佐々木麟太郎は「将来の学生たちのため」にも決断を下す MLBドラフト直前、自ら価値を高めた2年間の答えとは?【後編】
本拠地への招待が意味するもの
ドラフト指名候補の選手らを集めてのプライベートワークアウト。そのパターンはさまざまで、地域ごとに行われたり、その球団のスカウトがその大学や高校へ出向くこともあるが、わざわざ本拠地に招待されたことの意味は、あえて説明するまでもない。
当日は、打撃練習、守備練習のほか、室内でスイング軌道や、打球データなどの計測も行われたようだが、通常なら、GM(ゼネラルマネージャー)らとの面接までがセット。
MLBのドラフトは日本と異なり、上位指名候補選手の場合、チームによって何巡目までそうするかは異なるものの、事前に球団が本人や代理人と接触し、入団意思や契約金の希望額を確認することが認められている。ドラフト後の交渉期間が限られており、指名後の交渉をスムーズに進めるためだが、そこまで見据えるなら、プライベートワークアウトは互いにとって重要なファーストコンタクトとなる。
22日から行われるMLBドラフトコンバインも、NFLのコンバインのような身体能力テストを想像しがちだが、MLBの場合はむしろ面接の場としての意味合いが強い。そこにも招待された佐々木は今月、ドジャース以外からもプライベートワークアウトの打診を受けており、そうした事実を総合すると、現在地を察することができる。
本人は物足りないと思っているかもしれないが、注目されるのに相応しい結果を残し、それは決して偶然でもない。
前回、佐々木の打撃面での成長に触れた際、こんなやりとりを紹介した。
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それは昨年の話だが、今年は、シーズン最後のシリーズとなったカリフォルニア大バークリー戦で、こう言葉を弾ませた。
「調子の波のサイクルはかなり短くなっています。今日は少し感覚が良くない部分もありましたけど、その中でも最低限のレベルを下げないことを意識していて、去年と比べると、そこはかなり改善できていると思う」
その波を小さくする上で、どんな工夫があったのか。先日、1時間以上、じっくり話を聞く機会があった。
するとその要素を佐々木は、3つのポイントに分けて説明してくれた。
①マインドセット/メンタルコントロール
「去年は打てなくなってくると、やっぱり練習で改善しようとして、試合後もケージに残って夜遅くまで打ったりしていましたけど、今年は、もちろん追い求めるのも大事なんですけど、どれだけ割り切れるかっていうことを意識していました。もちろん、いい日もあれば、悪い日もある。打てる日もあれば、打てない日もある。自分自身、ベスト尽くしても、結果が出ないことがある。それに対してどれだけ自分自身を納得させられるか。そう考えることが、結構役に立った。英語で、「こいつすげえなって、どんな日でも同じやつだな」(Same guy every day)という言い方がある。次の日に引きずらない。そのマインドセットが役立った」
②各打席でも同様に
「1打席1打席、内容に対してもリセットできるよう心がけました。打席ごとでシチュエーションも変わってきますし、攻め方も変わってきますし、前の打席を引きずったり、考えすぎたりしないように。とにかく目の前のことに集中する。前の打席は三振でも、次の打席のことを考えるというふうにしたら、感覚が良くなった」
③技術をシンプルに
「技術に関して、今年は考え方をシンプルにして、試合前のルーティンとかも統一したりとか、もちろん、多少変えたりはしますけど、必要なら、という程度で、大体はシンプルにして、ある程度のやることを決めて、考えすぎず試合に臨むようにしました」
打てなければもがきたくなる。しかし、そんなとき、あえてバットを置いてみる。ちょっとした切り替えで、見えなかったものが見えることがある。それを打席ごとでも心掛け、技術も、必要があれば修正するが、築き上げたものに自信を持ち、貫いた。
三振の“質”が変わった
「去年と比べるとネガティブな三振が減って、割り切れる三振が増えた。三振の質としては去年より間違いなく上がっていると思います」
どういう意味か?
それも今回尋ねると、「去年、三振したカウントは1-2だったり、0-2が多かった。それを3-2まで持っていけるようになった」と説明した。
フルカウントまで粘れるということは、それだけ投手に多くの球数を投げさせ、四球の可能性も高めることを意味する。結果は同じ三振でも、その過程における主導権は大きく異なる。
「もちろん、フルカウントで三振するのは悔しいんですけど、(追い込まれても)こっちが主導権を握れる展開にまで持っていけるようになった。そこは去年と比べて、成長できたところ」
続きを促すと、さらに駆け引きの妙を口にした。
「やっぱり打者って、特に長距離打者の場合、どれだけカウントを作れるか、主導できるか。3-2まで持っていくと、球種もだんだん絞れて、チャンスも増えていく。さらに、相手にもプレッシャーをかけられる。フォアボールは出したくないでしょうから」
カウントをマネージメントできるようになった要素の一つとして佐々木は、「高めのつり球にバットが止まるようになった」ことを挙げた。
「それだけでも三振の内容っていうのが、去年に比べると格段に良くなった。とはいえ、3-2でボール球を振ることもあったので、そこは来季の課題ですね。どう生かしていくか、自分自身、改善の余地があると思っています」
そうした一つひとつの手応えは、結果にも繋がった。主な数字だけ列記すると(カッコ内は昨季)、今年は54試合に出場し、打率.262(.269)、OPS.952(.790)、16本塁打(7)、50三振(47)、出塁率.403(.377)、長打率.549(.413)と打率を除いて、ことごとく成績がアップ。三振の数がほとんど変わらないのに、長打率が上がっていることは、評価のポイントとして高い。
MLBでは、一塁手や指名打者の場合、守備の貢献度が低く見積もられるため、打撃に対する要求水準は高くなり、それはドラフトの評価でも共通するところだが、これがACC(アトランティックコーストカンファレンス)の結果となると、話が違ってくる。
アメリカの大学は、一部を除いて、どこかのカンファレンスに属している。そのカンファレンスによってレベルの差が大きく、MLBのスカウトはそこを加味するので、例えば、彼が今季残したOPS.952という数字は、中堅カンファレンスのそれとはまるで価値が異なる。
スタンフォード大のほか、ジョージア工科大、ノースカロライナ大、フロリダ州立大などが所属するACCは現在、ルイジアナ州立大やヴァンダービルト大などが属するSEC(サウス・イースタン・カンファレンス)に次ぐ全米屈指のレベルとされ、その中で16本塁打、OPS.952を記録したことは、単なる好成績ではなく、スカウトがドラフト上位候補として評価するに十分な実績と言える。
あるチームのスカウトも、こう評価した。「ACCの16本塁打なら、パワーヒッターとして評価される。打球初速も速い。5巡目前後、いや、それよりも早く彼の名前は消えるかもしれない」