柔よく剛を制す――日本人の美意識を体現するボランチ鎌田大地
強さよりしなやかなさが目立った鎌田のプレーはプレミアでは異質
4月25日、リバプールの気温は19度。雲一つない快晴で、英国では初夏を思わせる陽気のなかで行われたリーグ戦。そこで鎌田大地のパフォーマンスを見て、頭のなかに浮かんだ言葉がこれだった。
誤解しないでほしい。鎌田は細身に映るが、目の前で見ると、鍛え抜かれた体はまさに筋骨隆々、仁王のような迫力がある。プレミアリーグでも力負けしない、素晴らしい戦士の体をしているのだ。
しかしこの日、アンフィールドで見た鎌田は強さよりしなやかさが目立った。それは日本人の美意識――「柔よく剛を制す」という言葉に直結するようなフットボーラーの姿だった。
決して力任せにならず、優れた頭脳と技術がふんだんに散りばめられたプレーだった。
スピードと強度が売り物のプレミアリーグのなかで、異質にも見えた。プレーに絶妙な緩急がつけられ、相手の速さと力をうまくいなす。そしてそこから危険極まりないボールを蹴る。
先日、日本代表がアジアのチームとして初めてイングランドのA代表を破ったが、あの日本人だけのチームに感じた竹のようなしなやかさは、今の鎌田が一番体現しているかもしれないと思った。
ただしこの日のリーグ戦は、今季それまでに3度対戦して1分2敗(しかも1分はコミュニティ・シールドで、2-2のスコアで持ち込まれたPK戦をクリスタルパレスが制してトロフィーを勝ち取っている)とクリスタルパレスを大の苦手としているリバプールが、これまでの不運が帳消しになるかのようにツキに恵まれた。
「監督も言ってましたが、ここまでアンフィールドでいい試合ができるチームはなかなかないと思いますし、スタッツを見ても、もっといい結果を得るのにふさわしい内容だった思います」
試合後に鎌田がそう語ったように、数字を見るとホームでの3-1の勝利という結果がリバプールにとって非常に幸運だったことが分かる。
ポゼッションはレッズが53.4%と若干優勢だったものの、シュート数はクリスタルパレスの14対9。枠内シュートも7対3とクリスタルパレスが上回ったが、リバプールは枠内に飛んだフィニッシュが全てゴールになった。
アナウンサーが絶賛した鎌田のクロス
スコットランド代表主将がゴールを決めたわずか10数秒前、鎌田が左サイドからクロスを放ち絶好機を作っていた。
コーナーキックからの流れだった。鎌田が右足で蹴り込んだ鋭いボールがゴール前のジャン=フィリップ・マテタの頭をとらえた。帰宅後に見たハイライト番組、マッチ・オブ・ザ・デイのアナウンサーが「What a great ball!!」(なんてすごいボールだ!!)と叫んで、この鎌田のクロスを絶賛していた。
ところが、アンフィールドを真っ赤に染めたリバプール・サポーターが1-1の同点だと目をつぶったマテタのヘディングは、スーパーセーブにより防がれた。GKとしてはやや小柄――188センチのGKが小柄に見えるのが昨今のプレミアリーグか――で、守護神アリソン・ベッカーの代役は少々荷が重く見えたフレディ・ウッドマンが、素晴らしい反射神経で至近距離からのヘディングを止めたのだ。
リバプールの第3GKは、BBCの視聴者投票でこの試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたが、このセーブだけでもその価値があったと思う。
しかもそのセーブからリバプールがカウンターを繰り出し、縦パス3本をつないでロバートソンのゴールが生まれた。
1-1になったはずが、同分内に2-0となるドラマが起こってしまったのだ。
もちろんこの場面について鎌田に聞いた。ところが29歳日本代表MFは、まるで意に介さないという感じでこう語った。
「まあ、それ以外にも自分たちにチャンスはありましたし、サッカーというのは時にはこういうもの。彼らがこういう形で勝つのも、それはやっぱりビッグクラブって言われているようなチームと、そこの選手たちとの差だと思う」
いつも思うが、鎌田の発言には選手として常にフットボールの現実と本質に接している人間だけに宿る、ある種哲学的と言っていい思考がにじむ。
この答えのなかには、リバプールという超ビッグクラブの選手たちが熱狂渦巻くホームのアンフィールドで戦う際に、ツキさえも支配するという気合いでその高い能力を100%発揮して、それこそ全身全霊をかけて挑んでくる――そんな必死さと迫力を想像させた。
そしてそんな世界トップレベルの真剣勝負のなかで、感受性の豊かな鎌田は常に何かを得ているのだろう。