日本はなぜ親善試合を捨てたのか――“異例調整”に隠された勝算とオランダ戦に向けた2つの懸念

舩木渉

ホテルに到着してファンの子どもと交流する久保建英。直前まで降っていた大雨が止まなければ、こうした機会は生まれなかった 【写真:舩木渉】

モンテレイからナッシュビルへ

 6月8日(現地時間、以下同)、日本代表が宿泊先のホテルに入る直前、ナッシュビルを激しい雷雨が襲った。現地の人々は「サンダーストーム」と呼んでおり、感覚的には日本の「ゲリラ豪雨」に近い。幸いにも選手たちの到着直前に雨は止み、久保建英が子どものファンサービスに応じる光景も見られたが、その頃には湿度が上がって非常に蒸し暑くなっていた。

 ナッシュビルの近郊(といっても車で3時間かかる街)に住む友人に聞くと、「サンダーストーム」は「この時期のテネシー州では普通のこと。毎日あってもおかしくはない」という。ただ、日本代表は基本的に午前中で練習を終えるスケジュールを組んでいるため、日中の暑さこそあるものの天候にはそれほど振り回されずに済みそうだ。

 やっと腰を据えて、安定した環境で北中米ワールドカップ(W杯)開幕に向けて最終準備を進められる。森保一監督も安堵しているに違いない。

 アメリカ入りの前にメキシコ・モンテレイで行なった事前キャンプは、使用を予定していた練習場の芝の状態が悪く、3カ所を転々としながらの調整に。開幕まで2週間を切ったタイミングで困難に直面した。

 それでも選手たちはポジティブかつ冷静に状況を受け入れ、準備を進めてきた。冨安健洋が「もっと暑ければよかったと思いますけど、戦術面も含めて密度の濃いキャンプができたかなとは思っています」と語ったように、事前キャンプの成果には確かな手応えがあったようだ。

 とりわけ最終日に行ったU-19日本代表との練習試合は、実りあるものになった。鎌田大地はナッシュビルでの初練習後に「どちらかというと内容よりもコンディションをどう整えるか(が重要)だったと思うので、コンディションは1試合挟んだことで良くなったと思う」と述べ、「昨日に関してはすごく暑かったので、体も慣れてくる。すごく良かったんじゃないかなと思います」とモンテレイでの暑熱対策や練習試合の効果を前向きに捉えていた。

 非公開だった6月7日の練習試合は35分×4本という変則的な形式で実施され、日本代表はU-19日本代表に2-1で勝利を収めた。A代表側の得点者は鈴木淳之介と塩貝健人で、前者は3本目、後者は4本目にゴールを挙げている。

 おそらく「U-19代表相手なら圧勝しなければ」といった意見もあるだろうし、チームの現状に対する不安が生まれるのも理解できる。北中米W杯に出場する48チームのうち44チームが大会前に2試合の国際親善試合を組んでいる中で、日本代表は対外試合を5月31日のアイスランド戦のみにとどめたことを疑問視する人々もいるはずだ。

 だが、森保監督が「(スタッフとも)議論しましたが、ベストの選択としてU-19代表との試合ができれば良い状態でW杯に挑めるということで決めた」とアイスランド戦後の記者会見で説明したように、開催地に入ってからの親善試合を避けた背景には暑さ対策などのコンディショニング最優先という意図もあった。

U-19代表と練習試合を組んだメリットとは?

W杯で豊富な経験を持つ吉田麻也は、U-19日本代表と練習試合を組んだメリットの大きさを実感しているようだった 【写真:舩木渉】

 2014年のブラジル大会では事前キャンプ地選びやそこでのコンディショニングに失敗し、本大会に大きな悪影響が出てしまった。日本代表にはW杯直前のテストマッチで結果を出せていない方が本大会でいい結果が出るという迷信めいた言説もあるが、そうした余計なものに精神状態を左右されたくない。やはりこれまでの歴史の積み重ねがあって、前例のない調整方法を選択するに至っているのである。

 過去に3度のW杯に出場し、準備段階のアプローチに関してもさまざまなパターンを経験してきた吉田麻也は、グループステージ第2戦のチュニジア戦で再訪するモンテレイの暑さを経験できたこと以外にも収穫があったと感じている。

「(チュニジア戦の)時間的には僕らが(U-19代表と)やった時間より遅くなるので(22時開始予定)、あれより暑いことは基本ないと思うし、そういう意味でも(蒸し暑さを)一度体験できたのは良かった。

 親善試合をやる・やらないで賛否両論あると思いますけど、例えば親善試合だと『オランダがこう来るから、こう来てほしい』とか、『こういうふうに、このシステムでやってほしい』とか相手に注文はできないですよね。でも、今回に限って言えばU-19代表だったらそういう要求ができるし、シミュレーションもより具体的にできるので、怪我人も出なかったですし、良かったのかなと思います」

 ハードなトレーニングを積んできている中で他国と親善試合をすることにメリットとデメリットの両方があるように、U-19代表と練習試合をすることにもデメリットだけでなくてメリットがある。

 ただ、今回に関してはメリットの方が大きかったのではないだろうか。U-19日本代表には「仮想オランダ」としてグループステージ初戦を想定した戦い方で臨んでもらい、モンテレイでのキャンプを通して積み上げてきた戦術を試す。体は重かったかもしれないが、多くの選手が70分間プレーして試合勘やゲーム体力の向上を図る。

 対外試合であれば「オランダ代表のように戦ってほしい」とは要求できないし、プレータイムが必要な選手に適切な時間を与えられないかもしれない。一方でU-19代表が相手であれば、チーム状況に応じて柔軟に試合形式や時間を調整でき、場合によっては1本を40分や45分、あるいは30分などに途中で変えることも可能だった。

 そして、対オランダを想定して準備しているものを外部に見せないことも戦略上の重要な要素になる。戦術面での対策やセットプレーの形も含め、チームの外に出る情報は少なければ少ない方がいい。2本目と4本目の終了後にはPK戦も行ったというが、これも情報が外部に漏れない完全非公開の練習試合だからこそできたことだ。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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