北中米W杯48チーム徹底分析「森保ジャパンの勝算は?」

事前準備は日本にアドバンテージ! カギは3戦目のターンオーバー 識者によるW杯開幕直前座談会【大会展望編】

構成:YOJI-GEN

前田の左シャドー起用もありうる?

アイスランド戦で出番のなかった前田。セルティックでは得点を量産しただけに、よりゴールに近い位置でプレーさせるのも一案か 【Photo by Kenta Harada/Getty Images】

――アイスランド戦を終えた日本代表は6月2日に事前合宿地のメキシコ・モンテレイに入りました。ここから本番までに、どのようなテーマをもってチームを仕上げていくべきでしょうか? この短期間で改善すべき課題があるとすれば、それはどんな点でしょう?

竹内 やはり南野拓実と三笘薫が不在の攻撃陣で戦った経験に乏しいので、アイスランド戦に引き続き、合宿という平時にこの問題とどう向き合うかですね。振り返ると昨年10月のブラジル戦では三笘を欠きながらも勝ちましたが(〇3-2)、あの勝利は南野の貢献なしにはありえなかった。第2次森保ジャパンにおいて、南野と三笘がどちらもいなかった活動は、国内組メインのE-1選手権を除くと、2025年6月の1度だけ。すでに北中米W杯出場を決めた後のアジア最終予選、オーストラリア戦とインドネシア戦の2試合だけなんです。

 現在の日本代表の攻撃陣を、1トップ+2シャドーに両ウイングバックを加えた5人と定義すると、その組み合わせは最終予選初戦の中国戦から今年3月のイングランド戦までの20試合で60パターンくらいあるんですね。10分程度試したものも含めて、20試合で60パターンですから、そこからも「誰と誰が組んでも機能するサッカー」を目指す森保ジャパンの高い志がうかがえますが、ただ、その60パターンの中に、南野、三笘のいずれかが含まれているパターンが40近くもあった。逆にW杯に選出されたメンバーだけのパターンは、わずか7通りしかないんです。

――なるほど。南野と三笘の両方がいないパターン自体が珍しいと。

竹内 しかも、その7パターンのうち6パターンは鎌田大地がシャドーを務めている。残りの1つも最終予選のアウェーのサウジアラビア戦で後半最後の数分だけの形で、鎌田をボランチに固定するのであれば、これまでの攻撃陣の構成が成り立たないというのが現実なんです。南野、三笘の2大タレントを失ったこと以上に、今まで積み重ねてきたことを、W杯でそのまま発揮できなくなってしまったという状況の方が、僕はよりクリティカルな問題だと思います。

 南野が負傷して、今年3月の英国遠征ではシャドーのポジションに三笘を起用して成果が出たと思ったら、今度は三笘までいなくなってしまった。あのイングランド戦の戦い方をいったん白紙に戻して、ほぼぶっつけ本番で新たな組み合わせをW杯で機能させるのは、相当な高難度ミッションですよ。

 とはいえ、いろんな組み合わせを試した経験は間違いなく糧になっているはずです。スコットランド戦の後半では、練習でもやったことのないようなフォーメーションを機能させましたし、アイスランド戦でもさらにパターンを増やしました。ここからさらに本番までの事前合宿で、「レギュラーはこれです」と言える攻撃陣に仕上げられるかどうかが、大きなカギになると思います。

佐藤 コーチの名波浩さんがかつてJクラブで指揮を執っていた時に、「練習で見せているものがすべてというわけではない」というニュアンスの話をしていたことがありました。つまり、それだけ非公開のときにいろいろやっているのかなと。日本代表でも非公開練習ではメディアに見せていない攻撃パターンをかなりやっていると思います。とはいえ、南野と三笘の両方が不在のケースはこれまであまりなかったわけですから、新たな組み合わせを詰めることが直前合宿の大きなポイントになるのは確かでしょうね。

