現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記(月2回更新)

わずか36分の試運転で大一番に挑む久保建英 国王杯決勝で「より良い感触」は戻っているか?

山本美智子

ラ・リーガ第31節のアラベス戦で戦列復帰を果たした久保。短い試運転でスペイン国王杯決勝という大舞台に臨むことになる 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 スペイン在住がすでに25年以上に及ぶ日本人ライターによる、月2回の連載コラム。レアル・ソシエダの久保建英と、マジョルカで2年目を迎えた浅野拓磨の動向を中心に、文化的・歴史的な背景も踏まえながら“ラ・リーガの今”をお届けする。2025-26シーズン第17回のテーマは、今週末に迫ったスペイン国王杯決勝。先ごろ故障が癒えて戦列復帰を果たしたばかりの久保は、強敵A・マドリーを下してプロ初タイトルを手にすることができるだろうか。現在のコンディションは? 大一番での起用法は? 気になるポイントをチェックする。

多くのメディが「完全復帰」と持ち上げたが

 アトレティコ・マドリーとレアル・ソシエダが激突するコパ・デル・レイ(スペイン国王杯)の決勝が近づいてきた。

 2025-26シーズンのファイナルは4月18日の21時(現地時間、以下同)、セビリアのラ・カルトゥハスタジアムでキックオフを迎える。

 この試合の3日後、4月21日からは“フェリア・デ・アブリル”、いわゆるセビリアの春祭りが開催される。毎年、聖週間(イースター)が終わった2週間後から6日間にわたって行われるこのイベントは、バレンシアの火祭り、パンプローナの牛追い祭りと並ぶスペイン三大祭の1つだ。

 連日、闘牛が行われ、あちこちでフラメンコやセビジャーナス(民族舞踊)などのショウが催され、街を練り歩く人々は伝統的な民族衣装に身を包み、歌って踊る。絵に描いたようなスペインが目の前に広がるその空気感は独特だ。そうしてお祭りムードにデコレーションされたセビリアの街が、今回の国王杯決勝の舞台となる。

 春祭りの起源は1846年まで遡る。提言をしたのは、当時アンダルシアに移住して長かった2人の起業家、カタルーニャ出身のナルシソ・ボナプラタと、バスク出身のホセ・マリア・デ・イバラだ。ちなみにイバラは、のちにセビリア市長に就任する人物だが、180年もの年月を経て、自身の故郷であるバスクのサッカーチーム(=ソシエダ)が、国王杯を戦うために900キロ以上も離れたセビリアの地までやって来る日が訪れるとは、想像もしなかっただろう。もしかしたら、空の上で腰を抜かしているかもしれない。

 さて、1902年を起源とするスペイン最古のサッカー大会、今回で122回目を迎える国王杯の決勝を前に、1月18日以来、長く負傷で離脱していた久保が戻ってきた。個人のインスタグラムにも「Bueltan naiz」(帰ってきたよ)とバスク語で書き込み、ソシエダへの愛情を滲ませている。

 ソシエダ番のベテラン記者で、私の長年の友人であるミケル・レカルテは、このタイミングで帰ってきた久保について、「見てな! 国王杯決勝で久保が大車輪の活躍を見せてくれるぜ!」と興奮気味に話してくれたが、自身が筆をとるサン・セバスティアンの地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』では、あくまでも冷静な論調を展開していた。

 4月11日のラ・リーガ第31節、アラベスとのホームゲームの54分からピッチに立ち、いきなりアシストをマークした久保について、「完全復帰」と持ち上げたメディアは少なくなかった。実際、わずか36分間の出場にもかかわらずマッチMVPにも選ばれたのだから、その評価が間違っているわけではない。

 しかしながらレカルテ記者は、「復帰は素晴らしい朗報。オーリ・オスカルソンにインテリジェントなアシストパスを頭で送り、一度は3-2と勝ち越しとなるゴールもお膳立てしている。しかし、長期離脱していた影響が目についたのも事実だ。アディショナルタイムに喫した同点ゴールも、久保のボールロストがきっかけだった」と評している。

スタメンかジョーカー起用かの最終決定は?

復帰戦でいきなりアシストをマークした久保だが、マタラッツォ監督は「もう少し時間が必要だ」と慎重なコメントを残している 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 また、試合後の会見で久保のパフォーマンスについて聞かれたペレグリーノ・マタラッツォ監督も、「(復帰後)最初の30分としては非常にポジティブだった」としながらも、「彼はもう少し時間を必要としている。これから自身のリズムを見つけ出さなくてはならない」と、10週間近いブランクの影響を口にしている。

 要するに、良いリスタートは切ったが、まだ本調子ではない、ということだ。それは久保自身も理解しているのだろう。試合後にスペイン語でメディアに応対した彼は、こんなコメントを残している。

「来週はハードに練習をする。明日から“より良い感触”を得られるように頑張りたい」

 この「より良い感触を手にする」というのは、スペインでよく用いられる言い回しだが、とりわけ故障明けというのは、選手本人にしかその微妙な「感触」は分からないものだ。違和感というほどでもないが、わずかにいつもとは違う感覚が残っているため、そのギャップを埋める必要があるのだ。

 そして、マタラッツォ監督が言うように、久保は自身のリズムを見つける、つまり試合勘を取り戻すことも求められている。そのための最良の方法は試合を重ねることだが、国王杯決勝までは実戦機会がなく、残された時間もわずか1週間しかない。だからこそ久保はアラベス戦後に、「来週はハードに練習する」と話していたのだ。

 通常であれば、故障明けで36分間の試運転しかしていない選手を、次の試合でスタメンフル出場させるというのは考えにくい。徐々に試合勘を取り戻させて、怪我の再発のリスクを回避するのがセオリーだ。

 しかし、今回の久保の場合は、よりによってその次戦が、タイトルの懸かった国王杯決勝なのだ。久保が途中出場でも試合の流れを変えられる選手であるのは明白な事実だが、今週の練習でどこまで仕上げられるかによって、スタメンかジョーカー起用かの最終決定が下されることになりそうだ。

 せめてあと1週間早く復帰できていれば、とつい思ってしまうが、大事なファイナルに間に合ったのだから、それだけでも良しとすべきなのだろう。

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著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

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