泥沼のホンダF1 なぜ同じ失敗を繰り返すのか

柴田久仁夫

マクラーレン・ホンダの初年度より酷い

カナダGPスプリント予選でクラッシュを喫し、ガレージに戻るフェルナンド・アロンソ 【Photo by Peter Fox/Getty Images】

 まさに泥沼というべきだろう。アストンマーティンとホンダの挑戦は、今のところまったくうまくいっていない。開幕7戦を終えて、入賞はモナコGPでの10位のみ。予選では最後尾争いを繰り返し、レースでは完走すらままならない。それがアストンマーティン・ホンダの現在位置だ。かつてフェルナンド・アロンソに、「GP2エンジン」と揶揄された2015年のマクラーレン・ホンダ初年度ですら、ここまで悲惨ではなかった。

 アロンソにしてみればマクラーレン時代に続き、ホンダには二度目の裏切りにあった、という思いかもしれない。世界最高峰の技術集団として、これまで何十年間もライバルメーカーと鎬(しのぎ)を削り、何度も栄光の頂点に立ってきた。そのホンダが、なぜこれほどまでの苦戦を強いられているのか。原因は単純なパワー不足や、信頼性の問題だけではないようだ。

チーム内に渦巻く不協和音

どことなく沈滞した雰囲気のアストンマーティン・ホンダのガレージ 【(C)柴田久仁夫】

 長年付き合いのあるアストンマーティンのベテランエンジニアが、あるレース週末、珍しく自分の方から話しかけてきた。普段は寡黙で、チーム内部の話を外に漏らすような人物ではない。ところがその日、彼の口から出てきたのは、驚くほど率直な不満の数々だった。

 彼によれば、ランス・ストロールの父で実業家のローレンス・ストロールがチームを完全買収して以降、不可解な人事異動が相次いでいるという。たとえばチームの前身であるフォースインディア時代、ごく限られた予算内で高い戦闘力のマシンを作り上げてきた開発エンジニア、あるいはレース経験豊富な現場エンジニア、そんなベテランたちの多くが去年から今年にかけ退職させられたり、閑職に追いやられたとのことだ。

 「代わりにローレンスは、トップチームから多くの上級エンジニアを高給で引き抜いた」。「しかし私に言わせれば、ほとんどの人は古巣での成功体験を自慢するばかりで使い物にならない。そもそも本当に有用な人材なら、前のチームが引き留めるはずだ」。そして最後に、「チーム内は今、ローレンスとエイドリアン(ニューウィ)の顔色を窺う人間ばかりになってしまった」と嘆いた。

 その話を聞く限り、アストンマーティンの問題は単なる技術的失策ではなく、組織そのものの機能不全としか思えない。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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