日本サッカーを染めて20年の「ミシャ式」に陰りなし 68歳の指揮官が名古屋で今なお見せる攻撃的スタイル
セルビアとオーストリアの国籍を持つミシャは2006年6月に来日。サンフレッチェ広島でほぼ6シーズン、浦和レッズでもほぼ6シーズン、コンサドーレ札幌では7シーズンにわたって指揮を執っていた。そして名古屋グランパスで通算20年目を迎えている。
2024年は札幌がJ2に降格したシーズンで、彼は引退を示唆しつつ監督を退いた。2025年はどこの指導もしない1年間で、年齢を考えればそのまま消えるほうが自然だったのかもしれない。
しかし2026年のJ1百年構想リーグを前に名古屋の監督に就任し、昨季は16位に沈んだクラブをWESTの首位を争うレベルまで引き上げた。ミシャは健在だった。
名古屋はJ1最多得点を記録
WESTで戦った18試合の得点総数は「31」で、これはEASTも含めてJ1最多だ。一方で失点「28」もWEST10クラブの中でワーストタイの多さ。17節からメンバー外になったボランチ稲垣祥の欠場も影響しただろう。
もっともミシャ自身は春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)にして泰然自若(たいぜんじじゃく)。失点の「増減」を尋ねるメディアに対して、5月30日・町田戦(2△2)後の記者会見では諭すようにこう返していた。
「色々思うところはありますが、サッカーは簡単に説明できることばかりではありません。2失点は前より少ないかもしれませんが、セレッソ戦はこの18試合で一番いいくらいビルドアップが安定して、前進もしていました。だけど前半は3、4本のシュートで3点決められてしまいました。広島戦も同じような状況で決められました。サッカーでは、そういう説明できない失点も往々にしてあります」
スイッチの入った名伯楽は、ネガティブ思考の日本メディアをユーモラスにいじった。
「名古屋は今リーグで一番得点を取っているチームですが、そのことを聞いてくれる人はなかなかいません。私は長く日本にいますが、浦和の監督時代に6対2で鳥栖に勝ったことがありました。8ゴールはなかなかないと思いますし、サポーターにとっては素晴らしいゲームだったと思います。しかし記者会見ではある記者の方が『鳥栖に2点を取られた理由は?』と質問してきたんです」
ミシャの目指す方向性は明確だ。
「0-0でもいいゲームはありますけど、ゴールが入って盛り上がったほうがサポーターは楽しんでくれます。より多くのゴールを決めて、よりオフェンスに特化してプレーする。それが私の監督としての哲学であり、スタイルです」
変わらぬ「ミシャ式」の威力
対するミシャは極端なほど「ポジティブ思考」「足し算の発想」でこの競技と向き合う。「守備、セットプレーの練習をしない」という風評は、どうやら本当らしい。しかもそれを何十年というスパンで貫き、一定以上の結果も残してきた。確かに彼はJリーグと天皇杯のタイトルを過去に一度も獲得できておらず、「勝てない指揮官」と見る向きもある。とはいえ結果以上の痕跡をこの国に刻み込んできたことも間違いない。
彼のスタイルは、20年前は斬新でモダンだった。しかし今や「少しマイルドに調整したミシャ式」が日本サッカーのスタンダードだ。サッカーの戦術には流行り廃りがあるものだが、ミシャ式はまったく消える気配がない。
本家ミシャ式は[3-4-2-1]の布陣がベースで、攻撃時はボランチが最終ラインに落ちて4バック気味の状態からビルドアップをする。名古屋ならば攻撃時はMF高嶺朋樹が最終ラインに引く一方で、両ウイングバック(WB)と両シャドーが前線に進出して[2-3-5]のような形で押し込む。右WBには左利きの浅野雄也、両利きの甲田英將が使われている。左利きが右サイドにいるメリットが出る、アタッキングサードでのプレーが多いからこその配置だ。
守備は札幌時代から「マンツーマンプレス」を取り入れていて、ほぼフルコートで相手を捕まえて前向きに相手を刈りに行く。守備が1枚剥がされたら、一気に運ばれるリスクも伴う前がかりの戦術だ。6月6日の5-6位決定戦・第2戦で町田は2列目、3列目からのスプリントや「FWが引いて相手を食いつかせる」ような囮(おとり)のプレーを多用していた。マンマークを逆用する狙いだが、名古屋の守備は意外に堅固で、町田は延長に入るまでゴールを挙げられなかった。
広島時代に比べると最終ラインから前線へ縦に刺す「クサビ」のパスが減り、無難な外回しが増えた。しかし、よくよく考えるとミシャ式は不変でもこの20年で相手の対応が変わっている。
2020年代のJリーグは3バック、5バックが標準。ミシャ式に対してミラーゲームに持ち込む――。つまりマンツーマン気味にマッチアップして、正面から潰しに行く守り方をするチームが多い。したがって「シャドー(1トップの後方)がゾーンDFの隙間で受ける」場面が減る。
それでも外から敵陣に侵入し、エリアの両脇からショートクロスや連携で崩す名古屋のアタックは今も有効だ。特に攻撃陣は負傷者が多く決して人材豊富とは言えない状況で、あれだけの破壊力を見せた。