各国記者も驚嘆した井上尚弥vs.中谷潤人 「日本ボクシングの品格と文化」に称賛の嵐
世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)とWBA、WBC、WBO同級1位の中谷潤人(M.T)による4冠戦は、12ラウンドまでもつれ込む息詰まる技術戦に。その結果、3-0(116-112、115-113、116-112)の判定で井上に軍配が上がった。無敵の“モンスター”が無敗をキープし、健在ぶりを改めて示す結果となった。一方、“ビッグバン”こと中谷も最後まで井上と渡り合い、両選手が価値を高める稀有な戦いになったといえよう。
この日本ボクシング界史上最大にして、最高の一戦を見た海外の記者はどう感じていたのか。今回は井上vs.中谷を来日取材した2人、米国からテレビ観戦した2人の合計4人に4つの質問をぶつけ、ディベート形式でイベントの総括をしてもらった。試合の振り返りから、勝敗を分けたポイント、今後の展望、さらには日本のボクシング観戦の文化についても率直な感想を聞いた。
【パネリスト】
マヌーク・アコピャン(リングマガジン/米国)
トム・アイバース(BoxingScene.com /英国/来日取材)
レビ・ルナ(ESPN Knockout /ニカラグア/来日取材)
エイブラハム・ゴンサレス(FightsATW.com/米国)
序盤はまるで“チェス”のような高次元の駆け引き
アコピャン:試合中ずっと手に汗握る展開で、目が離せなかった。非常にハイレベルな駆け引きが繰り広げられた“チェスのような一戦”であり、ボクシングが持つ最高水準の技術が凝縮されていた。これほどのボクサー同士が拳を交える光景は、ボクシングという競技にとってまさに素晴らしい贈り物だった。
アイバース:すごく興味深い試合だった。特に序盤はチェスのような駆け引きの展開だった。でもその後はお互いがしっかりアジャストして、流れが行き来する試合になった。結果としては接戦だったけど、勝つべき選手が勝ったと思うし、井上が正当でふさわしい勝者だと思う。
ルナ:序盤7ラウンドは井上がディフェンシブに戦い、その後中谷が中盤でアジャストしてきたが、最終的には井上がリスクを取って力強く締め括った。全体としては中谷を称えたい。この試合は井上にとってこれまでで最も厳しい試合だったと思う。
パウンド・フォー・パウンド(PFP)・ランキング(ヘビー級からミニマム級の全階級を通して最強を決めるランキング)でNo.1の井上(※日本時間5月5日に発表されたボクシング専門メディア「THE RING」のPFPランキングで井上が1位に返り咲き)に対して、中谷(※最新の同ランキングで中谷は7位)ができるだけのことをやったパフォーマンスだった。
ゴンサレス:中谷はこの試合を見返したとき、あれほど慎重に入りすぎたことを後悔するはずだ。井上が圧倒したわけではないが、序盤のラウンドはしっかりポイントを取り切っていた。もし中谷があの序盤のいくつかを取れていれば、引き分けの議論になっていた可能性もある。序盤は戦術的で、それでいて非常にレベルの高い内容だったし、個人的には楽しめた。ただ、中谷はもう少しやれていたはずで、井上に対してリスペクトを払いすぎた感はある。
実力伯仲も、ボクシングIQや経験値の差が決め手に
アコピャン:中谷がギアを一段上げるのが遅すぎた。勢いに乗り始めたところで第10ラウンドに偶然のバッティング(頭がぶつかること)で額(左眉間付近)を深くカットした。その後は井上が11、12ラウンドを非常に力強く締めて、勝利に疑いを残さなかった。もし中谷が7ラウンドから10ラウンドに見せたような戦い方を最初からできていれば、勝っていた可能性もあったと思う。
アイバース:コンディショニングだ。中谷は8、9、10ラウンドと素晴らしかったし、バッティングによるカットも影響はあったと思うけど、11ラウンドは井上が激しく攻め込み、12ラウンドは接戦だった。井上は最後までほとんど疲労を見せなかったのに対して、中谷は終盤の2ラウンドで疲れが出ていた。結局そこが差だったと思う。中谷のほうが井上についていくためにより多くのエネルギーを使っていたが、対照的に井上はあのペースでもよりリラックスして戦えていたのだろう。
ルナ:井上のボクシングIQだ。試合前からその点は重要だと思っていたが、実際に決定的な要素になった。井上のIQは本当に素晴らしく、さらに豊富な経験があることで、どんな相手にも、どんな展開でも、いつでもアジャストできる。中谷が中盤でプレッシャーを強めたあとに、井上がどう修正して試合をコントロールし直し、そしてチャンピオンシップラウンド(11、12ラウンド)を取るに至ったのか――そこが勝因だったと思う。
ゴンサレス:両者の実力差はほとんどなかった。だからこそ井上は試合中に何度も笑みを浮かべていたのだと思う。スタイルではなく、技術やリングIQという意味で、若い頃の自分を見ているような感覚だったのではないか。勝負のポイントは、お互いのディフェンスのわずかな隙を突けるかどうかだった。井上は前半でもそれを少し見せていたが、後半ではより明確に突いていた。