SVリーグ最終盤「1勝差」の大一番 埼玉上尾の選手たちは何を支えに戦ったのか?

田中夕子

「一つでも長く、一緒に試合ができるように」

黒後愛(写真左)「どんな気持ちも決勝戦と思って戦おう、という意識で入った」 【写真は共同】

 試合後、取材エリアに現れた黒後は「どんな気持ちも決勝戦と思って戦おう、という意識で入った」と明かしながら満面の笑みを浮かべたが、突如、笑顔が涙に変わる。試合前日の27日に今季限りでの退団を発表した岩澤実育の話題に及んだときだった。

 下北沢成徳の先輩後輩で、普段から仲が良いという2人。岩澤も「退団すると決めたときに、最初に『愛さんと同じチームでプレーできなくなるんだ』と頭に浮かぶぐらい、愛さんと一緒にプレーできた時間が嬉しかった」と言い、だからこそ「最後まで勝ち続けてできるだけ長くバレーをしたい」と噛みしめる。

 その言葉を受け、岩澤への思いを口にしようとした途端、黒後の目から涙が溢れた。

「率直に寂しいです。上尾に来て、実育や、成徳のメンバーがいてくれることが私の中ですごく大きい。365日のうち320日ぐらい共に過ごした仲間が、今また同じチームで、SVという場所でプレーできることは自分の中ですごく特別なこと。実育と一緒にメディックスで戦えた時間はすごく楽しかったし、この先もまた一緒にできるようにレベルアップしたい。まずは一つでも長く、一緒に試合ができるように頑張りたいです」

埼玉上尾、デンソーが「1勝差」で競う8枠目

 激闘を制し、チャンピオンシップ進出に一歩近づいた埼玉上尾だが、まだデンソーにも逆転の可能性は残されており、「負けられない」目の前の一戦に全力を尽くすのは同じこと。フルセットで敗れた翌日、辻健志監督は「とにかく悔しい」と述べたが、それでも「やらなければいけないと追い込むのではなく、やってきたバレーをやりきることで活路を見出したい」と話したように、心身のダメージを切り替えるのが難しい状態から立て直し、29日の2戦目はストレートで勝利した。

 攻撃の柱である両外国籍選手の活躍はもちろん、前日よりもミドルブロッカーの蓑輪、柳千嘉の打数と決定率が上がったことも勝利の一因ではあるが、もう一つ、チームの勝利を強く後押しした存在がいる。

 前日から、アウェイゲームであるにも関わらず、会場にはホームの埼玉上尾のチームカラーである“青”だけでなく、デンソーサポーターの“赤”も目立った。優勢時も劣勢時も、変わらず声と拍手、ハリセンの音で後押しする。フルセットで敗れた試合中も、ブロックされたりミスをした直後のスパイカー陣に「どんどんトライしていいよ」と声をかけ続けた主将の川畑も、アウェイで感じる“ホーム”の応援に背中を押されていた一人だ。

「赤と青、本当に半分半分ぐらいの数が来てくださったんじゃないかと思うぐらい、たくさんのエアリービーズの応援があって、アウェイを感じさせない声に勇気づけられました」

 その声援と思いに応えたい。有言実行、とも言うべき勝利で21勝目を挙げ、埼玉上尾との勝ち星の差は一つ。いよいよ来週は最終節、デンソーはAstemoリヴァーレ茨城と、埼玉上尾は岡山シーガルズと、両チーム共にホームゲームでチャンピオンシップ進出を争う。

 8枠目の座を得るのはどちらのチームか。最後の最後まで目が離せない試合が続く。すべてを出し切る、総力戦がきっと福島と、埼玉で展開されるはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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