北中米W杯48チーム徹底分析「森保ジャパンの勝算は?」

事前準備は日本にアドバンテージ! カギは3戦目のターンオーバー 識者によるW杯開幕直前座談会【大会展望編】

構成:YOJI-GEN

アイスランド戦で復活を印象付けた冨安(左)と、左サイドで新ユニットを組む伊東(中)と中村(右)。彼らがW杯のキーマンだ 【Photo by Hiroki Watanabe/Masashi Hara/Hiroki Watanabe/Getty Images】

 5月31日(現地時間、以下同)に行われたアイスランド代表との壮行試合に1-0と勝利した森保ジャパンは、6月2日に事前キャンプ地のメキシコ・モンテレイに到着。6月14日に行われるオランダとの北中米ワールドカップ(W杯)初戦に向けて最終調整に入った。果たして、最高の景色は見られるのか。日本代表取材のスペシャリストであり、情報通の3人のジャーナリスト、佐藤景氏、竹内達也氏、舩木渉氏に、アイスランド戦で注目したポイント、事前キャンプでの焦点、グループステージの展望について語り合ってもらった。(文中敬称略)

初めて実現した冨安、板倉、伊藤の3バック

吉田(手前)と抱擁を交わす冨安。アイスランド戦ではブランクを感じさせない頼もしいプレーを披露した 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

――5月31日に行われたアイスランドとの壮行試合に1-0で勝利しました。W杯前最後のテストマッチをどうご覧になりましたか?

佐藤 まず大きな収穫だったのは冨安健洋の復調ですね。久しぶりの代表戦で、あれだけのパフォーマンスができるのかと。やっぱりレベルが違うなと感じました。W杯メンバーが発表された時点で僕は、クローザーとして期待されているのかなと想像していましたけど、これならオランダ戦のスタメンに名を連ねていても不思議はない。もちろん、本当に強度の高い試合をやっていないから未知数なところがあるし、W杯で連続スタメンを張れる状態なのかどうかは分からないけど、頼もしい出来だったのは間違いないですね。

舩木 冨安は本当に良かったですね。本人も手応えがあったのか、試合後のミックスゾーンでの表情もすごく良かったんですよね。充実感がみなぎっているというか。ちょうど吉田麻也が取材対応しているときに冨安が通りかかって、吉田から「(日本の)強さは冨安! 冨安が22番をこれから10年くらい続ける」「もう22番はトミのものなので」と言葉をかけられると、僕が背負っていきますといった表情でその言葉を受け止めていて。代表で久しぶりに90分近くプレーできて、すごく嬉しかったんだろうなと。

竹内 冨安が良かったのは間違いなくて、その上で、冨安、板倉滉、伊藤洋輝の3人で3バックを組めたのも良かったと思います。実はこの3人で3バックを組んだのは初めてなんです。そもそも第2次森保ジャパンで3人が一緒にピッチに立ったこと自体、3試合しかない。23年9月のドイツ戦と24年1月のアジアカップ準々決勝のイラン戦と24年6月のシリア戦です。ドイツ戦、イラン戦は4バックでしたし、シリア戦は初めてスタートから3バックが採用されたゲームなんですけど、伊藤洋輝がピッチに入ったのは4バックに変更された後半から。「この3人で3バックを組めたら」というのは、取材している僕らも待ち望んでいたわけじゃないですか。それが、このタイミングで、ついにそろい踏みしたこと自体がビッグニュースなんじゃないかと。

 それに、伊藤と冨安は攻撃力も高いんですよね。アイスランド戦でも中村敬斗のクロスに冨安が飛び込むシーンや伊藤洋輝がオーバーラップしてクロスを上げる場面がありました。3バックでありながら、4バックのときくらいリスクを負って分厚い攻撃を仕掛けられるようになったのは収穫だと思います。

舩木 あと、守備陣に関して言うと、板倉滉が左でスタートして、吉田麻也が退いた後は真ん中に入った。その板倉と代わった渡辺剛は最初は真ん中、谷口彰悟が入ってきてからは右に移った。そうやって組み合わせを試しながら、誰が3バックのどこに入っても大丈夫というように、連係を確認できたのも良かったと思います。

――攻撃陣についてはどうでした? 特に南野拓実や三笘薫が務めた左シャドーは誰が務めるのかという問題。アイスランド戦では伊東純也が入りました。

舩木 鈴木唯人や塩貝健人が左シャドーをやれるのは分かっているので、まずは伊東純也の左シャドーを試したという感じだったのではないでしょうか。伊東純也はゲンクでシーズン終盤、ウイングで先発しながら頻繁にレーンをまたいで、よりゴールに近い中央でプレーする傾向がありました。逆サイドまで顔を出してチャンスメークしたこともありましたし、ベルギーリーグのプレーオフ2最終節ではペナルティエリア内のゴール斜め左から反転シュートを決めています。そうした直近の流れと、これまでの代表での右シャドー起用の経験がアイスランド戦での左シャドー起用につながったのかなと。

