SVリーグ最終盤「1勝差」の大一番 埼玉上尾の選手たちは何を支えに戦ったのか?

田中夕子

退団が発表された岩澤実育(中央)が下北沢成徳の先輩と3ショット 【田中夕子】

 勝者はコートに歓喜の輪をつくり、跳びはねながら互いに抱き合い、喜びを爆発させる。

 その光景をネット越しに見る敗者はうつむき、肩を落としたまま、茫然と一点を見つめる。

 女子バレーSVリーグのレギュラーラウンドも残り4試合となった最終盤、3月28日に蓮田総合市民体育館パルシーで開催された8位・埼玉上尾メディックスと9位・デンソーエアリービーズの試合は、上位8チームが進出するチャンピオンシップをかけた大一番だった。

大一番を左右した「コントロールできること」

 初戦を制したのは、埼玉上尾メディックスだ。POM(Player of the Match)を受賞した埼玉上尾のセッター、岩崎こよみは熱戦の余韻が残るコートインタビューで、開口一番、声を張り上げた。

「うちのアタッカーはほんっとうにすごいです。今年は最後までプレーオフ争いをしているので、見ている方は“戦力ダウンした”と思うかもしれないですけど、対戦相手には常に外国籍選手がたくさんいる中で、(埼玉上尾のアタッカー)全員が『私に持って来い』という気持ちを出して、厳しい試合を打ち勝ってくれる。本当に、アタッカーに感謝です。ありがとうございます」

 勝利の後こそ、コートでは満面の笑みがこぼれていたが、試合前や試合直後はそうではない。普段通り、いつもと同じように目の前の試合を大切に、と思っていても勝つか負けるかでその先は大きく異なる可能性を含んでいる。

 緊張するな、というほうがむしろ難しい中、前節の3月23日に行われたクインシーズ刈谷戦もストレートとフルセットで勝利を収めた直後、大久保茂和監督はこう言った。

「自分たちがコントロールできることに集中する。みんな、順位も気になるけれど順位はコントロールできないので、これまで積み重ねてきたこと、選手同士のボディタッチやアイコンタクト。できたことを喜び合うことは自分たちでコントロールできることであり、それを繰り返し言い続けることが自分の役目。たとえば昨日(22日)の試合でもリードしながら相手に追いつかれそうな場面で黒後(愛)が止められた。でもそのとき、こよみが『いいんだよ、失敗したっていい。思い切ってやろう』と声をかけたら、やり返した。少し前までは同じ状況で『大丈夫かな?』と思っていたメンタルが、今は『攻めていい』と励ますだけでなく、チャレンジに失敗はつきものだから、それも受け入れて積み重ねてきたものを発揮しようと取り組んでいる。だからこそ、次の試合も同じ。大切な試合ですが、いつも通り、自分たちにできることをする。それだけだと思っています」

ヒントになった菊池雄星選手の言葉

 大久保監督が求めた“できること”は決して特別なものではない。スパイク時はしっかりフルスイングして打つ。アタッカーだけでなく、周りの選手たちはブロックの枚数を伝え、フォローに入り、コート外の選手やスタッフ、試合をリアルタイムで分析するアナリストの指示を受けながら、どのスペースが空くのか。コミュニケーションを取り続けながら、会話と対話を重ねて、たとえミスをしたり、ブロックに止められたとしても1%ずつ改善していくことに努める。

 そしてもう一つ、チーム全員で共有する日誌に書かれたある言葉が、この日の試合では大きな支えになった、と大久保監督は明かす。

「昨日の日誌は(内瀬戸)真実の担当だったのですが、そこには『菊池雄星選手が、落ち込んでいる時間がもったいないと言っていた』と書かれていました。バレーボールもまさに同じ。相手のすごいスパイクでレシーブができなかったとしても、やられてしまった、と落ち込み続ければ『今日は調子が悪いんじゃないか』という気持ちに左右されてしまう。そうではなく、落ち込む時間は短く。サーブで崩されても次の1本を頑張る、ディフェンスで弾かれても相手の調子がいいと割り切って次に意識を向ける。その象徴が、最後のサーブだったんじゃないでしょうか」

マッチポイントを呼び込んだ“集中”

 1、3セットをデンソーが取り、2、4セットは埼玉上尾が取り返し、11月の対戦時と同様にフルセットへ突入した。2本のブロックを含む連続得点で5対2と序盤は埼玉上尾が先行したが、デンソーもロザマリア・モンチベレル、サブリーナ・デジャズス・マシャドの攻撃で応戦。埼玉上尾の攻撃を主将でリベロの川畑遥奈が好守でつなぎ、11対11の同点に追いつき、蓑輪幸のスパイクで連続得点し12対13と終盤に逆転した。

 15点先取の最終セットに3点差からの逆転で一気に盛り上がるデンソーに対し、埼玉上尾もオクム大庭冬美ハウィのスパイクでラリーを制し、13対13。

 ここでサーブ順が回ってきたのが黒後だった。

 実は13点目を得たラリーの場面で、セッターの岩崎は黒後の攻撃を続けて選択したが、決まらなかった。「自分が決めていれば」と矢印を向けてしまいがちな場面ではあったが、黒後は「シゲさん(大久保監督)が『反省する時間を短くしよう』と言ってくれたおかげで、浮き沈みや変化がある中でもブレることなく戻ってこられる状態になっていた」と言い、サーブについても言及した。

「強くて速いサーブがあまりいい感覚で打てていなかったので、少し力を抜いたドロップサーブのほうが自信もあった。相手のローテーションを見たときに、『ここでドロップ(サーブ)を打てば行ける』と確信があったので、前に落とすサーブで守備を崩せて、ブロックにつながった。狙い通りのサーブが打てて嬉しかったですけど、でも少しでも早く『集中したい』と身体が勝手に動いたので、みんなが喜ぶ輪の中には入りませんでした」

 黒後の言葉が示すように、井上奈々朱のブロックで14点目を上げ、コートで雄叫びをあげる選手たちがつくった歓喜の輪には加わらず、そのまま背を向けサーブエリアへ向かった。集中した状態で放ったサーブはネットを挟んでデンソーのコート左奥(ゾーン1)へ。狙い通り、返球が乱れた状況でロザマリアが放ったスパイクはラインを割り、15点目が埼玉上尾に入り、2時間47分に及んだ大熱戦を制し、22勝目を挙げた。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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