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日米で起きた打撃の進化と変化 魚雷バットと新基準金属バット、その背景は?

川村卓

高校野球のバッティング事情 金属製バットを魔法の杖にしてはいけない

 バットの話の流れから、2024年から日本の高校野球で導入された「新基準バット」についても触れておきたい。従来よりも反発が抑えられたことで、「低反発バット」とも呼ばれる。規格変更の背景を説明するために、高校野球と金属バットの歴史を紹介したい。

 日本高野連が初めて金属バットを導入したのが1974年のこと。各メーカーが性能と安全性を高めながら、開発を進めていく中で、1999年に日本高野連の牧野直隆会長が「金属製バットを魔法の杖にしてはいけない」と打撃性能の抑制に取り組み始めた。その結果、公認野球規則に次のような文面が加わった(2001年秋から採用)。

①最大径の制限―バットの最大値は67ミリ未満とする
②質量の制限―バットの質量は900グラム以上とする
③形状の制限―先端からグリップ部までは、なだらかな傾斜でなければならない

 はじめは「900グラムは高校生に重すぎるのでは?」という声が多くあったが、重いバットに対応するために筋力トレーニングや食事に力を入れる学校が増え、出場校の平均体重は年々増加。2006年夏の甲子園で過去最多の60本塁打、さらに2017年には68本塁打が飛び出し、大会記録が更新された。バットの性能(規則の範囲内で)がどんどん上がっていったこともあり、「打高投低」の時代が続いた。

 当然、打球速度も上がっていく。2019年夏の甲子園では、顔面に打球を受けた投手が頬骨を骨折。練習試合では打球が直撃した投手が、命を落とす悲しい事故も起きていた。こうした背景があり、日本高野連は製品安全協会と連携を図り、金属バットの新たな基準を設けることになった。大きな目的は次の2つだ。

①打球による負傷事故の防止(特に投手)
②投手の負担軽減によるケガ防止

 2022年に高野連独自の規定が設けられ、2024年春から新基準バットが正式に導入されることになった。

ヘッドが返りやすい新基準バット

 従来からの大きな変更点は次の2点となる。

①バットの最大直径をこれまでの67ミリ未満から64ミリ未満と変更する
②打球部の肉厚を従来の約3ミリから4ミリとする

 重さは従来と同じ900グラム以上のままで、バットの芯が細くなり、打球部の厚みが増した。厚みが増すと、これまでに見られた「トランポリン効果」が薄くなり、打球速度が落ちる。旧基準バットでは、インパクトの瞬間にボールとともにバットも歪み、元に戻ろうとする力でボールが飛んでいた。

 高野連の実験では、打球の初速が約3・6パーセント、反発性能も従来のバットと比べて5パーセントから9パーセント落ちたという結果が出ている。

【画像提供:株式会社カンゼン】

 図21は、夏の甲子園大会での新旧規格バットの打撃成績を比較したものだ。2022年から23年は旧基準、2024年から25年は新基準となる。当然と言えば当然だが、打率、長打率、OPS などの数字が軒並み下がっている。その一方で、この表にはないが、2024年と25年を比較すると、25年のほうが全体的な打撃の数字が上がっている。バットへの慣れとともに、バットそのものの性能が上がっていることも関係しているのではないだろうか。

 新基準バットの大きな特徴としては、従来のバットよりも重心が手元寄りに移ったことにある。長距離向けのバットほど重心がヘッド寄りにあることを考えると、新基準バットは中距離打者向け。ある意味では、万人に振りやすいバットと言える。

 デメリットがあるとすれば、ヘッドが早く返りやすいため、特に左打者の一、二塁間を抜けるゴロヒットが多い傾向があると言われているが、バットの重心位置と無関係ではないだろう。

 ただ、このバッティングが上のレベルで通用するかとなると、また別の話になる。右打者は右手、左打者は左手の押し込みを使い、ほんのわずかでもボールがバットに吸い付く時間を長く作ることが、新基準バットで長打を打つカギとなる。

 指導現場からは「しっかりと芯に当てて、振り抜かなければ飛ばない」という声もあり、高校年代でバッティングの土台を身につけることを考えると、意義のあるバットと言える。新基準バットで育った選手たちが、今後どのような打者に育っていくのか楽しみにしたい。

書籍紹介

【画像提供:株式会社カンゼン】

 データの進化とともに技術・教え方・戦い方が変わる球界の常識&トレンドを筑波大学教授で現役硬式野球部監督でもある川村卓氏がデータから"科学的"に検証。ラプソード・トラックマン・ホークアイとは?初心者に優しい最新機器の活用事情、大谷翔平や山本由伸のすごさとは?

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