 森保さんはよく、「誰が出ても戦力が落ちない、同じコンセプトで戦える」と言いますけど、あれって本気でそう思っているんですね。そうじゃないと鎌田をボランチで使うという発想にならないし、ひいては本職のボランチが4人だけでW杯を戦うという発想にもならないと思うんです。

 アイスランド戦のように伊東純也を左シャドーで使うのか、久保を回すのか、あるいは鈴木唯人や塩貝健人を抜擢するつもりなのか分かりませんが、これまでやってきたことの延長線上で何とかなる、それだけの練習はしてきた、という自信があると思いますよ。だから、僕はそこまで心配していないですね。

舩木 左サイドに関しては、ここにきて中村敬斗の重要度が飛躍的に高まりました。ウイングバックとシャドーのどちらで起用するとしても、攻撃ユニットは彼を軸に構築していくことになるはずです。3月のイングランド戦では守備時に1トップの上田綺世に相手のボランチを見張らせ、2シャドーがディフェンスラインにプレスをかける配置をテストしていました。それを継続するならば、先ほど竹内さんも話していたように、前田大然の左シャドー起用は有効だと思います。

 前回大会では1トップで起用され、猛烈なプレッシングで存在感を発揮した前田ならシャドーでも似たような役割を果たせる。これまでの実績や森保さんからの信頼度の高さを考えても、中村を左ウイングバックに置いて、シャドーでは前田のスピードや運動量、耐久力を攻守両面で活かす形はイメージしやすいかなと。アイスランド戦では相手が3バックだったこともあってか、2シャドーを押し出す守備ではなく通常の上田が先頭になる形を採用していました。ここで前田を見せなかったことにも意味があるのではないかと……深読みしすぎですかね(笑)

――では、攻撃面以外で、ここから詰めていかなくてはならないポイントはどこでしょう?

佐藤 これまであまりやれてこなかったこと――瀬古歩夢や板倉滉のアンカー起用をもっと詰めるとか、あと、ここからは対戦相手に即した練習をすると思います。チームの作りを変えるとか、誰がいないからこうしようではなく、粛々と初戦のオランダ戦に向けた練習をする。あとはコンビネーションを磨くことでしょうね。

 イングランド戦の前には、センターフォワードの上田綺世に斜めにボールを当ててどう展開するか、という練習をかなりやっていたんです、人を代えながら。それは誰が出ても同じようにやるんだということをチームに浸透させるためで、実際に試合でもその形が見えた。オランダ戦に向けても、引き続きポケット攻略法の確認や、例えばハイボールを蹴られたら、板倉をボランチに入れて対処しようとか、そういう具体的なことをベースキャンプ地のナッシュビル(アメリカ・テネシー州)ではやると思います。

――事前キャンプ地のモンテレイではなく?

佐藤 モンテレイでは暑熱対策がメインでしょうね。日本がグループステージを戦うダラスとモンテレイでは、モンテレイのほうが暑いですから。あと、モンテレイでのチュニジア戦(第2戦)を終えて、そこからアメリカに戻った時に体調がどう変化するのか、そうしたデータを事前に取っておきたいという思惑もあるようです。

――第1戦のオランダ戦と第3戦のスウェーデン戦が行われるダラスではなく、ナッシュビルをベースキャンプ地にしたのはなぜですか?

佐藤 ダラスは練習会場が暑すぎるから、移動距離よりも、気温と設備を優先してナッシュビルにしたようです。モンテレイからナッシュビルに移動したときの体調変化のデータを取るのは、決勝トーナメントに進出できるかどうかが第3戦のスウェーデン戦で決まるケースを考えて。そこは初戦の結果にもよりますが、第2戦で誰を休ませて、誰を途中で代えるといった起用法にも関わってきますからね。

最低でも1、2戦目で勝ち点4がほしい

クーマン監督に率いられ、欧州予選を無敗で突破したオランダ。だが、国内における代表チームへの評価はそこまで高くないようだ 【Photo by Ben Gal/BSR Agency/Getty Images】

――日本代表は6月2日にモンテレイ入りしましたが、どれくらい滞在するんですか?

