町田はどうJ1、アジアに適応したのか? 黒田監督が見せた「プロ以上にプロ」の手腕
町田は同地をホームとするアル・アハリの攻勢とサポーターの圧に耐え、何度かあった相手の決定機もGK谷晃生を中心にしのいだ。68分にはアル・アハリのDFザカリア・ハウサウィが頭突きで一発退場となり、町田が延長を含めて50分以上も数的有利で幸運もあった。しかしアル・アハリの個が持つ打開力、クオリティは世界レベルで、それが延長前半6分の決勝点にもつながった。アル・アハリは結果として順当にACLE連覇を決めた。
ただ町田の見せた戦いも称賛に値する。江原FCと対戦したラウンド16(0△0/1◯0)、準々決勝(1◯0アル・イテハド)、準決勝(1◯0シャバブ・アル・アハリ)と4試合を無失点で勝ち上がり、決勝も90分は無失点で耐えた。J1に昇格してまだ3シーズン目のクラブが、町田に来るまでプロのキャリアが無かった指導者のもとで、アジアの頂点に迫った。
完全アウェイでタレント軍団と渡り合う
Jリーグ勢は旧方式だった2023-24シーズンも含めて、3大会連続でACLEの決勝に進出し、中東のクラブに敗れている(編注:2022-23シーズンは浦和レッズが優勝)。サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)など産油国のクラブは近年その強化に力を入れるようになり、例えば2023年にはクリスティアーノ・ロナウド、ネイマールが相次いでサウジアラビアのクラブと契約している。アル・アハリも選手年俸について言えば町田とはおそらく「桁違い」の差があった。
夜でも30℃を超す気温はもちろんだが、ピッチのコンディションや、試合を取り巻く「空気」も完全なアウェイだ。
黒田剛監督は決勝前の取材対応で、こう語っている。
「戦っている状況はイースト(東地区)とウエスト(西地区)でまったく違うものがあります。ファン・サポーターの圧力もそうですし、VAR、レフェリーと判定する側の人たちのスタンスも違う。一つ一つのプレーに対して、強く感情を示しながら審判に詰め寄ってくるような、Jリーグでは許されないことも毎回起こってきます。世界基準とはまさしくこれをいうのか……と、イーストでは感じられなかったものを感じています」
町田は敗れたが、極め付きのアウェイで、そんな強大な相手と「渡り合える」ことは証明してみせた。
多くが反対し、失敗を予想した監督就任
決勝戦前の取材対応で、黒田監督はこう明かしている。
「若いときに名を馳せた選手たちと、こういうステージで対面することになっています。パウロ・ソウザは同い年でもあったし、試合後はすごく友好的に挨拶をしてくれたし、会ってみればすごく紳士でした」
パウロ・ソウザがCL制覇など選手として最盛期にあった1995-96シーズン、25歳の黒田は大会最年少監督として青森山田を第74回全国高校サッカー選手権大会出場に導いている。黒田は高校サッカーでキャリアを積み、指導者として成長し、Jリーグとアジアで旋風を巻き起こす存在となった。
彼は青森山田高の監督を28年間務めている。今となっては笑い話だが、2022年の秋に町田監督への就任が発表された当時、成功を予想する意見は少数派だった。
そもそも監督就任にも紆余曲折があった。藤田晋オーナーは当時の経営陣が強く反対したことを彼の著書『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』の中で明かしている。元社長・下川浩之氏の提案に藤田オーナーが同意し、筆頭株主のイニシアチブで取締役会の意向を覆して決めた異例の人事だった。
一般論として高校生は従順だが、プロはわがままだ。まず高校生は原則として移籍がなく、3年間は同じチームにいる。プロの多くはエージェント(代理人)と契約していて、試合に出られなければ自分の意思でクラブを出ていこうとする。つまり「納得の伴わない押し付け」でプロ選手は動かせない。
実際は高校生の扱いも難しいし、プロにはない親との関係もあるのだが、とは言え「高校生を教えてきた人がキャリア豊富なプロや、外国籍選手を扱えるのか?」という疑問は自然なものだったろう。
もう一つ、高校サッカーの監督はプロの監督よりもチーム内の立場が強い。高校や大学は多くの監督が選手の補強、予算管理を任され、ゼネラルマネージャーの役割も果たしている。プロはオーナー企業の意向があり、社長もいて、さらにゼネラルマネージャーもいる。監督は中間管理職で、上との意思疎通に苦慮するケースが多い。