なぜ町野修斗? 遠藤航の離脱で白羽の矢、史上初の2大会連続追加招集FWが日本代表を救うか
W杯初戦3日前にまさかの事態
2月11日に所属するリヴァプールの試合で左足甲の親指と人差し指をつなぐ「リスフラン靭帯」を損傷した遠藤は、人工靭帯を入れる手術を決断。日本に帰国して手術を受け、「ワールドカップ(W杯)に行くことだけにフォーカスして」リハビリに取り組んできた。
その後、無事に日本代表の北中米W杯メンバーに選出され、負傷して以降に所属クラブでの試合出場のないままチームに合流する。それでも5月31日に行われたアイスランドとの国際親善試合で約3カ月半ぶりに実戦復帰を果たした。
ただ、アイスランド戦では左足に違和感が出て前半のみで途中交代。メキシコ・モンテレイへ移ってからの事前キャンプでも全日程にわたって別メニュー調整が続いていた。とはいえ森保一監督も遠藤はW杯のグループステージ初戦に間に合うと公言し、モンテレイ合宿の時点でメンバー入れ替えは検討されていなかった。
遠藤自身も状態が上向くと信じて調整を続けた。アメリカに入った6月8日には、軽めではあったものの全体練習で他の選手たちと同じメニューをこなし、翌9日はオフを返上して練習場で汗を流し、続く10日からはスパイクを履いて全体練習への部分合流までこぎ着けた。
ところが、サッカーの神様は微笑まなかった。10日の練習も途中から別メニューで「確認」を行ったというが、そこでの結果が芳しくなかったのだろう。メディカルスタッフからの報告を受けた森保監督は遠藤をメンバーから外す決断を下し、キャプテンは6月11日の朝に宿舎を離れた。W杯初戦まで3日と迫った段階でキャプテンの大会欠場が決まるというのは異例中の異例と言える、チームの根幹を揺るがしかねない事態だ。
他の選手たちは同日朝に練習場で行われたミーティングで遠藤の離脱を知り、小さくない衝撃が走った。初戦に向けて作り上げてきたムードへの影響も避けられないだろう。
それでも初戦は待ってくれないのだから、前に進むしかない。森保監督は遠藤の後を継ぐ新キャプテンに板倉滉を任命し、バックアップメンバーの中から町野修斗を追加招集することに決めた。
なぜ町野修斗を追加招集したのか?
1トップや2列目には十分な数の選手が揃っているという共通認識があり、遠藤と同じポジションであれば藤田譲瑠チマや守田英正といった選択肢もあったはず。瀬古歩夢をボランチとして計算するなら、新たにセンターバックの選手を招集してもよかったように思われる。
それでも町野が選ばれた背景を推察すると、森保監督はボランチ以外のポジションに別の不安を感じているのではないかという疑問が浮かび上がってくる。
遠藤の離脱によってボランチを本職とする選手は鎌田大地、佐野海舟、田中碧の3人だけになった。短期決戦のW杯を戦い抜くにはやや心許なく感じるが、おそらく瀬古を本格的にボランチとして運用していく目処が立ったのだろう。それでボランチは従来の4人を確保することができた。
瀬古はセンターバックとしても有用な戦力だったが、そこでは板倉や冨安健洋のコンディションがW杯を戦うのに十分なレベルまで上がってきたことで頭数への不安はなくなった。3バック要員としては板倉と冨安の他に、渡辺剛、伊藤洋輝、谷口彰悟、鈴木淳之介と2ユニットを組める戦力が揃っている。
今大会はこれまでに比べてグループステージの日程に余裕があり、完全なローテーションを組まずとも戦い抜くことが可能。そうした中で増やすべきは、より柔軟な前線のオプションだった。
町野は現体制で1トップと2シャドーの一角を経験している。ユーティリティ性を武器としながら、守備でもハードワークができて、オランダやスウェーデンの守備陣にも対抗できる高さも強みとして持っている。
ただ、1トップでは上田綺世が軸となり、小川航基という空中戦を得意としながら勝負強さを兼ね備えるストライカーもいる。では、先に述べた「不安」はどこにあるのか。それは2列目、シャドーのポジションなのではないか。
三笘薫と南野拓実の不在によって最も流動的になっているのがシャドーだ。とりわけ左シャドーはアイスランド戦のように伊東純也を起用するのか、前田大然や中村敬斗なのかといった議論は尽きない。若い後藤啓介や塩貝健人にも可能性は十分にあるが、W杯という大舞台でどれだけ輝けるか未知数な部分が大きい。
また、鈴木唯人にも全幅の信頼を置ける状況ではない。鎖骨の骨折から復帰して6月7日に行われたU-19日本代表との練習試合では70分プレーしたというが、右肩に不安がないわけではない。例えば激しい接触の際に転倒して右手を地面につき、うまく受け身を取れなかったら再発の可能性も捨てきれないからだ。
親善試合とも普段のリーグ戦とも違う、より高速かつ高強度のパフォーマンスが要求されるのが4年に一度のW杯。どれだけ受け身を練習していたとしても、特殊な条件が揃ってアドレナリン全開な中でとっさに普段通りの動きが出なくなってしまうことも考えられる。
そうしたアクシデントが想定されるなら、W杯開幕時点で不安の残るポジションに信頼を置けるオプションを増やしておくのは得策だろう。このタイミングであえて町野に声をかけたということは、森保監督も様々な選択肢を机に並べて熟慮に熟慮を重ねた末の決断だったはず。そこに何か意味があるとすれば、指揮官が繰り返してきた「勝つ可能性を1%でも上げる」という前提に立った時に町野が最もチームの安定感につながりやすいと考えたというのが答えではないだろうか。