ルメールとM.デムーロが通年騎乗を開始…戸﨑圭太が“執念”で挑んだ壮絶リーディング争い
大井競馬場で頭角を現し、JRAでも数々のビッグレースで結果を残してきた。
その華やかな実績の裏には、挫折や苦闘、遠回りの日々があった。
書籍『やり抜く力 天才じゃなくてもトップになれた「ベリベリ」シンプルな理由』(戸﨑圭太著)より、一部を抜粋してお届けします。
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移籍2年目の有馬制覇とリーディング奪取
初めて騎乗した2走前の天皇賞・秋(2着)のときもそうだったが、「僕でいいのかなぁ」という思いもありつつ、天皇賞で賢さと乗りやすさを確認していたこともあり、彼女の走りができれば十分に勝てるチャンスがあると感じていた。
ゴールドシップ、エピファネイア、ジャスタウェイなど錚々たるメンバーのなか、ジェンティルドンナは4番人気の評価。緊張しいの僕にとっては、ありがたい人気、立ち位置でもあった。
レースは、好スタートから好位3番手につけると、スローペースのなかで壁をつくれずに多少いきたがったが、それが収まってからはリズムのいい走りで手応えも十分。直線は、残り200mで前をいくエピファネイアを捕らえると、最後は闘志を振り絞る走りで後続を完封。まさに根性で勝ち取ったラストランだった。
ジェンティルドンナは、いわゆる“乗り心地のいい馬”ではなかったが、こちらが圧倒されるほどの気持ちの強さを備えており、そこは僕がこれまで乗ってきた牝馬のなかでもトップオブトップ。最後にそんな彼女の背中にいられて幸せだったし、2014年の僕にとって、とても大きな1勝となった。
というのも、この年は有馬記念まで17回もGⅠの騎乗依頼をもらい、上位人気馬もちらほらいたものの未勝利に終わっていたから。僕自身はあまり気にしていなかったのだが、この有馬記念を勝つのと勝たないのでは、僕のイメージが変わってくるだろうなぁくらいの認識はあった。
この年、僕は146勝を挙げて、移籍2年目にして全国リーディングを獲得。エージェントの中村さんをはじめ、周りの方が流れをつくってくれたおかげである。
ちなみに、ジェンティルドンナの手綱が僕に回ってきたのは、天皇賞・秋の鞍上を決める際、僕がリーディングの1位にいたからだとか。石坂正調教師がそう答えている記事を見て、一番上に名前があることの大きさを改めて実感した。
秋開幕時の16勝差を逆転されて迎えた最終週
重賞は、ストレイトガールのヴィクトリアマイルとスプリンターズSのGⅠ2勝を含む8勝。もちろんありがたい成績なのだが、我ながら地味なリーディングというか何というか……。おそらく競馬ファンから見れば、「へぇ〜、戸﨑がリーディングなんだ」といった感じで、そこにいるのがちょっと意外に思える存在感だったのではないかと思う。
そして2015年といえば、クリストフ・ルメールとミルコ・デムーロが通年騎乗を開始した年だ。最終的に、3月スタートのミルコが118勝を挙げて全国3位、4月スタートのクリストフが112勝で同4位につけたあたり、翌年からのリーディング争いが熾烈を極めることは火を見るより明らかだった。これまでのように、好循環のなかをがむしゃらに突き進むだけでは、きっとリーディングは獲れない。僕は戦々恐々としながら2016年を迎えたのだった。
それにしても2016年という年は――。長年生きてきて、あの年の12月ほど精神的に削られたことはない。あの疲労感たるや、思い出すだけでため息が出る。
年明けから、たくさん勝つことに強い意識をもって乗り始めた2016年。前半の僕は、猛スピードで勝ち星を積み重ねていき、7月9日の福島3Rで早くも100勝に到達。この年の年間100勝一番乗りであり、7月9日での達成は史上5番目の早さだったという。
熊野さんと「年間200勝ペースじゃん」なんて話しながら夏競馬を戦い抜き、夏競馬終了時点(9月4日)で僕が135勝、2位のクリストフが119勝。夏競馬で差が広がったこともあり、気持ち的に余裕をもって秋競馬を迎えたのだが……。
その差が一気に縮まったのは、10月8日からスタートした東京競馬場の連続開催。4回東京が終わった時点では、僕が11勝差をつけてリードしていたが、5回東京が終わる頃には僕が170勝、クリストフが165勝とわずか5勝差に。
残り1カ月。暮れの中山競馬場を舞台に、ついにヒリヒリした攻防が始まった。1週目が終わった時点で4勝差となり、2週目で僕はついに逆転を許した。とはいえ、その差はわずか1勝。それでも、小心者の僕にとってあまりにも厳しい戦いで、いっそのこともっと突き放してくれればいいのにとも思ったが、僕の後ろには、応援してくれている厩舎関係者や馬主さん、一生懸命チャンスのある馬を集めてくれている中村さん、日々の僕を支えてくれている熊野さんがいる。
弱気になっている場合ではない。ここは何としても勝ち切らなければ――。1勝差を許したまま迎えた最終週はイレギュラーな3日間開催。勝負の世界にいながら、あまり感情に波がなく、闘志を全面に出すことなんてほとんどない僕だが、この週ばかりは自分のなかにある闘志をかき集め、そして奮い立たせて勝負に挑んだ。