佐藤 8日までです。

――その期間に暑熱対策をして、ナッシュビルに移動してから仕上げに入るわけですね。

竹内 実は、アメフトの試合もやるダラスのスタジアムには空調があって、かなり涼しいんですね。だから、ダラスの練習施設自体は暑いんですが、試合会場で一番暑いのはモンテレイです。チュニジア戦はナイトゲームですけど、周りが山に囲まれた盆地で、おそらく日本の夏よりも暑い。ちなみにダラスとナッシュビルの平均気温は、ナッシュビルのほうが3~5℃低いらしいです。

舩木 暑熱対策を行う日本に対して、グループステージの対戦相手3カ国はすべて、ヨーロッパで事前キャンプをやるんです。そこで彼らはテストマッチを組んでいて、オランダは地元ロッテルダムでアルジェリア(6月3日)と対戦した後、アメリカ・ニューヨークでウズベキスタン(6月8日)と非公開の練習試合を行ってからベースキャンプ地のカンザスシティへ移動。チュニジアはウイーンでオーストリア(●0-1)、ブリュッセルでベルギー(6月6日)と対戦。スウェーデンはオスロでノルウェー(●1-3)、地元ストックホルムでギリシャ(6月4日)と対戦してから、アメリカ大陸に移動すると。

 だから、環境への適応をやや軽視しているようにも感じます。特にオランダとスウェーデンは、自分たちのコンディションを上げることに主眼を置いて、地元の過ごしやすい環境でキャンプを張ることにしたんでしょうけど、いざアメリカに渡ったとき、果たして気温の変化に体がついていくのかどうか。

 日本代表には14年のブラジルW杯でキャンプ地選びに失敗した苦い経験があります。ベースキャンプ地のサンパウロ近郊のイトゥが比較的涼しかったため、試合会場への移動距離が長かった上に、非常に蒸し暑かったレシフェ、ナタル、クイアバの気候への適応にも苦しみました。事前の国内合宿とアメリカ合宿でフィジカル的に追い込みすぎた反省も今大会に向けた調整に生かされているはずです。

 そういった意味で、コンディショニング最優先でキャンプ地を選び、モンテレイで暑さに慣れ、標高550メートルくらいとはいえ高地でのボールの飛び方なんかもチェックできる日本には、少なからずアドバンテージがあるように思います。ただ、唯一のマイナスポイントは、他の3カ国とは違い、直前に練習試合を組めなかったことですね。

――やりたかったんですね、本当は。

舩木 やりたかったはずです。前回のカタール大会では開幕直前にカナダと対戦しました。ただあれは、隣のUAEまで行ったから観客を入れて親善試合ができたんですが、開催国のメキシコでは規定で直前に親善試合ができないし、非公開で練習試合をやろうにも、多くの国がヨーロッパやアメリカでキャンプを張っていて、対戦相手が見つからないという問題がある。とはいえ、それでも事前に暑さ対策をきちんとやる日本のメリットは大きいと思います。不足する実戦の機会に関しては、トレーニングパートナーになるU-19日本代表を相手にしたスパーリングのような場を設けて補っていくはずです。

竹内 そのスウェーデンは、日本が選ばなかったダラスをベースキャンプ地にするんです。だから、彼らは涼しい自国で事前キャンプをして、灼熱のダラスで練習をして、バテた状態で空調の効いたスタジアムで日本と試合をすることになる。

――キャンプ地選びは日本にとってアドバンテージになりそうですね。ではここからは、グループステージの展望に移りましょう。こうすれば決勝トーナメントに進出できるという、具体的な勝ち筋は見えていますか?

舩木 初戦と2戦目の間が一番長い中5日なので、僕は2戦目までにできるだけ多くの勝ち点を取るための戦い方をするべきだと思っています。

――つまりオランダ、チュニジアとの1、2戦目はベストメンバーで戦うと?

