「心が折れかけた」小笠原慎之介が巨人入団を決めた舞台裏 「野球をやめることも考えた」悪夢の日々を越えて
2Aで突きつけられた現実
巨人への入団が決まった小笠原慎之介から連絡があったのは、4月下旬のこと。3Aローチェスターに上がったばかりだったが、実はそこに用意された先発の枠はなく、役割としては、けが人の代わり、あるいはダブルヘッダーで先発が足りないときに投げるスポットスターター。それはすなわちメジャー昇格の道から外れていることを意味し、小笠原はその現実と向き合っていた。
「3Aに上がって“アピールを”と思ったのですが、枠がないと言われたら、(昇格の)可能性がゼロに近いのかなって」
5月1日、ガーディアンズ傘下の2Aアクロン戦で先発。その試合には、複数の日本球団のスカウトらがネット裏に陣取っていた。その時点で、今回の流れは時間の問題だったのかもしれない。
そもそもは昨年、彼を獲得したマイク・リゾGMが解雇され、GMだけでなく、監督、投手コーチらが総入れ替えとなったことで、この流れは始まっている。球団の方針が変わり、投手の能力評価において、繊細な投球術というより、分かりやすく球速が重視されるようになった。小笠原は、昨年の4シームの平均が91.1マイル。最速は93.8マイルだったが、その最速値付近まで平均を上げることを求められた。
「もちろん、上げようと取り組んできましたけど、平均で2マイルって、簡単じゃないですからね」
5月1日以降、小笠原は2Aで7試合に先発。40回2/3を投げ、29安打、11失点(自責点10)、10四球、42三振、防御率2.21。2Aの投手陣の中では、突出した数字を残していたものの、小笠原に声がかかることはなかった。
「こうなったら上がるとか、明確な言葉もない。結果を残しても同じ。ああ、そういうことか、となりますよね」
改めて小笠原は、現実を知ることになる。このチームではもはやチャンスがないことを。
いや実際は、ナショナルズも小笠原の好投に目を向け始め、昇格を検討し始めた矢先ではあった。しかし、それを言葉にして伝えるコミュニケーションが十分だったかといえば、そうではなかったのかもしれない。
背景をたどると、ボタンの掛け違いという側面も透けるが、皮肉にもそれが、小笠原にとってモチベーションになった。5月の数字についてはすでに触れたが、メジャーに行けず、くすぶるベテランも多い3A以上に2Aには、各チームのプロスペクトが揃っている。結果を出すことは、2Aだからといって容易ではないが、小笠原はそこにこだわった。
「他の29チームが見ているかもしれない。日本の12球団が見ているかもしれない。だから、2Aに来てからは、とにかく自分のレベルアップに集中しました」
逆境でこそ、その選手の真価が問われる。やる気を失って不満を漏らすのか。誰かのせいにするのか。ただ小笠原は、「これも自分の蒔いた種」と割り切り、どうしたら自分で刈り取れるかを考えた。
「野球をやめることも考えましたけどね」
それはしかし、それまでの自分を否定することになる。そこで踏ん張った。結果さえ残せば、他から声がかかるのではないか。結果的に、「必要とされるところで投げたい」という心の奥底の叫びを汲み取ったのは、ナショナルズではなく、巨人だった。
※フォローすると試合の情報などを受け取ることができます。(Yahoo! JAPAN IDでログインが必要です)
詳しくはこちら