W杯まで2カ月半――森保ジャパン、今そこにある“危機”と英国遠征で課せられる4つのミッション

佐藤景

ホットライン形成が期待される上田(左)と三笘。上田はクラブでの好調を代表でも維持できるか。一方、三笘は昨年9月以来の選出となった 【Photo by Masashi Hara/Getty Images/Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

 2023年3月のウルグアイ戦から始まった第2期森保ジャパンのチーム作りも、3月末の英国遠征で最終段階に入る。これまでの親善試合でドイツやブラジルを下すなど、6月の北中米ワールドカップ(W杯)での期待は高まるばかりだが、ここに来て、かつてない難局を迎えてもいる。W杯メンバー発表前最後のテストマッチとなるこの遠征で、森保ジャパンに課せられるミッションとは?

ミッション1:この難局をプラスに転換できるか?

 2026年夏の北中米W杯開幕まで3カ月を切った。アジア最終予選を史上最速で駆け抜け、本大会でオランダ、チュニジア、欧州プレーオフ勝者と同組になった今、日本代表は「チーム完成」への最終段階に足を踏み入れている。その総仕上げとなるのが、3月28日のスコットランド戦、31日のイングランド戦に臨む英国遠征だ。

 しかし、この貴重な機会を前に、チームはかつてない難局に直面している。主力メンバーを襲った“負傷の連鎖”が、積み上げてきた自信を根底から揺さぶっているからだ。

 これまで屋台骨を支えてきた南野拓実と遠藤航の長期離脱は、単なる「不在」以上の影を落とす。南野は25年12月に左ひざ前十字じん帯を断裂。森保ジャパン最多出場の選手が本大会のピッチに立てるかは依然として予断を許さない。主将の遠藤も今年2月に手術を余儀なくされた。大会前に復帰の可能性が報じられているが、世界一を争う舞台で即座に本来の持ち味を発揮できるかは未知数だ。

 さらに久保建英、板倉滉ら主軸の招集見送りに加え、ひざに重傷を負った町田浩樹も復帰途上。本来ならベストメンバーで戦術を完結させたい時期に、これほど多くの「柱」を欠く事態は、大きな痛手だろう。

 追い打ちをかけるように、ザンクトパウリの安藤智哉も21日のフライブルク戦終盤に負傷し、遠征不参加が決定。代わって橋岡大樹が追加招集された。とりわけ守備陣に負傷が続出する中で、今年1月にブンデスリーガの門を叩いた安藤は着実に存在感を増していただけに、本人はもちろん代表チームにとってもその不在は悔やまれる。

 さらに、冨安健洋も22日、アヤックスの左サイドバックとして臨んだフェイエノールト戦で右足を負傷。当初は代表合流を遅らせて様子を見ていたが、最終的に不参加が決まった。1年9カ月ぶりとなる待望の代表復帰は、目前で潰えた格好だ。

 1年ぶりに名を連ねた伊藤洋輝もクラブで復帰したばかりで、出場時間は依然として限定的。今回の遠征は、かつてない綱渡りの陣容を強いられている。本番に向けた守備の再編成という狙いも、大幅な修正を余儀なくされたと言わざるを得ない。

 だが、こうした窮地にあっても、森保一監督の考えがブレることはなさそうだ。二十歳の塩貝健人を初招集するサプライズを提供した指揮官は、今月19日のメンバー発表会見で次のように語っていた。

「実際に今、ケガ人が多く、チームを固める作業はできないかもしれない。ですが、W杯で勝つための最大値を考えて、可能性のある選手は積極的に招集すべきだと思っています。最後には最強のチームを作り上げたい」

 もはやベストメンバー不在を嘆く時間は残されていない。それゆえに、この「主力の空洞化」を新陳代謝の好機として受け入れるということかもしれない。

 そもそも森保監督は、W杯での激闘を見据え「2チーム分の戦力が必要」と説き続けてきた。固定メンバーに固執することは、酷暑の北米大陸ではリスクでしかない。不測の事態にも機能不全に陥らず、むしろ「2組目の主役たち」が序列を覆すほどの色彩を加えられるか。その成否が日本代表の命運を分けると言ってもいい。

 スコットランド戦から中2日でイングランド戦を行う強行軍も、本大会の勝負どころで繰り出す交代策やターンオーバーの成否を占う格好の試金石となる。この逆境を“層の厚み”へときっちり転換できなければ、ベスト8という壁は再び高く立ちはだかるだろう。文字通り、チームの総力が測られる遠征になる。

ミッション2:ドイツ戦のような守備組織を再現できるか?

