「1点差なら追いつける」と誰もが信じた オランダ戦で示した日本サッカー進化の証

舩木渉

メッセージが明確だった采配

オランダの重心が下がったのを見逃さず、森保監督(中央)の積極的な采配が試合の流れを変えた 【Photo by Jose Breton/Pics Action/NurPhoto via Getty Images】

 サマーフィルのゴールで2度目のリードを手にしたオランダは、70分に3枚替えを敢行。メンフィス・デパイ、クエンティン・ティンバー、そしてトゥーン・コープマイネルスの3人を投入してきた。この交代によってチームの重心が下がった上、前線の守備強度が落ちたことを日本は見逃さなかった。
 
 森保監督は、久保建英が左膝を痛めてプレー続行不可能になったタイミングでオランダ同様に3枚替えを決断。75分に久保、渡辺、堂安を下げて小川航基、冨安、菅原由勢を送り出し、システム変更で相手により強い圧をかけながら同点を目指していく策を打ち出した。
 
 この交代で「僕とユキ(菅原)と小川くんが入って2点を取りに行くよというメッセージは明確だった」と、冨安は振り返る。指揮官からの意図は、もちろんピッチ内の選手たちに届いていた。
 
 谷口は言う。
 
「交代に対するメッセージ性は感じましたし、前にパワーのある選手が入ってきて、彼らを生かして人数をかけやすくはなったので、圧はかけられたかなと。その流れでセットプレーを取れて、そのセットプレーで追いつくことができた。そうしたベンチワークも含め、ピッチ内の選手たちへのメッセージや、それへの理解は、W杯の初戦でしたけど、しっかり落ち着いてみんなで理解しながらやれたと思います。そのための準備が良かったからこそ、最後はああいう展開に持っていけたところもあると思います」
 
 オランダは日本をリスペクトした戦い方で挑んできた。前半から鎌田大地と佐野海舟のダブルボランチにはティジャニ・ラインデルスとライアン・フラーフェンベルフをぴったりとつけてきたのが象徴的た。2点目を奪った後に重心が下がったのも、反撃を警戒してのことだろう。
 
 冨安らの投入によって、日本代表は攻撃時に4バック、守備時に3バックとなるような可変システムにシフト。一方でオランダは81分にフラーフェンベルフを下げてDFのナタン・アケを起用し、4-3-3から5-4-1にシステムを変更した。さらに84分にはブライアン・ブロビーの途中出場によってデパイが最前線から左サイドへと移動すると、日本から見た右サイドの守備強度が著しく低下。結果的にはこの采配がオランダにとって勝ち点3を逃す最大の要因になった。


 そうした流れをディフェンスラインの中央から見極めていた谷口は「(相手が)守りにきたことでボールは持ちやすくなったし、押し込みやすくなった」と感じ、「ここはパワーを持っていける」と、相手ゴールに向かっていく勢いを強めていった。
 
「(菅原)由勢が入って精度の高いクロスを上げられるし、(伊東)純也の突破も含めて要所でストロングポイントを生かすことはできたと思うので、展開的にも最後に押し込むことができて追いつけたのは、かなり自信になったと思います」

「誰が出ても」強い信頼関係で結ばれている守備陣

途中出場した冨安(右)ら、誰が出ても守備陣は強い信頼関係で結ばれている 【Photo by ANP via Getty Images】

 終盤の同点に至るまでの流れをスムーズに作れたのは、ディフェンスラインが2失点しても“崩れなかった”ことが大きく影響していたはずだ。先に述べたように「1点差を保っておけば……」という自信があったからこそ精神的なダメージを最小限に抑え、采配によるメッセージを正確に解釈しながら冷静にゲームを進めることができた。
 
「(前半から)堅い展開になるというか、僕らからすれば堅い展開にしたい狙いもありました。チーム全体として、そこの意思統一がしっかりできていたと思いますし、取りにいくのか、それとも勝ち点1なのかは全体で共有できていた。もちろん勝ち点3がベターではありますけど、展開的にも勝ち点1を取れたのは大きいかなと」
 
 そう語った冨安は「悪い意味で捉えないでくださいね」と前置きしつつ、世界トップ10の実力を持つオランダは「スマートに言えばリアリスティックになるべき相手だった」と説いた。
 
「もちろん勝ち点3がいい。でも、勝ち点3を取りにいってゼロになるよりは間違いなく勝ち点1の方がいいですし、今大会のレギュレーションも変わりましたし、そういうのも含めてポジティブに捉えるべきポイントだったと思います」
 
 4年前のカタールW杯では、ドイツやスペインに対して徹底的に守ってカウンターで1点を狙っていく戦い方が精いっぱいだった。それから時間とともに個々が成長し、チームとしてもW杯常連の強豪国と対等に渡り合って、主体的な戦いで勝ち点をもぎ取りにいけるという自信をつけることができた。多くの選手がカタール大会の経験も持っていて、それを周りにも還元しながら信頼関係を構築してきてもいる。
 
「森保監督も言っていますけど、個人のクオリティが戦術をもっと強くする。前回のW杯で負けてから、(個を)もっと伸ばすところを意識してきましたけど、そこは今の日本代表にすごく効いていて、一人ひとりのところで負けないのが前提での戦術だと思います」
 
 そう語った渡辺のように、とりわけ守備陣は戦うステージがカタールW杯以降の約3年半で一気に高くなり、人材も豊富になった。競争が激しくなると同時に、強豪国との対戦を通して「今は守備陣で誰が出ても同じくらい結果を残している」との手応えをつかんで、それぞれが強い信頼で結ばれるようになった。

 後ろが安定すれば、前は思い切って自分の武器を発揮できる。谷口がしっかりと手綱を握ってコントロールしたオランダ戦のディフェンスラインは、W杯の舞台でも最後の最後まで崩壊することなく勝ち点1の確保に貢献した。「今までだったら1点取られてけっこう絶望的だったところが、『今はまだ全然大丈夫だよ』という認識はみんなにある」と渡辺が言ったように、最後まで心の余裕を保ったままプレーできたのは日本サッカー進化の証だ。

コスタリカ戦の失敗を繰り返してはならない

前回大会は2戦目でコスタリカに敗戦。チュニジア戦ではこの失敗を繰り返してはならない 【Photo by Evrim Aydin/Anadolu Agency via Getty Images】

 その上で重要なのは「次」だ。カタールW杯ではグループステージ初戦でドイツに勝利した後、大きくメンバーを入れ替えた第2戦でコスタリカに敗れて難しい状況を作ってしまった。その失敗を絶対に繰り返してはならない。
 
 冨安は「次でしっかりと勝ち点3を狙いにいくべきところだと思うので、そこの意思統一をまたチーム全体でやりたい」と語気を強める。
 
「次の試合も絶対に簡単ではない。前回大会では足をすくわれていますし、そういう前回大会の経験を知っている選手たちもいる。それを生かさないと意味がないので、またしっかりと準備したいと思います」
 
 オランダ戦の勝ち点1をポジティブに捉えてはいるが、喜びすぎることはない。谷口は「オランダに勝ち点3を取らせなかったという意味で、この1ポイントは大きいと思いますけど、これを生かす、生かさないということでは、次の試合が大事になる」と気を引き締めていた。自信を胸に次へ。安定感抜群のディフェンスラインが日本の勝ち上がりを支える砦となる。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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