馬場という“チート”と組織でつかんだB1制覇 長崎ヴェルカが見せた唯一無二のバスケ

大島和人

長崎が2戦先勝のシリーズを制し、2025-26シーズンのB1王者となった 【(C)B.LEAGUE】

 Bリーグチャンピオンシップ(CS)2025-26のFINALS(決勝)は、第3戦が5月26日に横浜アリーナで行われた。長崎ヴェルカが琉球ゴールデンキングスを下して2勝目を挙げ、年間チャンピオンとなった。長崎はB3参入から5年、B1昇格から3年で26クラブの頂点に輝いた。

 長崎のバスケットボールは「ポジションレス」が特徴だ。「ゴール下で受ける人」「外で待つ人」「ボールを運ぶ人」の役割分担がいい意味でない。身長2メートル前後のオールラウンダーがコートに4人、5人といて、どの選手も「ハンドラー」「シューター」が務まるスキルを持っている。

 守備側から見ると「捨てていい選手」がいない。例えばスタンリー・ジョンソンのドライブを警戒してインサイドを収縮させると、3ポイントの名手イ・ヒョンジュンが外で空いてしまう。その逆もまた真なりで、その結果がレギュラーシーズン勝率1位(47勝13敗)と、最多得点(1試合平均91.2得点)だった。

 とはいえレギュラーシーズンとポストシーズンは違う。特にファイナルまで来れば試合の強度が上がり、守備戦術も徹底される。大一番ほど、守備優位のロースコアゲームになりやすい傾向があり、実際に長崎と琉球の3試合もそうなった。

 長崎は第1試合を69-71で落としたが、第2戦を66-60、第3戦を72-64でモノにした。長崎らしいハイテンポ、ハイスコアな試合運びはできなかった。琉球はインサイドに圧倒的な高さとパワーを持つ選手がいて、フィジカルなプレーも持ち味。しかし攻撃的で華やかな長崎が、そんな難敵と「相手の土俵」で渡り合った。

PG熊谷がチーム最多リバウンド

後半開始早々のオフェンスリバウンドは、イ・ヒョンジュンの3Pショットにつながるビッグプレーだった 【(C)B.LEAGUE】

 ポイントガード(PG)の熊谷航は第2戦の終了後にこう口にしていた。

「もちろん早いペースに持っていきたいですけど、まずリバウンドを取ることが狙いでした。昨日(の第1戦)は3人だけがリバウンドに入ったりしていたけど、今日は5人全員が入って、(テンポが)遅くなってしまった部分はありました」

「リバウンドを制する者はゲームを制す」は『SLAM DUNK』の名台詞にしてこのスポーツの真理。長崎は「全員がリバウンドに飛び込む」意識付けを徹底していた。結果として攻撃の一手目が遅くなり、速攻も出にくくなっていた。それでも、それがおそらく勝利への近道だった。

 熊谷は173センチの一般人体型で、長崎のローテーションプレイヤーを見ると彼以外は全員が195センチを超えている。その彼が第3戦はチーム最多の6リバウンドを記録した。特に第3クォーター開始直後のオフェンスリバウンドは、ゴール下に飛び込んで琉球の2ビッグに競り勝つ圧巻のプレーだった。

「(馬場)雄大さんがファウルトラブルになったとき、本当に自分がやらなければいけないと思いました。本当にリバウンドが強い琉球さんに対して、前半は特にリバウンドを取られていたんですけど、『もっとガード陣たちが入ろう』とハーフタイムで言って、それが結果になってとても良かったです」

 ポジションレスとは単に「大型選手がガードのようにプレーする」という意味ではない。熊谷のようなガードがインサイド的なプレーを担うことも必要だ。熊谷は今季から加入した選手だが、長崎で得た学びをこう説明する、

「たまに僕がダンカースポット(通常はビッグマンの入るスペース)に入るときもありますし、ビッグマンにスクリーンをかけに行くこともあります。そういったところは長崎に来てすごく成長できました」

 長崎の強みは熊谷に限らず、まず「選手の能力を伸ばしている、引き出している」ことだ。熊谷は続ける。

「ディフェンスはすごく成長した部分です。1、2、3番(PG、SG、SF)の外国籍選手だったら守れる自信もついてきました。環境が本当にいいですし、スタッフが素晴らしいですね。毎日トレーニングをやって、どういうトレーニング、食事が必要か、すべて選手のためにやってくださっています。体重もすごく増えました」

「ヴェルカはいい人間しかいない」

馬場雄大と伊藤拓摩GMは長崎のキーパーソンだ 【(C)B.LEAGUE】

 長崎はB3参入前から「施設」「環境」「スタッフ」に投資をしてきた。それが実ったB1制覇であることは間違いない。

 馬場雄大はこう口にする。

「この組織は(代表取締役社長GMの)伊藤拓摩さんを中心に、全員が自分たちの仕事にプライドを持って、一日一日を過ごしています。『類は友を呼ぶ』ではないですけど、彼の姿勢を見て集まった仲間たちのおかげでこういった結果が出たと思います」

 松本健児リオンは2020年11月に行われたトライアルを経て、長崎へ加入したプロ契約第1号選手だ。B2バンビシャス奈良の契約が終わり「無所属」だった彼はこのクラブに拾われた。そんな彼は過去のシーズンに比べて出場時間こそ減ったが、B1制覇に貢献し、チャンピオンリングを手にした。

「僕は毎年毎年成長しようと目標を持ってやっていて、それが実を結んだのはすごく嬉しいです。去年の後半からプレータイムは少ないですけど、その中でも自分の役割はちゃんとできていたし、また違った形でチームにいい影響を与えられていた手応えもあります。拓摩さんとの出会いは僕の人生を変えたと言っても過言ではないし、このクラブには本当に心から感謝しています」

 クラブの特徴を、彼はこう言葉にする。

「初年度から、このチームはBリーグでもトップレベルの組織力だなと感じていました。ヴェルカはいい人間しかいないというか、本当にチームのために働ける、そういった心がある人が揃っていて、だからいい組織になっていると思います」

 ポジションレスなスタイルは誰もが持つ「理想」だ。日本にはそもそもそれに適した人材が少ないし、Bリーグで長崎のようなスタイルを成功させた例は今までない。しかし彼らは環境を整備し、そういうプレーができるように選手たちを引き上げた。他クラブや日本代表の手本となる、唯一無二のスタイルを実現した。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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