やり抜く力 天才じゃなくてもトップになれた「ベリベリ」シンプルな理由

レガレイラが教えてくれた“自信” 戸崎圭太が描く日本ダービー制覇とイケオジジョッキーの未来

戸﨑圭太

【写真は共同】

地方競馬から日本競馬のトップへ上り詰めた騎手・戸﨑圭太。
大井競馬場で頭角を現し、JRAでも数々のビッグレースで結果を残してきた。
その華やかな実績の裏には、挫折や苦闘、遠回りの日々があった。

書籍『やり抜く力 天才じゃなくてもトップになれた「ベリベリ」シンプルな理由』(戸﨑圭太著)より、一部を抜粋してお届けします。

やっぱり馬の上にいるのが一番幸せ

 2023年は、幸いにもラーグルフ(宗像義忠厩舎)での中山金杯優勝に始まり、結果的に112勝で全国リーディング6位。重賞はほかに、ソングライン(林徹厩舎)でのヴィクトリアマイルと安田記念のGⅠ2勝、前出のレモンポップでの根岸S、インダストリア(宮田敬介厩舎)でのダービー卿CT、アヴェラーレ(木村哲也厩舎)での関屋記念と全部で6勝。ファンにとっては僕らしい地味さ加減だったかもしれないけど、リスタートした僕には焦りみたいな感覚はなかった。

 続く2024年は、133勝で全国リーディング3位。何といってもあの年は、急逝した(藤岡)康太がずっと調教をつけていたジャスティンミラノ(友道康夫厩舎)で勝てた皐月賞が感慨深い。彼の後押しがあって勝てた、あのときも今も心からそう思っている。惜しむらくは、1番人気で挑んだ続く日本ダービーの2着だが……。

 さらにその年は、1年を締めくくるグランプリ・有馬記念をすばらしい牝馬、レガレイラ(木村哲也厩舎)で勝つことができた。

 こうして2年間、ときどき大きなレースを勝てたことはうれしいかぎりだが、リーディング争いには加われなかった。だけどもう、僕は焦ることはなかった。2022年に“自分”を見つけることができたからか、それ以降は本当にブレることがなくなったのだ。ほんの少し前まで、影響を受けては流されて、足元が揺らぐとあんなに焦っていたというのに……。

 ブレて焦って流されて――。今でも思う、よくも僕のような人間がNARで、さらにはJRAで全国リーディングを獲れたものだと。

 ただ、そういった経験があっての現在地であり、無駄なことなど何ひとつなかったと自信をもっていえる。なぜなら、その時々の状況に本気で向き合い、決して投げ出さずに取り組んできたから。そして、自分に合わないもの、必要のないものは削ぎ落し、“自分”を見つけることができたから。

 不器用なぶん、かなり遠回りしたかもしれないが、今こうして「やっぱり馬の上にいるのが一番幸せ」と心からいえることがすべてだと思う。

リーディング返り咲きを意識した結果……

 そして2025年、僕は、ドバイでの『ベリベリホース!』をきっかけに、アウトプットという今までしてこなかった領域にチャレンジ。生活が激変したことは序章で述べたとおりだが、そんななかで自分に課した絶対の約束ごとが、競馬の成績を落とさないことだった。

 そういった意識もパワーになったのか、前半から安定したペースで勝ち星を積み重ねることができ、夏競馬が終わった8月31日時点で全国リーディング1位の90勝。以下、(松山)弘平、瑠星、武史と続き、クリストフは78勝で5位というポジションだった。

 もちろん、クリストフだけを意識していたわけではないが、秋競馬が始まる前にその位置を確認し、俄然リーディングに色気が出てきたことを覚えている。

 僕が獲れば、9年ぶり4度目。9年ぶりの返り咲きなんてなかなかないことだし、実現したら最高にカッコイイ。それこそ『ベリベリジョッキー!』だ。そのセリフを叫ぶシーンを思い描きながら、秋競馬を迎え、4回中山が終わった時点でもまだ僕がトップ。クリストフも変わらず5位で、その時点で20勝差があった。よし、これなら逃げ切れるはず。そう思ったのだが……。

 東京開催のクリストフは、やはり鬼だった。おまけに僕自身がリーディングを意識し過ぎたことで、普段なら考えないようなことを考え始めて心のなかが窮屈に。そうなったらもうダメだ。10月半ばの3日間開催から月末までの3週間で、僕は3勝しかできなかった。決して下手に乗ったわけではない。でも勝てない。原因は、ほんの少しのメンタルの変化。それは自分でもわかっていた。

 以前のように焦ることはなく、これではいけないとすぐに気づいて軌道修正ができたが、結局は自分に負けたということ。「俺もまだまだだなぁ」と思ったし、今後につながるいい経験をさせてもらったなと思う。

 僕が3勝を挙げる内にクリストフは15勝を挙げ、4回東京が終わった時点で2勝差まで詰められ、5回東京であっさり逆転。クリストフ130勝、僕が123勝で暮れの中山開催に突入したが、最後までその差が縮まることはなかった。

『ベリベリジョッキー』にはなりそこねたものの、2025年秋には、僕にとってとても大きな気づきがあった。45歳にして、初めて「自信をもつ」という経験をしたのだ。それを教えてくれたのは、エリザベス女王杯のレガレイラだった。

 ここまでにも何度も書いてきたが、僕には昔から自信というものがなくて、「自信をもつ」という意味すらわからなかった。でも、エリザベス女王杯のレガレイラは、「この馬が一番強い。普通に乗ってくれば勝てるんだ」という気持ちにさせてくれて、緊張しいの僕から緊張を取り払ってくれた。レガレイラに助けられたのは間違いないが、僕自身、今までとはまったく違う心持ちでレースに臨めたし、内容的に何ひとつ悔いのないレースを完成させることができた。そして、そんな自分に驚きつつも、「ああ、これが自信をもつということか。やっぱり自信は必要なんだな」と納得。

 ただ、相変わらず僕自身には自信がない。それはもうどうしようもないこととして、自信をもつとはどういうことか、自信をもつことで何が変わるのか、その大切さをレガレイラは教えてくれた。45歳にして、これは大きな成功体験。レガレイラに感謝をしながら、これまで以上に馬を信じて自信に変えていきたいと思う。

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