スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

「まさかここまでの選手になるとは」阪神スカウトの眼力に脱帽したドラ2指名 元広島スカウト部長が明かすドラフト秘話

永松欣也

明治大の坂本誠志郎を2位指名した阪神のスカウトに脱帽したという苑田氏 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか? 1977年から2024年まで広島のスカウトを務め、数多くの名選手を指名してきた苑田聡彦氏に、スカウト部長に就任した2006年以降の選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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「よう2位でいったな」と思った

 2015年は緒方孝市監督の1年目、4位で終わったシーズンでしたが、田中、菊池、丸がいて黒田と新井が帰ってきた。そこに誠也も頭角を現しはじめていましたから、長い長い低迷期を脱して明るい光が見えてきた頃ですね。ただオフにはマエケンがメジャーへ移籍することがほぼ分かっていましたからドラフトで欲しいのはやっぱり即戦力のピッチャーでした。それで1位は大商大の岡田明丈、2位ではNTT東日本の横山弘樹でいきました。

 1位で岡田と迷ったのが立命大の桜井俊貴(巨人1位)で、どちらでいくかスカウト会議でも話しました。最終的に岡田になったのは体格もあるし、球が速くて落ちるボールもあったから。岡田は2年目に12勝、3年目にも8勝して期待に応えてくれましたね。ですが横山とともに2人とも肩を壊してプロで長くやることができませんでした。

 この年は駒澤大に今永昇太(DeNA1位/現カブス)がいましたが、スカウト会議で名前は挙がっていませんでした。大学入学直後のオープン戦で見たときは「こんなピッチャーおったんか!」とビックリしたんです。今と同じで球持ちがよくてボールにキレがありました。太田誠監督(当時)に聞いたら福岡の北筑高校という無名校から来たという。順位はさておき「3年後に騒がれるピッチャーになるだろうな」とこの時は思いました。ただ最終学年で肩か肘を痛めていたでしょう? それでカープの候補に名前が挙がって来ませんでした。

 この年のピッチャーで1番人気は県立岐阜商の髙橋純平(ソフトバンク1位)でした。「面白いピッチャー」とは思いましたが「良いピッチャー」とまでは思いませんでしたし、担当も推してきませんでした。同じ高校生では左の小笠原慎之介(中日外れ1位/現・巨人)もいましたが、カープが放れなかったのが引っかかりました。東海大相模の門馬敬治監督(現・創志学園監督)にも「カーブを教えた方がいいよ」と話したことを覚えています。

 5位で獲ったのが王子の西川龍馬(現・オリックス)です。社会人ではショートを守っていましたが、守りはそんなに評価しておらず、評価したのはバッティングでした。西川はワンバウンドするようなボールをすくうように上手く打つ。あのリストの使い方が良かったですね。力強いリストの使い方じゃなくて柔らかい使い方ができていました。

 プロに入ってからは昔の金本くらい、ものすごく練習していましたよ。誠也も西川もそうですが、やっぱり猛練習する選手は伸びるものです。

 4位では王子のキャッチャー・船越涼太を指名しましたが、阪神は同じキャッチャーでも明治大の坂本誠志郎を2位で指名しています。坂本は肩も強くなかったですし、大学では2割も打っていなかったように思います。私は全然評価していませんでした。

 明治大の選手は毎年よく見ていますが「これがプロにいくんか? よう2位でいったな」と正直思いましたよ。それがこの前のWBCでは日本代表に名を連ねるまでになりました。インサイドワークとキャッチングが良いし、ほとんど後逸をしない。バッティングもここぞの場面でよく打つ。良いキャッチャーになりました。まさかここまでの選手になるとは思わなかったですよ。これは阪神のスカウトが素晴らしかったということですね。

「こんな高校生がおるんか!?」と驚いた坂倉

苑田氏はプロ入り前の坂倉について、バッティングよりもキャッチャーとして高く評価していた 【写真は共同】

 25年ぶりにリーグ優勝した2016年。主力として優勝に貢献した田中、菊池、丸、誠也、松山、野村、中﨑......。みんな逆指名制度が廃止された2007年以降に指名、入団した選手達でしたね。

 この年の1位は創価大の田中正義(ソフトバンク1位/現・日本ハム)でいきました。複数球団が入札するのは分かっていましたが、それでも獲りにいく価値のあるピッチャーだと思いましたから、「田中1位」の方針は早くに決まっていた記憶があります。

 結局5球団が競合して外して、外れ1位が桜美林大の佐々木千隼(ロッテ1位/現・DeNA)。佐々木は球持ちがよくて手元でピュッとくるキレが良かった。ですが佐々木にも5球団が競合して外して、最終的に慶応大の加藤拓也(現・拓也/ヤクルト)になりました。

 高校時代から注目していた東京ガスの山岡泰輔(オリックス1位)もいましたが、いくら地元出身だといっても田中に比べるとスケール感がどうしても劣って見えました。あとはネット裏から見ていると投げる球種が全部分かるんです。そういうのもあってちょっと1位では厳しいかなという評価でした。

 高校生でも作新学院の今井達也(西武1位/現・アストロズ)、横浜の藤平尚真(楽天1位)の名前も挙がっていましたが、前年にマエケンが抜けて黒田もこの年で引退したことから、欲しかったのはやっぱり即戦力でしたね。

 阪神が1位でいった白鴎大の大山悠輔もカープではそんなに名前は出ていませんでした。体にキレがあるように見えなかったですし、4年目の誠也がこの年ホームランを29本打っていましたから、上位で野手を獲るつもりもありませんでした。

 3位では中部学院大の床田寛樹を獲っています。私はビデオで見ただけでしたが、担当が推していました。オーナーも気に入って、他球団も上位で来そうな動きもなかったことから、早くから「3位は床田」と決まっていました。

 4位が日大三のキャッチャー・坂倉将吾。坂倉はプロに入ってからバッティングでまず注目されましたが、高校時代は肩が良かったんです。キャッチングも良くて捕ってから投げるまでも速い。「こんな高校生キャッチャーがおるんか!」と思うくらい、キャッチャーとしての評価が高かくてバッティングはその後に急に良くなった印象です。入団してからは打つ方ばかりが注目されていたので「おいおい、キャッチングも見てくれよ」と思っていましたよ(笑)。

 1年目から二軍で結構打って、一軍でも初安打を打った。プロであそこまでバッティングが良くなるとは思っていなかったですね。キャッチャーとしてもセカンドに良い球を放っていましたが、近年は盗塁が刺せなくなりました。そういうこともあって今はファーストやサードで出ているんでしょうね。

 キャッチャーとして大成して欲しかったですから、今の成績というか、その後の成長度合いは私にはもの足らなく映ります。もっと成績を残せる選手なんです。その辺がちょっと見ていて歯がゆい思いです。

 DeNAが9位で指名した明治大の佐野恵太は、カープでも指名を考えていた時期がありました。評価でいえば5位くらいだったと思います。やっぱりバッティングが良かったですからね。でもポジションがファースト。ファーストだと外国人選手とバットの勝負になりますから、使うなら外野だと思っていました。

 でも本人が外野はできないと言ったか、ファーストをやりたいとか言ったか、ちょっと記憶がおぼろげですが「ファーストしかできないなら厳しい」ということで指名を見送りました。プロ入り後はDeNAで普通に外野をやっていますけどね(笑)。佐野の指名は高田繁GM(当時)のファインプレーですよ。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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