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柔よく剛を制す――日本人の美意識を体現するボランチ鎌田大地

森昌利

今季4度目となったリバプール戦。試合には負けたが、鎌田は頭脳的かつスキルフルなプレーで存在感を示した 【Photo by Sebastian Frej/Getty Images】

 4月25日(現地時間、以下同)、クリスタルパレスの鎌田大地が敵地アンフィールドでのリバプール戦で好パフォーマンスを披露した。2センターハーフの一角として、リーグ戦では4試合ぶりのスタメン出場。1-3で敗れはしたものの、素晴らしいクロスで決定機を作り出すなど90分を通して質の高いプレーを見せ、2年目のプレミアリーグで着実にレベルアップしたことを強く印象づけた。

強さよりしなやかなさが目立った鎌田のプレーはプレミアでは異質

 柔よく剛を制す。

 4月25日、リバプールの気温は19度。雲一つない快晴で、英国では初夏を思わせる陽気のなかで行われたリーグ戦。そこで鎌田大地のパフォーマンスを見て、頭のなかに浮かんだ言葉がこれだった。

 誤解しないでほしい。鎌田は細身に映るが、目の前で見ると、鍛え抜かれた体はまさに筋骨隆々、仁王のような迫力がある。プレミアリーグでも力負けしない、素晴らしい戦士の体をしているのだ。

 しかしこの日、アンフィールドで見た鎌田は強さよりしなやかさが目立った。それは日本人の美意識――「柔よく剛を制す」という言葉に直結するようなフットボーラーの姿だった。

 決して力任せにならず、優れた頭脳と技術がふんだんに散りばめられたプレーだった。

 スピードと強度が売り物のプレミアリーグのなかで、異質にも見えた。プレーに絶妙な緩急がつけられ、相手の速さと力をうまくいなす。そしてそこから危険極まりないボールを蹴る。

 先日、日本代表がアジアのチームとして初めてイングランドのA代表を破ったが、あの日本人だけのチームに感じた竹のようなしなやかさは、今の鎌田が一番体現しているかもしれないと思った。

 ただしこの日のリーグ戦は、今季それまでに3度対戦して1分2敗(しかも1分はコミュニティ・シールドで、2-2のスコアで持ち込まれたPK戦をクリスタルパレスが制してトロフィーを勝ち取っている)とクリスタルパレスを大の苦手としているリバプールが、これまでの不運が帳消しになるかのようにツキに恵まれた。

「監督も言ってましたが、ここまでアンフィールドでいい試合ができるチームはなかなかないと思いますし、スタッツを見ても、もっといい結果を得るのにふさわしい内容だった思います」

 試合後に鎌田がそう語ったように、数字を見るとホームでの3-1の勝利という結果がリバプールにとって非常に幸運だったことが分かる。

 ポゼッションはレッズが53.4%と若干優勢だったものの、シュート数はクリスタルパレスの14対9。枠内シュートも7対3とクリスタルパレスが上回ったが、リバプールは枠内に飛んだフィニッシュが全てゴールになった。

アナウンサーが絶賛した鎌田のクロス

自身が演出した絶好機をGKに阻まれ、直後に速攻からロバートソン(写真)に追加点を許した。この場面について鎌田は「サッカーというのは時にはこういうもの」と冷静に分析 【Photo by Alex Livesey/Getty Images】

 勝敗を分けるターニングポイントになったのは、今季終了後の退団が決まっているアンディ・ロバートソンがゴールを決めて――きっとリバプールの選手として最後のゴールになると思う――2-0となった前半40分だ。

 スコットランド代表主将がゴールを決めたわずか10数秒前、鎌田が左サイドからクロスを放ち絶好機を作っていた。

 コーナーキックからの流れだった。鎌田が右足で蹴り込んだ鋭いボールがゴール前のジャン=フィリップ・マテタの頭をとらえた。帰宅後に見たハイライト番組、マッチ・オブ・ザ・デイのアナウンサーが「What a great ball!!」(なんてすごいボールだ!!)と叫んで、この鎌田のクロスを絶賛していた。

 ところが、アンフィールドを真っ赤に染めたリバプール・サポーターが1-1の同点だと目をつぶったマテタのヘディングは、スーパーセーブにより防がれた。GKとしてはやや小柄――188センチのGKが小柄に見えるのが昨今のプレミアリーグか――で、守護神アリソン・ベッカーの代役は少々荷が重く見えたフレディ・ウッドマンが、素晴らしい反射神経で至近距離からのヘディングを止めたのだ。

 リバプールの第3GKは、BBCの視聴者投票でこの試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたが、このセーブだけでもその価値があったと思う。

 しかもそのセーブからリバプールがカウンターを繰り出し、縦パス3本をつないでロバートソンのゴールが生まれた。

 1-1になったはずが、同分内に2-0となるドラマが起こってしまったのだ。

 もちろんこの場面について鎌田に聞いた。ところが29歳日本代表MFは、まるで意に介さないという感じでこう語った。

「まあ、それ以外にも自分たちにチャンスはありましたし、サッカーというのは時にはこういうもの。彼らがこういう形で勝つのも、それはやっぱりビッグクラブって言われているようなチームと、そこの選手たちとの差だと思う」

 いつも思うが、鎌田の発言には選手として常にフットボールの現実と本質に接している人間だけに宿る、ある種哲学的と言っていい思考がにじむ。

 この答えのなかには、リバプールという超ビッグクラブの選手たちが熱狂渦巻くホームのアンフィールドで戦う際に、ツキさえも支配するという気合いでその高い能力を100%発揮して、それこそ全身全霊をかけて挑んでくる――そんな必死さと迫力を想像させた。

 そしてそんな世界トップレベルの真剣勝負のなかで、感受性の豊かな鎌田は常に何かを得ているのだろう。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2025-26で25シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル30年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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