書籍『長嶋さん、王さん、藤田さん。ときどき原さん』

巨人お家騒動 当事者の岡崎郁が明かす「清武の乱」知られざるその後

岡崎郁

【写真は共同】

長嶋さんと王さんは神様。
藤田さんは父親。
原さんは兄貴。

1979年-2021年
四者四様の指揮官に寵愛された男が振り返るジャイアンツでの物語
私だけに見せた”喜怒哀楽”な素顔

岡崎郁著『長嶋さん、王さん、藤田さん。ときどき原さん 私と4人の巨人軍監督』から、一部抜粋して公開します。

知られざる「清武の乱」その後

 この年はクライマックスシリーズでヤクルトに敗れてシーズンが終わりました。その後にすぐ清武代表と面談があって「来年もヘッドコーチを頼む」と言われていました。それから秋季キャンプのために宮崎に飛びました。

 あれは11月11日のことで練習が休みの日だったと思うのですが、清武さんがその日の夕方から緊急会見をするという話が宮崎の方にも入ってきていました。「一体何の会見なんだろう?」と宮崎でもざわざわしていて、「何だ何だ?」という感じで会見をパソコンで見ていました。そしたらまさか自分の名前が出てきたのです。

「え!?どういうこと??」

 正直、戸惑いました。

 詳細は割愛しますが、要は私が来年のヘッドコーチに決まっていたところを、読売新聞の渡邊恒雄主筆が「江川にしろ」と言ったことが騒動の発端だったわけですよね。それはもちろん私としたら面白い話ではありません。

「俺じゃダメなのかよ」みたいなことですけど、でも実際このシーズンは3位だったわけです。優勝を宿命づけられている巨人のヘッドコーチとしては、降格されてもクビにされても致し方ない成績でした。ただ清武さんには「今年はダメだったけど、いろいろ経験もしたし、反省するところは反省して来年やり返せ」と言われた後の出来事でした。そのときに「お前はクビだ」なら甘んじて受け入れますが、GMという絶対的な権限がある人に「来年もやれ」と言われて、来年に向けて秋季キャンプも始まっているのに「やっぱり岡崎じゃあダメ」と言われるのは面白くはありません。

 騒動後に原さんとも話をしました。

「俺は来年もお前がヘッドだと思ってるから、しっかりやれ」

 室内練習場でそんなことを言われた記憶があります。

 清武さんは結局その会見のあとに解雇されて、後任として原沢敦さんがGMになりました。原沢さんには食事に誘っていただいて「いろいろ嫌な思いをさせてしまったかもしれないけど、来年もヘッドコーチでいくから」という話をいただきました。

 そのあと、実は渡邉主筆とも一対一で話をしています。

 年が明けた一月のある日でした。

「渡邉が話をしたいと言っていますので、本社に来てください」

 渡邉主筆の秘書の方から突然連絡があったのです。

 ちょうどその頃は大手町の読売新聞本社ビルが建て替えている最中で、東銀座の日産の元本社だったビルを借りているときだったのですが、そこに3時に来てくれと言われたのです。失礼があってはいけないですから、こちらは2時ぐらいには本社近くに車を止めて待機です。2時半頃に桃井恒和オーナー兼球団社長から「いまどこにいる?」という連絡があって駐車場へ移動。そこには桃井さんが待っていました。桃井さんの緊張も伝わってきました。

 予定の30分前、まだ2時半。上がっていく桃井さんと私を乗せたエレベーター。

 主筆の部屋がある階で止まると、「もういいから入れ」とそのまま部屋に通されました。桃井さんは入らず私だけ。もうドキドキです。

 部屋では渡邉主筆と二人きり。テレビからは相撲中継が流れていました。

「じゃあ、今年も頑張れ」

 そう言われて部屋を出る頃には相撲中継が終わっていました。気がつけば渡邉主筆と3時間半も話していたのです。

 後になって聞いた話ですが、秘書室長の山口寿一さん(現・巨人オーナー)、読売新聞グループ本社社長の白石興二郎さん(後に巨人オーナー)と桃井さんの三人で「長い時間二人で一体何を話しているんだ?」と話していたそうです。というのも、渡邉主筆への面会時間はどんなに偉い人でも政治家でも大体15分。せいぜい長くても30分なのだそうです。それが私のようなペーペーが部屋に入ったきり3時間半出てこないわけですから「もしかしたら中で岡崎が首でも絞めているんじゃないか!?」と心配していたそうです。

 部屋を出たら直ぐに三人から「お前が新記録だ」と言われました(笑)。

 野球の話はあまりなくて、経済の話とか、読売新聞の歴史とか、自分のこれまでの人生とか、東京大学時代にどうしたこうしたとか、パイプを咥えながら面白い話をたくさんしていただきました。

 渡邉主筆としては、例の騒動で私が心を痛めているのではないかと思って「俺が直接会ってちゃんと話をする。誤解を解く」という考えがあったのでしょう。

「いろんな誤解でそうなって、君をある意味傷つけた。そこは申し訳なかった。ただヘッドコーチとして去年も一生懸命やったんだろうけど、結果があまり良くなかった。今年はしっかり原監督を支えてやってくれ」

 そんなことを言っていただきました。

「今回の騒動では君が一番の被害者だったな。二番目は俺だけどな」

 そんな自虐的なこともおっしゃっていましたけど(笑)。最後には「電話番号を書いていけ。一回メシを食おう」とも言っていただきました。結局それは実現はしませんでしたが。
渡邉主筆ほどの人がいちコーチに過ぎない私のために長い時間を取ってケアをしてくれた。「申し訳なかった」とまで言ってくれた。色んなことがあり、色んなことも考えましたけど、このときの主筆の気遣いは率直に嬉しかったです。

書籍紹介

【画像提供:KANZEN】

長嶋さんと王さんは神様。
藤田さんは父親。
原さんは兄貴。

1979年-2021年
四者四様の指揮官に寵愛された男が振り返るジャイアンツでの物語
私だけに見せた”喜怒哀楽”な素顔
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