モハメド・サラーの魔法が消滅した日 一時代の終焉という残酷なまでの現実
3度目のチャンスもお家芸とも言える形だったが…
3度目は、これもサラーのお家芸とも言える形からのフィニッシュだった。右サイドでボールを受けて、中央に切れ込み、逆サイドのゴール左隅のトップコーナーに叩き込むパターンだ。
この形での最高形は2019年4月14日のチェルシー戦で見せたゴールだろう。この一撃も生で目撃した。しかも記者席からは、ちょうどサラーの後方からこのシュートを見る形になって、その弾道がしっかりと見えた。
本当に驚愕としか言えないゴールだった。こんなシュートを決められるのは、真に選ばれたフットボーラーだけだと感嘆したのをよく覚えている。
しかし今回のマンチェスター・C戦では、サラーのシュートはあっさりとバーの上を超えた。ちなみにチェルシー戦のゴールはボックスの外から放った弾丸シュートだったが、今回のシュートはボックス内で放ったものだった。
こうした布石があった末に、0-4という、これはもう恥辱でしかない大差をつけられた場面で、モー・サラーはPKを外してしまったのだ。
その“なんてことだ”という落胆は、遠く記者席に座っていてもはっきりと伝わってきた。
退団を発表して気力が尽きてしまったか
これは驚きではなかった。なぜなら筆者は昨年12月6日のリーズ戦で、囲みに取材に応じるという異例の対応をしたサラーから直接、彼自身の心情を聞いたからだ。
「試合に出場できる体調で完全欠場したことはない」と歪んだ顔で言ったエジプト王は、「クラブの誰かが僕を追い出したがっている」「監督とは突如として人間関係がなくなった」などと話し、世界に衝撃を与えた。
ここまでクラブと監督を批判した選手が、その後チームに戻ってこられたのは、やはりサラーの偉大な功績のおかげだろう。
というわけで、先月24日にサラーが退団を公表したことは確実な別れをさらに決定的にしただけで、驚く要素はなかった。
けれどもこの日のサラーのパフォーマンスには本当にショックを受けた。かつてのスーパーゴールを鮮明に呼び起こす形で外し続けたことで、一時代の終焉を残酷なほどに実感させられた。
33歳のサラーにとって、精神的なコンディションは肉体的なそれ以上に重要だろう。クラブとフットボールを愛する気持ちが、衰える肉体を支える。プライドが、萎える足に力を与える。しかし正式に退団を発表したサラーはそうした気力が尽きてしまったのかもしれない。
もちろん、だからといってサラーの偉大な足跡が消え去るわけではない。2017年にリバプール加入を果たして以来、彼がプレミアリーグで最も優れた選手だったことは間違いない。実際、イングランドで最も権威があるリーグMVPであるPFA年間最優秀選手賞を3度獲得した唯一の選手である。さらに4度のゴールデンブーツ(プレミア得点王)を獲得したエジプト人はまさにゴールマシン。しかもアシストマシンでもあった。
プレミアリーグ通算ゴールは現時点で歴代4位の191。アシスト93は元マンチェスター・Cのファンタジスタ、ダビド・シルバと並ぶ歴代7位。実働9年でこの数字は圧倒的である。願わくは200ゴール・100アシストの金字塔を打ち立ててほしかったが、それは叶わぬ夢になりそうだ。
確かにこの試合で見たサラーの凋落は、優勢に試合を進めながらもばかげた守備のミスで失点して負けるパターンを繰り返す今季のリバプールの戦いぶりと重なり、意気消沈するものだった。しかし何事にも始まりがあり、終わりがある。残念ではあるが、こうした栄枯盛衰はフットボールに限らず人間の作る歴史にとって不可避であるのだ。
と書いておいて、このコラムが公開される水曜日のパリ・サンジェルマンとの欧州チャンピオンズリーグでサラーが意地の先発出場を果たし、胸がすくような活躍をすることを願っている自分もいるのが、浅ましくももの悲しく、また面白い。
(企画・編集/YOJI-GEN)