佐藤 ただ、しっくりいかなかった印象でしたね。右シャドーの久保建英はボールに触りながらリズムを作っていくタイプだけど、その久保との距離を伊東純也は測りかねていたように感じました。左ウイングバックの中村敬斗と数的優位を作っていく意図は感じましたが、その2人だけではうまくいかなくて、久保も寄ってきて3人になったとき、惜しいシーンを生み出していた。ああいう連係はもう少しこなさないと難しいんだろうなと。

竹内 手探りではありましたけど、久保が寄っていって局所で数的優位を築いて崩していくのは、ひとつのテーマだったんじゃないかと思います。これまでは右ウイングバックの堂安律と右シャドーの久保だったり、左ウイングバックの三笘薫と左シャドーの南野拓実だったり、同サイドでポジションチェンジすることが多かったじゃないですか。それがイングランド戦ではシャドー同士だったり、シャドーが逆サイドまで顔を出したりして密集を作る、なおかつ布陣を崩さずリスク管理もするということにトライして一定の成果を得た。このアイスランド戦でもそうした戦術が踏襲された印象です。

佐藤 イングランド戦後に伊東純也も「シャドーは逆サイドまで行っていいと言われている」と話していたもんね。その意味ではアイスランド戦では左シャドーの伊東純也が右サイドまで顔を出すシーンをもう少し増やせればよかったんだけれど。

竹内 だから、手応えを得たほどまではいってないんですけど、南野や三笘がいない状況での攻撃パターンの構築に取り組んで、少しずつ積み上げているという段階でしょうか。

――いずれにしても、南野、三笘に代わる新たな左シャドーを組み込んだ攻撃パターンの構築が、オランダ戦までの大きなポイントなのは間違いないですね。

佐藤 僕は中村敬斗が左シャドーで、伊東純也が左ウイングバックでもいいかもしれないと思いましたね。後ろから来たボールを受けてターンして仕掛けていくスムーズさは、中村敬斗の方が優れているし、伊東は半身で受けて仕掛けるほうがやりやすいでしょうし。

竹内 僕はアイスランド戦で前田大然を起用しなかったことが気になっています。もしかしたら、大然の左シャドー起用もまだあるんじゃないかと。大然がシャドーから相手センターバックにプレッシャーを掛けにいき、周りの選手たちがその穴を埋めるようなポジショニングを取ることで、自然とローテーションが生まれますし、左ウイングバック起用も多い大然なら、中村敬斗とのポジションチェンジもスムーズにできるはずですからね。

舩木 僕も、森保さんはまだ奥の手を隠し持っているんじゃないかと思います。アイスランド戦前のトレーニングでは伊東純也はシャドーにも入っていましたけど、ウイングバックも務めていましたし、前日練習では瀬古歩夢がボール回しの後、トレーナーと一緒にピッチから離れたんですよね。「瀬古、負傷か?」と思ったら、アイスランド戦で普通にプレーしていました(笑)。アイスランド戦では佐野海舟も10分弱しかプレーさせませんでしたし、森保さんが情報戦を仕掛けている可能性もありますね。

負傷明けの遠藤はまだ試運転の段階か

センターバックが本職の瀬古だが、アイスランド戦では中盤でもプレーできることを証明した 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

――負傷から約3カ月ぶり復帰した遠藤航の状態は、どう見ましたか?

佐藤 遠藤は「違和感があった」ということで前半だけのプレーになりましたけど、コンディション的にも試合勘の面でもまだまだ試運転の段階だなと感じました。W杯までに実戦は、このアイスランド戦とU-19日本代表とのトレーニングマッチの2試合しかないので、スタメン起用は難しいかもしれないなと。それこそ遠藤はクローザーとしての起用になりそうだなと感じています。

舩木 実際、アイスランド戦前の取材対応でも「痛みがなくなったわけじゃない」と繰り返していましたからね。ただ、鎌田大地と佐野海舟のダブルボランチが定着していることを考えれば、45分できたことだけでも意味があるし、今はたぶん実戦をやってみて、どこにエラーが出てくるか、本人も確かめているフェーズだと思います。大会期間中も含めて、トレーニングを積みながらコンディションを上げてもらいたいですね。

竹内 遠藤に関しては、2人と同じ意見なんですけど、一方で、嬉しいサプライズと言いますか、瀬古歩夢のボランチ起用に目処が立ったのは大きいかなと。瀬古は今回の合宿中のミニゲームでずっとボランチやっていたんですよ。そこで、さらっとインターセプトして素早く前に付けたり、ミドルシュートもかなり狙っていて。キックのレンジも長いですし、パンチ力もあるので、相手からしたら怖いじゃないですか。これは期待できそうだなと思っていたら、アイスランド戦でもしっかり奪って、縦に速いボールを入れていた。瀬古自身は「(ボランチは)好んでするポジションではない」と話していましたけど、僕は普通に良いボランチだなと思いましたね。

