MLBで1世紀近く続いた定石を破る「現代の打順論」 大谷、村上、岡本ら日本人スラッガーたちに最適な打順は?

村田洋輔

数々の大記録を打ち立てる大谷翔平は、MLBの打順論におけるトレンドにも影響を与えている 【Photo by Yuichi Masuda/Getty Images】

「2番最強説」の始まりは2010年代から

 MLBの打順のトレンドはここ15年ほどで大きく変化した。「強打者により多くの打席を与える」という考え方が一般的になり、大谷翔平(ドジャース)、アーロン・ジャッジ(ヤンキース)、カイル・シュワバー(フィリーズ)といったスラッガーが1番や2番を打つことが当たり前になったのだ。

 1929年にヤンキースが初めて背番号を採用した際、打順に従って各選手に背番号が割り振られたのは有名な話だ。通算714本塁打の名打者ベーブ・ルースの背番号は「3」。つまり、ルースは3番打者だった。それから約70年後、1998年に熾烈な本塁打王争いを繰り広げたマーク・マグワイアとサミー・ソーサも3番打者。さらに3年後、歴代最多となるシーズン73本塁打を放ったバリー・ボンズも3番打者だった。

 つまり、ルースからボンズまで1世紀近くの長きにわたり、「最高の打者を3番に置く」というトレンドは変わらなかった。1番に俊足のリードオフマン、2番に小技が使えるつなぎ役を置き、3番にチームの最強打者、4番にはそれに次ぐ実力を持つパワーヒッターを並べるというのがMLBの一般的な打順の組み方だった。実際、1995年には打順別のOPSで3番(.860)がトップ。次点は4番(.853)で、1番(.750)と2番(.737)は5番(.792)や6番(.786)よりも低い数値だった。

 このトレンドが変化したのは2010年代になってからだ。マイク・トラウト(エンゼルス)は30本塁打&49盗塁で新人王に輝いた2012年こそ不動の1番打者として起用されていたが、翌年以降は2番が主戦場となっていった。2017年に59本塁打を放ったジアンカルロ・スタントン(当時マーリンズ/現ヤンキース)もメインの打順は2番。そして、2022年にア・リーグ新記録の62本塁打を放ったジャッジも2番打者としての出場が圧倒的に多かった。

 打順が1つ繰り上がると、年間で15~20打席ほど多くなる。これを大きな差と見るか、小さな差と見るかは意見の分かれるところだが、各球団は「強打者に1つでも多く打席を与えたい」と考え、チームの最強打者を2番に置くケースが増えている。球界最強打者と言われるジャッジがヤンキースの重量打線の中で2番を打っているのは、その最たる例と言えるだろう。

 また、球界全体のトレンドが変化する中で、1番打者にはスピードよりも出塁率が求められるようになった。走者を置いた状況でチームの最強打者である2番打者を迎えるためには、1番打者の出塁率が何よりも重要だからだ。出塁率が高い選手は長打力もあり、相手投手から警戒される打者であるケースが多い。2024年に歴代最多となるシーズン15本の先頭打者アーチを放ったシュワバーはその典型例だ。シュワバーは足が遅く、打率も低いため、旧来の「1番打者像」には全く合致しない。しかし、選球眼が良く、出塁率も高いため、「現代の1番打者」として驚くほど自然に受け入れられている。

 大谷が1番を打っているのは「強打者により多くの打席を与える」という考え方をさらに加速させたものと言えるだろう。2023年に前人未到の40本塁打&70盗塁を達成したロナルド・アクーニャ(ブレーブス)も1番が定位置であり、昨季ア・リーグ新人王に輝いたニック・カーツ(アスレチックス)も今季は1番を打つケースが増えている。1番に強打者を置く場合は下位打線(特に9番)の出塁率も重要になるが、ユニバーサルDHの採用で投手が打席に立たなくなり、9番打者にもある程度の攻撃力を計算できるようになったことが強打者の1番起用を後押ししているのかもしれない。

1/2ページ

著者プロフィール

神戸出身。2001年、イチローのマリナーズ移籍をきっかけに本格的にMLBに興味を持つ。2016年からMLBライターとしての活動を開始し、2017年から日本語公式サイト『MLB.jp』編集長。2021年にはSPOZONE(現SPOTV NOW)で解説者デビュー。ジャンカルロ・スタントンと同じ日に生まれたことが密かな自慢。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント