現役スカウトが振り返る「ドラマの裏側」

「オリックスの作戦勝ち」山本由伸がドラフト4位まで残っていた理由 巨人・武田康スカウトが明かすドラフト秘話

西尾典文

巨人が山本由伸を指名しなかったのは負傷があったという 【Photo by Cole Burston/Getty Images】

 1992年からスカウトの現場で選手の獲得に携わり続けている巨人の武田康スカウト。そんな武田スカウトに、スカウトになった経緯、これまで担当してきた選手のこと、高く評価しながらも獲得することができなかった選手のことなど、これまでのスカウト人生を振り返ってもらった。

※リンク先は外部サイトの場合があります

山本由伸が高く評価されなかった事情

 2005年限りで横浜を退団して、翌年からは巨人に移ることになりました。2003年から長谷川国利さんが巨人に移られていて、原辰徳監督から「九州や西日本のスカウティングを強化したい」という要望もあったそうで、それで自分を推薦してくれたことがきっかけでした。

 巨人で担当した選手で最初に活躍してくれたのが2007年の高校生ドラフト1位で指名した熊本工業の藤村大介です。先輩の荒木雅博(元中日)も速かったですが、藤村も速かったですね。すぐにトップスピードになる感じで、スタートや思い切りも良い選手でした。

 この年の高校生は大阪桐蔭の中田翔(日本ハム1位)、仙台育英の佐藤由規(ヤクルト1位)、成田の唐川侑己(ロッテ1位)が『高校生ビッグ3』と言われていて、巨人は佐藤を指名して外したのですが、とにかく一芸のある選手が欲しいという方針もあって、外れ1位で藤村を指名しました。

 夏の大会が終わって学校に調査に行ったときのことですが、外野でキャッチボールをしているだけで藤村が全然走らないということがありました。ちょっと気にはなっていたのですが、入団発表の際に「膝が痛い」と言われたときは焦りました。幸い大きな怪我ではなく、のちには盗塁王もとってくれたので良かったですが、この件もあって可能な限り先にメディカルチェックもしようということになりました。

 巨人に行って思ったのは、野手は特に何か「大きな武器」がないと難しいということ。毎年のようにFAなどで選手が入ってくる球団ですから、全部がそれなりという選手ではなかなかレギュラーになるのは難しい。そういう意味では藤村は足という武器が飛び抜けていたことが大きかったと思います。九州産業大から一昨年のドラフト2位で入った浦田俊輔も私の担当で今年は開幕から頑張っていますが、彼もスピードがずば抜けたものがあることが強みですね。

 高校生では糸満の宮國椋丞(10年2位)も担当した選手です。沖縄では早くから評判になっていたのですが、調子の波が大きい選手でした。春先に良いなと思ったら、関東に遠征に行ったらめちゃくちゃ打たれる。春の県大会は良かったのに、次の九州大会は全然ダメ。最後の夏の県大会も一回戦は良くなかったのですが、どうしても良いときの投球が気になるので、準々決勝に山下哲治部長と長谷川さんにも観に来てもらいました。そのときのピッチングが素晴らしかった。腕の振りも良くて低めにもビシビシ来る。それで評価を上げて2位になりました。

 巨人を戦力外になったときには連絡をくれて、球団に残る話もあったのですが、本人がまだやりたいということでDeNAに移籍しました。引退してからは宅建に合格して、野球以外のことでも頑張っているようです。

 都城の山本由伸(16年オリックス4位/現・ドジャース)も調子の波が大きい選手でした。春先に都城の球場で投げた試合が素晴らしかった。ストレートもスライダーもキレッキレで肘から先の使い方が抜群でした。ただ夏前に肘を痛めてしまい、DeNAの高田繁GMと吉田孝司スカウト部長が来られていたときは全然良くなかった。ベイスターズの担当スカウトの稲嶺茂夫も「こんなもんじゃないんですけどね……」とガッカリしていましたね。ヤクルトも小川淳司GMが見に来たときの練習試合が雨になってブルペンでの投球しか見られなかった。巨人も夏に山下部長に見ていただいたときは肘の状態が思わしくなくて、投球も良くなかった。良いときを見ていた“担当スカウト”はみんな高く評価していたのですが、こういったこともあって4位まで残ってしまったのだと思います。

 オリックスは担当スカウトの山口和男が高く評価していながら、あえて上の人を呼ばなかったそうです。山本に関しては山口の作戦勝ちですね。でも高校生は波があるのが当たり前です。いつ見ても凄いという高校生はめったにいません。そんな選手は競合1位の選手です。

「アーム投げ」でも戸郷を指名した理由

「アーム投げ」の戸郷翔征を指名したのは、高校日本代表と宮崎県代表の試合での内容が素晴らしかったから 【写真は共同】

 2011年に沖データコンピュータ教育学院から3位で入団した一岡竜司も思い出深い選手です。大分の藤蔭高校のときは怪我をしていて投げられなくて、進路先もなかなかなくて専門学校に行ったそうです。ただ、チームの林亮介監督は投手出身で指導力もある方で、そこから一気に伸びました。全体的にボールは高かったのですがスピードがあって強い。都市対抗の予選でも好投しました。そうしたらJR九州に補強されて、吉田博之監督が本戦でいきなり先発で使ったんです。試合はその日の第3試合で、うちは一岡を目当てに残っていたのですが他球団はマークしているところは少なく、投げ始めてから「誰だこのピッチャー?」と気づいたようでした。

 結局調査に行っていたのは巨人以外ではオリックスと中日だけ。うちは早くから評価していましたし部長の山下さんも気に入ってくれて、抽選で東海大の菅野智之(12年巨人1位/現・ロッキーズ)を外したこともあって3位で指名しました。

 専門学校の選手を3位で指名するのは勇気がいったと思いますから、山下さんには感謝ですね。大竹寛のFAの人的補償で広島に移籍したため巨人での在籍は2年でしたが、広島では三連覇にも貢献してよく頑張りましたね。

 下位指名からすぐに活躍してくれたのが2018年の6位で指名した聖心ウルスラの戸郷翔征です。2年生のときに夏の甲子園で見て気になったので、翌年2月のキャンプのときに、当時スカウト部長だった岡崎郁さんにも練習に一緒に来てもらいました。

 遠投を見ても投げる力はかなりありました。ただ春は九州大会に出たのですが、そのときは良くなかった。よく言われますが、テイクバックが大きくて腕をぶん回して肘があまり出ない、いわゆる「アーム投げ」というのも気になりました。ただ夏の大会が終わってから行われた高校日本代表と宮崎県代表の試合での戸郷が素晴らしかったのです。

 近くで見ていた他球団のスカウトは「こんな投げ方で大成した投手いない」と言っていました。確かにテイクバックは大きい。ですが腕が背中には入っていない。聞けば肩も肘も痛めたことがないと言う。そのあたりも評価したポイントです。自分は長所を評価して戸郷を推薦しようと思いました。

 原監督も映像を見て「投げっぷりがいいな。面白いよ」と言ってくれて、他球団もあまり評価していなかったことから6位で指名できました。ただ1年目に一軍で投げて2年目からローテーションに入るとまではさすがに思っていませんでした。体の強さがあるのはやはり大きいですね。昨年から少し苦しんでいますが、もう一度鍛え直して復活してもらいたい投手です。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント