【月1連載】ブンデス日本人選手の密着記

イングランド戦で抜群の存在感を放った佐野海舟 移籍市場で争奪戦が予想される中でも課題を口に

林遼平

強敵イングランドを撃破した日本代表で存在感が際立った佐野。相手の出方に柔軟に対応しながら守備に奔走する姿が印象的だった 【Photo by Marc Atkins/Getty Images】

 堂安律、伊藤洋輝、町田浩樹、町野修斗、佐野海舟ら、多くの日本人プレーヤーが在籍するドイツ・ブンデスリーガ。彼らの奮闘ぶりを、現地在住のライター・林遼平氏が伝える月1回の連載が、この「ブンデス日本人選手の密着記」だ。2025-26シーズンの第8回は、3月31日(現地時間、以下同)のイングランド代表との強化試合で抜群の存在感を放った佐野海舟が主役だ。マインツでのハイパフォーマンスもあって、移籍市場での評価もうなぎ登りだが、25歳のボランチは驕ることなく自らの課題と向き合っていた。

想定とは異なる相手の出方に対しても柔軟に

 約8万人の観客が集まったウェンブリー・スタジアムは、しかし不思議な空気に包まれていた。スタンドを埋めたイングランドサポーターの熱量は、ホームの一戦としては淡泊とも言えるもので、むしろ青いユニホームに身を包んだ1万人近い日本人サポーターの声援のほうが、ピッチまで届く迫力があった。

 6月開幕の北中米ワールドカップを見据える森保一監督率いる日本代表にとって、多くのサポーターに背中を押される形で挑んだイングランド戦は、これ以上ない試金石となる一戦だった。前半に奪った三笘薫の得点を守り切って1-0の勝利。聖地ウェンブリーで歴史的な初勝利を飾った。

 この試合、中盤の底で抜群の存在感を見せたのが佐野海舟だ。3日前のスコットランド戦(1-0で勝利)ではベンチ入りしながらも出場なしに終わり、コンディションを整えた状態で満を持して挑んだイングランド戦。試合前、佐野は強敵との対戦に対する心構えをこう語っていた。

「試合によって、相手によって、やることは変わる。次の相手に対してどういう動きを自分がすればいいのか、チームがどういう動きをすればいいのかをしっかり整理して、その中で自分がどうやっていくのかにフォーカスした方がいい」

 事前にはハリー・ケインへの対策を問われ、「フリーにさせてしまえば勝負を決める選手がたくさんいる。なるべく時間を作らせないことが大事」と語っていた佐野だったが、迎えた本番ではそのケインが欠場。前線にはフィル・フォーデンとコール・パーマーが並び、両者が流動的に中央でポジションを取りながら日本の守備組織を揺さぶりにきた。

 ただ、想定とは異なる相手の出方に対しても、佐野は鎌田大地とのダブルボランチでバランスを保ちながら、常時2人の動きをケアし続けた。臨機応変に対応しながら守備に奔走する姿は、試合前に口にしていた「想定した上で、試合になったら柔軟に対応する」という言葉を体現するものだった。

持ち味が凝縮されたシーンも「ミス」と言い切る

森保ジャパンにおいて、すっかりダブルボランチの一角を手中に収めた感のある佐野だが、驕ることなくさらに高い基準を自らに課している 【Photo by Alex Pantling/Getty Images】

 前半から日本はイングランドの圧力を受け、自陣で守備に追われる時間が増えた。それでも崩れなかったのは、失点ゼロの時間を長くするという意識を共有して臨んでいたことに加え、最終ラインの粘りとダブルボランチのハードワークがあったからだ。

 佐野は球際で臆することなく戦い、素早く相手との距離を詰めてボールを回収。イングランドの攻撃を何度となく寸断した。

 象徴的だったのが、前半41分に生まれたパスカットの場面だ。相手のパスコースを読み切ってボールを奪うと、即座に前線の上田綺世へ縦パスを送り込んだ。得点こそ生まれなかったが、守備から攻撃への鋭い切り替えと素早い状況判断に、佐野の持ち味が凝縮されていたと言っていい。だが、本人はこのシーンについて問うと顔を曇らせた。

「パスのタイミングと質が悪かった。もう少し早ければ楽に得点に行けた。あれはミスという印象が強い」

 読みと判断は正しかったが、それでも自らに求める基準はさらに上にある。勝利の余韻の中でこう言い切れる自己認識の高さこそが、佐野の成長を示す1つの証左だろう。

 加えて、こういった場面を生んだ背景についても、「フォワードの選手だったり、シャドーの選手のプレスの行き方にだいぶ助けられた。おかげでパスコースも読みやすかった」と冷静に分析。前線の動きが作り出したプレッシャーの恩恵をすぐさま認識し、それを自分のインターセプトへとつなげる。この嗅覚が佐野の守備の質を支えているのだ。

 試合後のミックスゾーンに現れた佐野は、「前半はゼロで帰ってくればいいかなという戦いの中で、点を取れたことはすごくデカかった。後半はもう少し戦い方の部分で修正すべきところはあると思うけど、我慢強くしっかり全員で守って勝ちで終えられたのは良かった」と、どこまでも冷静に振り返った上で、課題にも目を向けた。

「(イングランドは)前からどんどんハメに来るし、ボランチのところがほぼマンツーマン気味に来るので、自分が受けるのか、受けるふりをして他の人のスペースを空けるのか、もう少し上手くできたかなと思う」

 世界最高峰の相手から勝利を奪ってなお、佐野の目はすでにピッチで肌に刻んだ課題へと向いていた。

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著者プロフィール

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして各社スポーツ媒体などに寄稿している。2023年5月からドイツ生活を開始

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