異次元の後藤大樹、隣のレーンで感じた衝撃 男子400mハードル「黄金時代」の予感
「あいつ、やばいっすよ」
13日の予選終了後、東京五輪代表の実力者・黒川和樹(住友電工)は、ただただ驚愕していた。
「『負けてらんない』っていう気持ちより、純粋に『あいつやばくない?』みたいな。48秒3はちょっと桁違いっすね」
黒川が戦慄した「あいつ」とは、もちろん17歳の高校生・後藤のことだ。予選2組目に登場した高校2年生の新星は、48秒31という異次元の走りを披露。それはU18世界新記録であり、あの為末大さんが保持していた高校記録を実に30年ぶりに塗り替える、歴史が動いた瞬間だった。そしてその24時間後、黒川は誰よりも近いところで、その衝撃を体感することになる。
14日に行われた決勝。黒川はスタート直後から猛然と飛ばした。全10台のハードルのうち、2台目、3台目と誰よりも早くクリアしていく。「積極的に自分のレースができた」と振り返る通り、バックストレートまでは完全に黒川の逃げ切りパターンだった。
しかし、異変は終盤に起きた。
「8台目くらいでちょっと(ハードルに足を)ぶつけちゃって、そこで『あれ?』と。3台目くらいで食った(先行した)記憶があったので『あの辺にいるやろな』と思ったら、すぐこの辺にいて。『あ、やばい!』と思ったら、もうピョンピョンって」
黒川に迫った後藤は、そこからさらに加速した。
「『いる、いた、あ、どっか行った』みたいな(笑)。ホームストレートではもう、いつの間にか視界から消えていました」
後藤が後半に強いタイプだと分かった上で、前半から勝負を仕掛けた。「シニアの世界を見せてやろうかなと思ったら、逆に見せられました」と、黒川は清々しい顔で振り返った。
高校生離れした冷静さ
「日本人は前半(から力を)出して、5台目から切り替えて、最後に耐えるというのが結構根付いちゃっている。みんなそういうレースプランでやってくる。けど後藤君は、前半に力を使わずにホームストレートまできて、9台目、10台目くらいから一気にギアチェンジするのがやばい。日本人じゃないレース。おもろいです」
常識を覆す走りを、当の本人は恐ろしいほど冷静に実行していた。
「黒川さんは前半からくるだろうなと思って、自分のリズムが崩れないようにカーブで上手くついていきました。そこからラスト100mは、自分のスプリントは自信があるので、勝負だっていう気持ちでした」
決勝前の練習でも自身の疲労具合を冷静に考慮し、ルーティンを少し変えて軽めのアップにとどめたという。100mで10秒49、200mで21秒12のスピードを持つ17歳は、「今のところヨンパー(400mハードル)で考えていますが、100mのスピードだったり、そもそも400mの走力だったり、そういったところをどんどん磨いていって、高校の時代は飛躍していきたい」と前を見据える。
一方で、ピットを離れれば愛らしい高校生の素顔が覗く。
偉業を達成した前夜、指導を受ける柴田(博之)先生から「何食べたい?」と聞かれ、「うなぎ食べたいです」と答えて特上をごちそうになった。普段のオフは友達とカラオケに行き、帰り道にはコンビニでお菓子を食べながら帰るという。「高校生らしからぬ冷静さ」と「普通の高校生らしい素朴さ」。このバランスこそが、大舞台でも緊張に潰れない彼の強みなのかもしれない。