鍵山優真「今のルールでフィギュアスケートの魅力が発揮される」 極上の『トゥーランドット』で体現した表現の真髄

沢田聡子

鍵山の今季フリー『トゥーランドット』は、特別なプログラムだ 【Photo by Joosep Martinson - International Skating Union via Getty Images】

完成度を重視して臨んだ世界選手権

 最高の楽曲と振付、そしてスケーティングによって丹念に創り上げられた鍵山優真のフリー『トゥーランドット』は3月28日、世界選手権(チェコ・プラハ)でようやく完成した。

 鍵山は約1カ月前のミラノ・コルティナ五輪で、2022年北京五輪に続き銀メダルを獲得した。しかしフリーではジャンプにいくつかのミスがあり、プログラムが完成したとは言い難かった。

 鍵山の今季フリー『トゥーランドット』は、グラミー賞作曲家クリストファー・ティン氏が編曲を手がけている。イタリアオペラの名作『トゥーランドット』は作者ジャコモ・プッチーニの逝去により未完のままであり、ティン氏は2024年に新たなエンディングを作曲した。鍵山が使用しているのは、ティン氏によるオリジナルを中心に原曲も含まれているバージョンだ。さらに、イギリスのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団とイングリッシュ・ナショナル・オペラ合唱団による演奏を新たに録音した、特別な音源でもある。

 鍵山はプログラムを担当する世界的な振付師ローリー・ニコル氏、そしてニコル氏の美学を熟知するカロリーナ・コストナーコーチとともに芸術面を磨いてきた。ティン氏との縁も、ニコル氏がつないだものだという。五輪シーズンに満を持して用意した『トゥーランドット』は、鍵山が追求してきた表現力の結晶ともいえる、王道のプログラムなのだ。

 ミラノ五輪の個人戦・フリーで、鍵山は今季初めて4回転フリップに挑戦した。頂点も狙える位置にいた鍵山が4回転の種類を増やそうとするのは、アスリートとしては当然ともいえる。ただ本番で跳んだ4回転フリップでは転倒し、完璧な演技にはならなかった。

 今季最後の試合となる世界選手権に、鍵山は特別な『トゥーランドット』の完成形をみせる意気込みで臨んだ。4回転フリップは封印し、従来通り4回転は2種類(サルコウ・トウループ)3本の構成で、クリーンに滑り切ることを目指したのだ。

目標にしていた「自分らしいスケート」を披露

鍵山優真は世界選手権フリーで自己ベストを更新し、銀メダルを獲得した 【Photo by Yuan Tian/NurPhoto via Getty Images】

 鍵山は2日前のショートで、最後のジャンプだったトリプルアクセルを跳ぼうとした瞬間、うまく踏み切ることができずに転倒した。リンクの溝にエッジがはまったことが原因で、不運としかいいようがないアクシデントだった。しかしショート6位と出遅れたことで吹っ切れたのか、フリーでは鍵山は神がかった演技を披露することになる。

 最終グループの最初に登場した鍵山は、緊張感を漂わせながらも引き締まった表情でスタート位置に着いた。華やかな音楽が流れると同時に、鍵山も氷上を走り出すようにして演技を開始。最初のジャンプとなる4回転サルコウを軸に素早く入る独特の回転のかけ方で決め、4.43という極めて高い加点がつく出来栄えで成功させる。完成版『トゥーランドット』の幕開けだった。

 滑らかなスケーティングが映える美しいイーグルを経て、演技は後半に入っていく。7つのジャンプを含むすべての要素に加点がつき、スピン・ステップはすべてレベル4。最後のジャンプとなるトリプルアクセルを決めてガッツポーズした鍵山は、曲のクライマックスで雄大なレイバック・イナバウアーをみせる。深いエッジワークを駆使し、笑顔を弾けさせながら最後まで滑り切った。滑り終えた鍵山は、拳を突き上げて歓喜を表現した。

 自己最高となるフリーの得点212.87が表示されると、鍵山はキスアンドクライで跳び上がって喜んだ。演技構成点には6つの満点、10.00が並び、極めて高い評価を示している。4回転ジャンプの本数を増やすのではなく完成度を高める戦略が功を奏し、鍵山は遂に極上の『トゥーランドット』を滑り切った。

 合計点306.67で銀メダルを獲得した鍵山は、メダリスト会見で喜びを語った。

「この世界選手権は点数とか順位より、自分の一番満足できる演技を目指していました。やっぱり、オリンピックでの悔しさもすごく残っていたので……。今日のフリーに関しては、最初から最後まで自分らしいスケートをすることを一番目標にしていたので、結果以上に自分が満足できる演技ができたことが、一番良かったと思っています」

「僕はオリンピックで悔しい思いをしたからこそ、世界選手権でシーズン最後に本当に満足のいく演技をしたいと、それだけを目標に1カ月間頑張ってきました。ようやく満足する形で試合を終えられて、今はほっとしています」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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