舩木 そうですね。理想は2連勝、少なくとも勝ち点4以上を持って、スウェーデンとの第3戦に臨めるような展開にしたい。今回から出場国が増えて、決勝トーナメントがベスト32からスタートするので、グループステージはできるだけ余力を残して突破しておきたいですから。

竹内 僕もまったく同じ考え方ですね。1位通過すると、ラウンド32の会場は再びモンテレイなので、ダラスでの第3戦でターンオーバーをしてモンテレイに戻るのが理想だと思っています。しかも1位、もしくは2位通過なら、第3戦のスウェーデン戦からラウンド32の試合まで中3日しかないので、日程的な面を考えても、できれば第2戦までに突破を決めておきたい。前回大会のコスタリカ戦みたいに、相手の力が少し落ちるからといって第2戦でターンオーバーを使うのではなく。もちろん、追い込まれた状態で第3戦を迎えることになれば、3戦連続で同じスタメンで戦う可能性もあるでしょうが、基本的には第3戦がターンオーバーのチャンスになると思います。

――1位で突破した場合、ラウンド32はモンテレイでグループCの2位と、2位で突破した場合、ヒューストンでグループCの1位と対戦することになります。グループCの顔ぶれはブラジル、モロッコ、ハイチ、スコットランドなので、ブラジル、モロッコの突破が有力ですね。

竹内 どちらにしても強いので、ラウンド32には必ずベストなコンディションで臨みたい。そのためにもグループステージ第3戦での消耗は避けたいですし、やはり大事なのが初戦の入り方です。オランダは現状の戦いぶりを見ていると、おそらく、スタートは良くないと思うんです。その場合、日本がボールを握れる展開にもなるかもしれませんが、逆にそうなるとちょっと嫌な感じもする。押し気味にゲームを進めて、そのまま差し切れるだけの力が、三笘、南野がいない中で本当にあるのかが問われる試合だと思うし、開幕2連勝必須ではなく、初戦はドローでもオーケーというマインドセットで戦えるかどうかが重要だと思います。

 極端な話、今大会はグループ3位でも決勝トーナメント進出の可能性があるので、2戦目までに勝ち点4を取っていれば、3戦目でターンオーバーをしてもいいんです。その結果、ラウンド32でフランスと戦うことになっても仕方ない。日本の選手との相性を考えると、ブラジル、モロッコと戦うのと難易度的には大差ないのではないか、とも思います。とにかく、良いコンディションで決勝トーナメントに進むという大きなミッションがあるので、まずは1戦目を落とさないことが大事なんです。

――ちなみに、3位抜けとなった場合、ラウンド32ではどこと当たる可能性が高いんですか?

舩木 けっこうな確率でグループI(フランス、セネガル、イラク、ノルウェー)の1位チームになりますね。

竹内 実は日本が3位で突破するパターンは330通りあって、そのうち約84パーセントの確率で、ラウンド32ではフランスのいるグループIの1位と対戦することになっています。

――3位通過なら、ニューヨークでフランスと対戦する可能性が高いんですね。

竹内 フランス、もしくはノルウェーでしょうね。その次に確率が高いのが、ドイツのいるグループE(他はエクアドル、コートジボワール、キュラソー)の1位で10パーセント。開催国が入ったA、B、Dグループの1位と対戦する可能性に至っては、5パーセントくらいしかない。

――スケジュールを見ると、ラウンド32でグループEの1位と対戦する場合は中3日、グループIの1位となら中4日ですね。

舩木 ただ、対戦相手が決まってから実質2日後くらいには試合をすることになりますよね。

竹内 そう。最後のイングランドの組(グループL)が終わるまで待たされて、そこでようやく対戦相手がはっきりしてからしか移動できないわけだからね。相手は首位通過が決まった時点で準備できるわけですから、その点では間違いなく不利です。

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