栗山巧 独占手記2026「ファンに伝える志」

「打撃の神髄」は誰かに引き継げるものなのか 栗山巧、一軍で得た新しい感覚と残された時間と

栗山巧

僕の打撃は、行きつくところ僕だけのものだから…

踏み込みの右足をどう使うか?現在栗山のテーマとなっている 【写真:熊谷仁男】

 それにしても、こういう新しい取り組みをどこまでやっていくのか、というのは悩ましいところではあります。僕に残された時間には限りがある。その中で形にならない取り組みは、優先度を下げざるを得ない。

 もしもこれが、誰かに引き継いで続きをやってもらえるようなものであれば…。

 自分に残された時間の中で、可能な範囲で取り組むことにも価値があるかもしれません。でも、あらゆるプロスポーツにおいてそうだと思うのですが、僕の打撃も結局は、僕だけのもの。誰かに引き継げるようなものではない。

 もちろん、多くの人に共通する打撃の原理、原則というものはあります。

 それから、経験則というものもある。「こういう状況だと、たいていこういうことが起きる」というような知識も、ほかのアスリートと共有することは可能です。

 一方で、そのアスリートが培ってきた感覚については、ほかの誰とも共有できるものではないような気がします。

 プロアスリートの技術は、「原理/原則」や「経験則」のような共有可能な領域と、「感覚」のような共有不可能な領域が組み合わさってできている。だから、その人の技術はその人の技術であって、そのまま誰かが引き継げるようなものではないのかなと。

現役のうちにしか目指せない、打撃の「神髄」

 最近は大学の先生や、動作解析のプロなどと話す機会がとても多くなりました。皆さん、研究に研究を尽くされているので、それぞれに明確な答えを持たれている。「理想のインパクトをつくるためのバットの軌道」や「脳科学上、反応できる限界となるタイミング」など、揺るぎようのない原理、原則を知っておられます。

 でもそうやって研究を尽くされている方ほど、絶対に「理想の打撃とはこうだ」ということをおっしゃらない。それは「トップアスリートならではの感覚」というような共有不可能な領域にこそスポーツの神髄があると、リスペクトをもって考えてくださっているからだと思います。

 かつての名中継ぎ投手で、今は球団のデータ統括チーフ兼ヘッドアナリストをつとめる武隈祥太も、同じような話をしてくれます。「栗山さんの打撃は、25年間の競技人生があってのものだから、栗山さんだけのものなんですよ」と言うように。

「原理/原則」「経験則」と「感覚」を組み合わせて理想の打撃を目指していく、という取り組みは、つまるところ自分の現役生活のうちにしかできない。今回の一軍帯同の時期に得た学び、新しい感覚も加えて、何とかひとつの境地にたどり着きたい。

 そしてその姿を、ずっと支えてくださったファンの皆さんにみていただきたい。あらためて強く、そう思っています。

【協力・株式会社西武ライオンズ 広報部、構成・塩畑大輔】

2/2ページ

著者プロフィール

1983年9月3日生まれ。兵庫県出身。背番号1。外野手。右投左打。177cm/85kg。プロ24年目。育英高から2001年ドラフト4巡目で西武に入団。2008年に自身初の規定打席に到達し最多安打(167安打)を獲得するなどチームの日本一に貢献。08年から9年連続でシーズン100安打以上を達成、12年から16年まではキャプテンを務めるなどチームの顔として活躍。稀代のヒットメーカーとして安打を積み重ね、21年に生え抜き選手では球団史上初となる通算2000安打を達成した。これまで獲得した主なタイトルは最多安打(08年)、ベストナイン(08、10、11、20年)、ゴールデン・グラブ賞(10年)。

当サイトには一部アフィリエイトリンクが含まれています。

リンクから商品・サービスをご購入いただいた場合、スポーツナビに収益が発生することがあります。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント