ラッセル痛恨の0ポイントリタイア 速いのに、なぜタイトルが遠ざかる?

柴田久仁夫

ラッセル復活の週末だったはずが……

首位を走りながらリタイア。呆然とガレージに戻るラッセル 【(C)MercedesF1】

 ジョージ・ラッセルは得意なカナダで、タイトル争いの流れを引き寄せるはずだった。実際、その目論見は予想以上にうまく行き、決勝レースではキミ・アントネッリとチームメイトバトルを繰り広げつつ、勝利に向けてひた走っていた。しかし30周目、メルセデスマシンはコース上に止まり、ラッセルは無念のリタイアを喫した。

 勝っていれば、アントネッリとの差は前戦終了時点の20ポイントから、逆転も十分射程距離の11ポイントまで縮まるはずだった。しかしラッセルは0ポイントに終わり、逆にアントネッリは悠々と優勝。今季4勝目をあげたことで、両者の差は43ポイントまで広がった。シーズン序盤でこの差は、控えめに言ってもかなり挽回が難しい。ラッセルが復活を感じさせたカナダGPは、皮肉にもタイトル争いからさらに遠ざかる週末になってしまった。

 ちなみにF1の70年以上の歴史の中で、4連勝しながらチャンピオンになれなかったドライバーは、2016年のルイス・ハミルトンだけだ。

速いのに、なぜ勝てない?

スプリントに勝利し、本予選もポールポジション。ラッセルは確かに復活しつつあった 【(C)MercedesF1】

 だがここで改めて強調したいのは、ラッセルは決して遅くもなければ、メンタル的に弱いドライバーでもないということだ。今回のカナダGPだけ見ても、スプリント予選で最速、レースも首位を守り切って、今季スプリント2勝目を挙げた。そして本予選もポールポジションを獲得。ここまで3戦連続ポールだったアントネッリに一矢を報いた。

 レースもスタートで出遅れ3番手に後退しながら、再び首位をもぎ取り、力強い走りを続けていた。しかしメカトラブルが発生し、リタイア。選手権での差は、さらに広がる結果になった。

 チャンピオン本命と目されたドライバーが敗れ去ることは、確かにF1では珍しいことではない。それはF1が必ずしも、「最速ドライバー決定戦」ではないからである。

 あるドライバーが王者になるシーズンは、不思議なほどすべてが噛み合うものだ。セーフティカーのタイミング、タイヤ戦略、マシントラブル、ライバルのミス……。説明のつかない「流れ」が、確かに存在するのだ。一方で敗れたドライバーには、逆の事象が起きる。今季のラッセルで言えば、日本GPでのセーフティカー導入のタイミング、中国GP予選でのアタックミス、そして今回のカナダでのパワーユニットトラブルと、「わずかな歯車のズレ」がすべてラッセル側に起き、レース結果に少なからず影響を及ぼした。

 つまりF1で勝つのは最も速い者ではなく、流れを引き寄せた者だということだ。そして今、流れは明らかにアントネッリに傾いている。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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