舩木 僕も瀬古は素晴らしかったと思います。人に強くいけるし、カバーリングの範囲も広い。アイスランド戦の終盤では3-1-4-2のいわゆる「ファイヤーフォーメーション」を試して、瀬古がアンカーに入りましたけど、1人で真ん中を見ている感じがしないというか、しっかり蓋をしてくれるから安心して見ていられました。ル・アーブルでも1ボランチで起用される試合がけっこうあったので、その役割をちゃんと理解しているんですよね。

佐藤 僕は攻撃に関して、積極的に縦パスを刺そうとする姿勢は評価できるけど、2手、3手先を読んだボールさばきという点では、鎌田大地や佐野海舟、田中碧には劣るかな、という印象でした。ただ、本職はセンターバックだし、代表でもボランチを務めたのは過去1試合、それも5分くらいだけなので、そこまで求めるのは酷というもの。もちろん、守備面では心強いので、オランダやスウェーデンがゲーム終盤、ロングボールを入れてくるような展開になったら、瀬古をボランチに入れて跳ね返す、といった起用法は十分考えられると思います。

――アイスランド戦について最後に伺いたいのは、雰囲気について。国内の壮行試合は、どうしてもお祭りムードになりがちです。吉田麻也のセレモニーも相まって、W杯前最後のテストマッチだというのに、これから戦場に向かうというピリッとした緊張感が感じられず一抹の不安を覚えましたが、そのあたりはどう感じていますか?

佐藤 そういう意味での不安はあまり感じなかったですね。もちろん、最終予選や本大会と比べれば緩い雰囲気だったのは確かですが、むしろ、それは意図的というか。鎌田大地が合流して、事前キャンプ地のメキシコ・モンテレイに乗り込んだ瞬間から、気持ちを切り替えていくぞ、ということだと思います。

竹内 僕も同じ感覚でした。締め付けて厳しいムードでいくこともできるけど、今回は国内で壮行試合を組んで日本中のサッカーファンを巻き込んで、祝祭ムードの中で気持ちよく旅立ち、現地に入ってからの2週間でしっかり締めると。緩和と緊張という形のマネジメントに舵を切ったんだなと思いました。

舩木 事前のプロモーションとか、試合の演出とか、最後のセレモニーによってお祭り感が出てしまったわけですが、実際のところ、試合後に選手たちに話を聞いていても浮ついた感じは一切ありませんでしたし、森保さん自身、アイスランド戦を徹底してテストの場として活用していましたよね。ハイドレーションブレイクを生かしてプレスの掛け方を修正したり、布陣や組み合わせを変更したり。特に後半に出場した瀬古や小川航基、菅原由勢、塩貝健人といった顔ぶれは、W杯中にセカンドユニットとして起用される可能性が十分あるなと思いました。

 吉田麻也の招集に関しても「麻也さんがこれだけやってくれているんだから麻也さんのためにも」とみんなすごく感謝していたし、なにより吉田自身がお祭りだなんて思っていない。チームがさらに結束するきっかけになったと思います。

佐藤 吉田麻也の招集やセレモニーに関して、「W杯前最後のテストマッチでやることなのか?」と疑問を持つ人たちがいるのも分かります。でも、そうしたことは当然、スタッフミーティングでも議論され尽くした上で、森保さんが最後に決断している。じゃあ、どんな意味があるのかというと、これは想像ですが、日本一丸、共闘の雰囲気を作るため。W杯で本当に優勝するには、国民みんながこのチームを応援するという空気を醸成しないといけない――そうした考えのもとだと思います。

 前日会見では「キャプテンは遠藤航」と言っていたのに、実際には麻也がキャプテンでした。それで、麻也が交代するときに航にキャプテンマークを渡す様子をファン・サポーターに見せたわけですが、前キャプテンから現キャプテンへの日本サッカーの歴史の継承じゃないですか。こうした演出も、すべてがチームの力を最大限に引き出すためかなと。

竹内 僕も、ここに来てもやっぱりトライするんだなって思いましたね。吉田麻也の招集やセレモニーに関しても、現時点では吉と出るか凶と出るか、誰にも分からないじゃないですか。どちらにも転び得るけど、これが正解になるようにマネジメントするということなんだと思います。W杯のメンバー26人が決まった今、その26人の力を最大化できて、なおかつ共闘の雰囲気も作れて、話題性もあって、といろんなメリットを考えた上でのチャレンジだったんじゃないかと思います。(※編集注:日本時間6月5日、吉田がサポートプレーヤーとしてチームに再合流することが決定)

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