モハメド・サラーの魔法が消滅した日 一時代の終焉という残酷なまでの現実
常にマンチェスター・Cを脅かす存在だったのが…
1日の始まりが1時間早くなるだけの差だが、日没が1時間遅くなると、劇的に日が長くなった気がするのである。これからこの島国は、日の出が朝の4時半、日没が午後11時となり、日照時間が18時間半となって、1日が2度あるのではないかと戸惑うほど長く、バラの花がそこら中に咲き乱れる美しい6月の夏至に向かう。
そんな明るさに包まれたイギリスのマンチェスターで、まだ午後2時を8分過ぎたばかりだというのに、まるでそこだけに夕暮れの影が落ち、たそがれてしまったかのようなスポットが出現した。
その沈鬱な影の真ん中に、うなだれたモハメド・サラーがいた。
ユルゲン・クロップ・リバプールvs.ペップ・グアルディオラ・マンチェスター・シティ。この対戦は多くの名勝負を生んだ。プレミアリーグが文字通り世界一のクオリティを世界に示し始めたのは、フットボール超大国のドイツ対スペインという図式もある、この歴史的名将2人の類まれな情熱と、プレスvs.ポゼッションという近代フットボールの2大戦術で欧州を席巻した直接対決が明確なきっかけだったと思う。
モー・サラーはそのクロップ側のチームで、常にマンチェスター・Cを脅かす存在だった。
しかし4月4日のFA杯準々決勝では、かつては脅威でしかなかったはずのエジプト人が完全に消えていた。
一言で言い表すと、魔法が使えなくなった魔術師のようだった。
誰もがゴールだと思った瞬間、プレースピードがガクッと落ちた
それまでにサラーは、もしも彼の全盛期であれば、いや、昨季までのエジプト王だったら必ず決めていただろうというチャンスを3度も逃していた。
まずは前半14分のチャンス。この日のリバプール・ゴールの門番となったGKジョルジ・ママルダシュヴィリがマンチェスター・Cの最終ラインの裏に向けてロングボールを放った。
そこに走り込んだのがサラーだった。
追いかけてきたマンチェスター・Cのセンターバック、アブドゥコディル・クサノフが、大きくバウンドしたボールに頭を当てた。が、軽く触れただけで方向も勢いも変えられず、よりによってそのまま勢い余って転倒してしまった。こうしてサラーはまさに暁光と言えるGKと1対1の状況を与えられた。
リバプール・サポーターの誰もがゴールだと思ったその瞬間、サラーのプレースピードがガクッと落ちた。それはシュートまでに2タッチを要したことが原因だった。しかも2タッチ目が若干大きかった。このタッチミスが、倒れたクサノフにスライディングタックルのチャンスを与えた。
シュートの瞬間に22歳ウズベキスタン人DFの必死の右足が届き、ボールはファーサイドのポスト外側へ大きく外れた。
この形は2020年1月19日、アリソン・ベッカーのロングフィードとの組み合わせで伝説になったゴールを生んだ。
この偉大な瞬間を現場で見た。よく覚えている。宿敵マンチェスター・ユナイテッドとのリーグ戦だった。フィルジル・ファン・ダイクが前半14分に奪った両軍唯一のゴールをリバプールが守る、1-0の息詰まる緊迫した状況が試合の最後の最後まで続いていた。
そんな試合の後半アディショナルタイム4分、サラーの一撃が決まった。アシストがついたアリソンがゴール前から猛ダッシュでサラーに駆け寄り、ユニホームを脱ぎ捨てたエジプト王に抱きついた。
この瞬間、30年間もリーグ優勝から遠ざかり、どんなに優位な状況になっても優勝の可能性をあえて無視していたサポーターが歓喜した。この勝利で連勝は13を数えていた。しかも国内最大の宿敵を粉砕したのだ。そしてついに「We are going to win the league!」(俺たちがリーグ優勝する!)というチャントをアンフィールドにこだまさせた。
サラーがエティハド・スタジアムでチャンスを迎えた刹那、あのゴールを連想したファンが大勢いたことは間違いない。前半14分に、クロップ時代の最大の宿敵を相手にリバプールが先制点を決めるはずだった。ところが、マンチェスター・U戦で決定的な2点目を奪った当時はモジャモジャのアフロだった髪を今季は短く綺麗に切りそろえたサラーは、余計なワンタッチをしてゴールを奪うことができなかった。