「負ける気がしなかった」あの夏の舞台裏を振り返る。

「負ける気がしない」最強の空気が生まれた

大逆転優勝を遂げた2016年を振り返る中田翔 【撮影:スリーライト】

――2016年は、栗山(英樹)監督ものちのインタビューで「“優勝しかいらない”という思いで勝負に行った年だった」と振り返っています。シーズン前、その言葉は選手たちにも共有されていたのでしょうか?

 監督が僕らにプレッシャーをかけるようなことは、一切なかったですね。ただ、選手同士でも「今季は優勝しかないよね」という声が自然と上がっていましたし、その決意でシーズンに臨んだことは間違いありません。前年は貯金を17も作りながら、ソフトバンクに12ゲーム差をつけられての2位。「もう一度、頂点を勝ち取るぞ」という思いを、全員が強く持っていました。だから監督といちいち言葉を交わさなくても、「今、監督は絶対こう考えているはず。なら僕らはこう動こう」「こういう勝ち方を一つでも増やそう」と、選手間で常に話していました。

――そんな中、6月18日には首位・ソフトバンクと11.5ゲーム差まで開いてしまいます。ところが翌19日の中日戦から、球団新記録となる15連勝の快進撃。チームにどんな化学変化が起きていたのでしょうか。

 「11.5」なんて、シーズンの中盤や終盤でひっくり返せる数字じゃないですよ。みるみる離されていく中で、正直「ヤバい、ヤバい」と焦りばかりが先に立っていました。それがふと気づけば、「えっ、俺ら今、めちゃくちゃ勝ってない?」と。(あの勢いがついた)きっかけは、今も思い当たらないんです。流れを変えた試合やポイントは絶対あったはずなのに、どこと聞かれても僕らにも分からない。ただ5連勝、6連勝と白星が重なっていくころには、「なんか、負ける気しなくない?」とベンチで口々に言っていました。先発が立ち上がりに5点を失って早々に降板しても、「今日は負けかな」というムードにまったくならなかった。「いや、5点くらいならワンチャンいけるよね」と全員が信じていて、案の定ひっくり返す。チームもファンもイケイケで、その勢いのまま突っ走った15連勝でした。

――その中で、7月1日からのソフトバンク3連戦を3タテしたことが、逆転優勝への大きな弾みになったのでは?

 当時のソフトバンクは、本当に強かった。投手陣も盤石でしたからね。それでも自分たちが臆せず攻めていけたのは、「自分たちは絶対にできる」というマインドの選手が多かったからだと思います。

――王者・ソフトバンクに若い力が怖いもの知らずでぶつかった、というより、中田さんら2012年の優勝経験者とのバランスがうまく取れていた感じでしょうか。

 ベテラン、僕ら中堅、そして若手が、本当にうまく噛み合っていましたね。12年にレギュラーを張っていたメンバーは、「この3連戦で2つ取っておけば、次のカードは最悪1勝2敗でもトントンだ」とか、わりと細かく計算していたんです。一方で下の子たちは、もうイケイケ。「失敗したっていいじゃん」くらいの気持ちで飛び込んでいく。僕らも普段から「負けてもお前らの責任じゃない。背負うのは俺ら年長のレギュラー陣。だから恐れずやれ」と声をかけていました。近ちゃん(近藤健介)も(西川)遥輝も、その言葉どおり伸び伸びやってくれた。僕自身、12年には稲葉(篤紀)さん、金子(誠)さん、小谷野(栄一)さんといった先輩から「翔、もっと伸び伸びやれよ」と背中を押してもらいましたから。あの縦のつながりが、当時の日本ハムの大きな財産でした。

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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