1年9カ月ぶりの代表復帰だった冨安(左)だが、無念にも直前に負傷して不参加に。冨安、板倉が不在のなか、谷口には守備リーダーとして期待がかかる 【Photo by Kenta Harada/Getty Images/Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 日本の現状をはっきりと知る上で、これ以上ない相手が用意されている。特にイングランド戦は、グループ最大のライバル、オランダ戦の格好のシミュレーションとなるはずだ。

 プレミアリーグのスターを多数擁するイングランドの個の打開力と戦術の柔軟性は、オランダと同等かそれ以上の脅威を突きつける。デクラン・ライスが振るうタクト、ブカヨ・サカやジュード・ベリンガムがもたらす打開力は、オランダのフレンキー・デ・ヨング、コーディ・ガクポ、シャビ・シモンズのそれと重なる。

 両チームともに4-3-3をベースに状況に応じて立ち位置を変化させる現代的なシステムを採用するが、このモダンなスタイルを持つ強豪に、日本がアジア予選で見せた「全能感」を再現するのはさすがに難しいだろう。とはいえ、ただ受け身の守備を強いられるだけに終われば、脆さだけを露呈すれば、本大会への期待が一気に冷え込むことになる。

 そうした状況を踏まえつつ、ここで再確認すべきは、守備における妥協なきリアリズムである。カタールW杯以降、「ボール保持」の向上に腐心してきたが、格上が相手となれば、守勢に回る時間は必然的に長くなる。アジア予選で謳歌できた「攻め倒す」という考えも、イングランド戦ではいったん脇に置く必要があるだろう。

 想起しておきたい試合がある。2023年9月にアウェーでドイツを4-1と粉砕した一戦だ。勝利を呼び込むベースとなったのはミドルゾーンでのブロック守備だった。この試合はセンターバックのコンビを組んだ冨安と板倉がハイラインを維持し、全体をコンパクトに保つことでミドルゾーンから前向きの守備を実現した。カタールW杯で逆転勝ちを導く要因となったマンツーマンだけではない、守備面の進化を感じさせたものだった。

 ただし今回は板倉が不在で、待望の復帰と思われた冨安までもが欠ける緊急事態となった。ドイツで日常的に世界に触れ、大きな期待を寄せられていた安藤も不参加。代わってピッチに立つ選手が、世界基準の圧力を前にどれだけ守備の規律を保ち、攻撃に転じられるかがポイントになる。当時は4-2-3-1の陣形を基本としていたが、現在は3-4-2-1がベース。ミドルブロックの整備と5バックへの移行タイミングなど、格上国の猛攻をいなす術を再確認したいところだ。

 自陣に引きすぎず、かといって前掛かりにもなりすぎず、状況に応じて守備を変化させたのが、くだんのドイツ戦だった。昨年9月以降に行われたW杯出場国とのテストマッチでは、この守備の局面の判断やバランスの維持に課題が見られた。アメリカ戦(25年9月/●0-2)やパラグアイ戦(同10月/△2-2)、そして逆転勝利を収めたとはいえブラジルに対しても(同10月/〇3-2)、守勢に回った時間帯に耐えきれない脆さを露呈している。

 これらの反省を生かし、イングランド戦ではミドルゾーンに構えてから攻めに転じる、あのドイツ戦で奏効した形の再現が求められる。前述のテストマッチと同じ轍を踏むことは避けねばならない。

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著者プロフィール

大学卒業後、(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊プロレス編集次長、ワールドサッカーマガジン編集長、サッカーマガジン編集長を歴任し、2022年7月に退社。現在はフリーランスとして活動し、サッカー日本代表、Jリーグのほかスポーツを中心に取材を続けている

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