「前向きでいろ」というヒュルツェラー監督のメッセージ 三笘落選の悲しみと失望を乗り越える
ヒュルツェラー監督は実に巧妙な言い回しで
しかし今週は真っ先に23分53秒の録音を聞き直した。
それは先週木曜日、カナダ、アメリカ、メキシコ共催となる北中米W杯に向けた日本代表メンバー発表前日の5月14日に行われた、ファビアン・ヒュルツェラー監督の定例会見の録音だった。
もうすでに日本のフットボール・ファンは三笘薫が招集されなかったことを知っている。この会見の翌日に森保一監督が発表した26名の代表メンバーの中に、我らがエースの名前はなかった。
先週のコラムでも書いたが、三笘だけは代わりがいない選手である。英国のフットボール・ワールドで頻繁に使われる表現に「make a difference」という言葉がある。文字通り「違いを作る」という意味だが、これがフットボールの世界で使われる場合は、勝敗に直結する“違い”を作り出す選手、つまり傑出した能力を持つ選手を指す言葉になる。
もちろん規律も組織力も不可欠に違いない。しかしフットボールの試合には、特に世界最強国を目指して競うW杯を勝ち抜くためには、こうした違いを作るスーパーな選手が必要だ。
日本代表にとって、それは三笘だった。昨季のプレミアリーグで、しかも中堅の評価であるブライトンで二桁得点を達成したウインガーだ。その10ゴールのなかには、BBCが昨季のベストゴールに選んだチェルシー戦でのスーパーゴールもあった。
まさに無から有を生むゴールだった。GKバルト・フェルブルッヘンからのロングフィードを神業と言えるファーストタッチで足元に収めて決めた。どうしてあの状況から生まれるのだというゴールだった。
そんな稀有な選手が欠けた。
もちろん森保監督にとっては苦渋の選択だっただろう。歯を食いしばって、三笘を外すという決断を下したのだと思う。
その一方で、三笘の欠場が明らかになる前日、ブライトンの33歳指揮官は実に巧妙な言い回しで三笘の重傷をぼかした。
「彼はさらに強くなって戻ってくる」
まず冒頭、地元記者の「スキャンの結果、カオル・ミトマの怪我の詳細が分かったと思うが」という問い掛けに対し、「我々の残り2試合には出場できない」と断言したが、W杯出場に関しては「I'm not sure」(よく分からない)と言葉を濁した。
筆者はこの録音の13分すぎに、「ウルヴァーハンプトン戦が終わったとき、あなたはstay positive(前向きでいよう)と語ったが、今も同じ言葉を日本のフットボール・ファンに向かって言えるか?」と聞いた。この質問に対するファビアンの返答は実に見事だったと思う。
「私はどんなときでもポジティブな人間だ。今回のことが原因でどんな結果になっても、ポジティブでいることが唯一最善の方法だ。そうすればどんな結果になっても素早く乗り越えることができる」
三笘のW杯出場に関しては、どちらとも取れる発言だった。もちろん、この時点でファビアンが三笘のハムストリングの故障が重傷だということを認識していなかったはずがない。しかしW杯に出場できないというのは森保監督の口から公にするべき事柄だ。この時点でドイツ人指揮官が言えることはこれが精いっぱいだったと思う。
このやり取りに続けて「三笘本人と話をしたか?」と聞いた。するとファビアンは「ポジティブでいろと、今と同じことを言った。フットボールの世界では怪我はつきものだ。問題は怪我とどう向き合うかだ。彼の年齢ならまだ将来がある。これからも成し遂げられることはたくさんある。ただ今は、どういう結果になるか見守ろう。しかし、たとえ悪い結果になったとしても、彼はさらに強くなって戻ってくる」と言った。
そして残念ながら悪い結果になった。