「負けるなら猛史に」森井大輝が託した表彰台 鈴木猛史、3大会ぶりのメダル獲得
回転は大回転と同様、2本の合計タイムで争われる。
この日はこれまでの天候とは打って変わった大荒れの状態でレースが行われ、途中棄権者が続出する波乱の展開となった。
視界を奪う大雪 完走者を削った過酷な1本目
結果は34人中12人が途中棄権または失格と、まさに完走するだけでも価値があるレースだった。
その中で、日本勢は冷静だった。
鈴木は47秒65で暫定3位、森井は47秒97で暫定4位。ともにメダル圏内につける安定した滑りを見せる。
「1本目は(コースの)様子が分からなかったが、自分の滑りをしようと思って滑れた」
そう振り返った鈴木は、コースセットを覚えない独特のスタイルを持つ。視界が悪くても「見えたポールに体を反応させる」感覚で滑るという。
この感覚的な滑りが、結果として視界不良のコンディションで力を発揮した。
攻めた2本目 鈴木が全体トップタイム
先にスタートした森井は、攻めの滑りを選択する。
「霧で見えないから抑える、ということはなかった。悔いが残らない滑りをしようと思って、攻めて、攻めて、攻めた。全てを出し切ったレースだった」
2本目のタイムは44秒03。全体4位のタイムでフィニッシュした。
続く鈴木はさらに攻めた。レース前、スタッフにこう伝えていた。
「失敗したらごめん。それくらい攻めます」
ただスタート前には気持ちの面で葛藤があった。自分のすぐ下の順位には森井がいたからだ。
「森井先輩にもメダルを獲ってほしい気持ちもあった。でも上位2人は速い。(2本目のタイムで)抜かれるとしたら僕しかいない」
後輩としての思いと、勝負の世界の現実。その間で揺れながらも、鈴木は決断する。
「妻にメダルを見せたい。『妻の支えがあったからこそメダルを獲れた』と言いたかった。だから先輩に負けるわけにはいかない」
その覚悟が、結果につながった。2本目は全体トップとなる43秒65。 フィニッシュ直後、掲示板に「1位」の文字が表示されると、思わずガッツポーズが出た。
「真っ先に浮かんだのは妻の顔。息子や娘、応援してくれている人の顔が浮かんできて、ついガッツポーズが出ました」
最終結果は合計1分31秒30。 鈴木は2014年ソチ大会以来、3大会ぶりのメダルとなる銅メダルを手にした。
鈴木はメダルを首にかけ、率直な気持ちを問われると「今回のパラリンピックは本当にメダルが獲れないんじゃないかという気持ちもあったので、獲れてほっとしている。妻にメダルを見せられるのがうれしい」と涙をこらえながら答えた。