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モハメド・サラーの魔法が消滅した日 一時代の終焉という残酷なまでの現実

森昌利

ゴールチャンスをことごとくモノにできず、挙句にPK失敗……。サラーは失意に暮れた 【Photo by James Gill - Danehouse/Getty Images 】

 代表ウイーク明けの週末、イングランドではFA杯準々決勝が行われた。4試合のなかで一番の注目カードはマンチェスター・シティ対リバプール。ただ、4月4日(現地時間、以下同)にエティハド・スタジアムで開催された一戦は、結果的に4-0とホームチームの圧勝に終わった。リバプールが屈辱的な敗北を喫した大きな要因がモハメド・サラーだろう。先ごろ、今季限りでの退団を表明した英雄は、その輝きを完全に失っていた。

常にマンチェスター・Cを脅かす存在だったのが…

 3月30日からイギリスは夏時間となった。

 1日の始まりが1時間早くなるだけの差だが、日没が1時間遅くなると、劇的に日が長くなった気がするのである。これからこの島国は、日の出が朝の4時半、日没が午後11時となり、日照時間が18時間半となって、1日が2度あるのではないかと戸惑うほど長く、バラの花がそこら中に咲き乱れる美しい6月の夏至に向かう。

 そんな明るさに包まれたイギリスのマンチェスターで、まだ午後2時を8分過ぎたばかりだというのに、まるでそこだけに夕暮れの影が落ち、たそがれてしまったかのようなスポットが出現した。

 その沈鬱な影の真ん中に、うなだれたモハメド・サラーがいた。

 ユルゲン・クロップ・リバプールvs.ペップ・グアルディオラ・マンチェスター・シティ。この対戦は多くの名勝負を生んだ。プレミアリーグが文字通り世界一のクオリティを世界に示し始めたのは、フットボール超大国のドイツ対スペインという図式もある、この歴史的名将2人の類まれな情熱と、プレスvs.ポゼッションという近代フットボールの2大戦術で欧州を席巻した直接対決が明確なきっかけだったと思う。

 モー・サラーはそのクロップ側のチームで、常にマンチェスター・Cを脅かす存在だった。

 しかし4月4日のFA杯準々決勝では、かつては脅威でしかなかったはずのエジプト人が完全に消えていた。

 一言で言い表すと、魔法が使えなくなった魔術師のようだった。

誰もがゴールだと思った瞬間、プレースピードがガクッと落ちた

前半14分、GKと1対1となったサラーだが、タッチミスでボールが流れ、クサノフのタックルを許した。ここでリバプールが先制していたら、勝敗も違っていたかもしれない 【Photo by Carl Recine/Getty Images】

 サラーがガックリと肩を落としたのは、0-4の屈辱的な状況だったなか、アウェー席を満杯にしていた赤いサポーターの溜飲を下げるはずだったPKを失敗したからだが、それはいわばとどめの一刺しにすぎなかった。

 それまでにサラーは、もしも彼の全盛期であれば、いや、昨季までのエジプト王だったら必ず決めていただろうというチャンスを3度も逃していた。

 まずは前半14分のチャンス。この日のリバプール・ゴールの門番となったGKジョルジ・ママルダシュヴィリがマンチェスター・Cの最終ラインの裏に向けてロングボールを放った。

 そこに走り込んだのがサラーだった。

 追いかけてきたマンチェスター・Cのセンターバック、アブドゥコディル・クサノフが、大きくバウンドしたボールに頭を当てた。が、軽く触れただけで方向も勢いも変えられず、よりによってそのまま勢い余って転倒してしまった。こうしてサラーはまさに暁光と言えるGKと1対1の状況を与えられた。

 リバプール・サポーターの誰もがゴールだと思ったその瞬間、サラーのプレースピードがガクッと落ちた。それはシュートまでに2タッチを要したことが原因だった。しかも2タッチ目が若干大きかった。このタッチミスが、倒れたクサノフにスライディングタックルのチャンスを与えた。

 シュートの瞬間に22歳ウズベキスタン人DFの必死の右足が届き、ボールはファーサイドのポスト外側へ大きく外れた。

 この形は2020年1月19日、アリソン・ベッカーのロングフィードとの組み合わせで伝説になったゴールを生んだ。

 この偉大な瞬間を現場で見た。よく覚えている。宿敵マンチェスター・ユナイテッドとのリーグ戦だった。フィルジル・ファン・ダイクが前半14分に奪った両軍唯一のゴールをリバプールが守る、1-0の息詰まる緊迫した状況が試合の最後の最後まで続いていた。

 そんな試合の後半アディショナルタイム4分、サラーの一撃が決まった。アシストがついたアリソンがゴール前から猛ダッシュでサラーに駆け寄り、ユニホームを脱ぎ捨てたエジプト王に抱きついた。

 この瞬間、30年間もリーグ優勝から遠ざかり、どんなに優位な状況になっても優勝の可能性をあえて無視していたサポーターが歓喜した。この勝利で連勝は13を数えていた。しかも国内最大の宿敵を粉砕したのだ。そしてついに「We are going to win the league!」(俺たちがリーグ優勝する!)というチャントをアンフィールドにこだまさせた。

 サラーがエティハド・スタジアムでチャンスを迎えた刹那、あのゴールを連想したファンが大勢いたことは間違いない。前半14分に、クロップ時代の最大の宿敵を相手にリバプールが先制点を決めるはずだった。ところが、マンチェスター・U戦で決定的な2点目を奪った当時はモジャモジャのアフロだった髪を今季は短く綺麗に切りそろえたサラーは、余計なワンタッチをしてゴールを奪うことができなかった。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2025-26で25シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル30年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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