「伸び」のある投球の正体は? 投手の球質を測る3つの要素と変化しやすい数値
もっとも変化が見えるのが「回転軸」
よくあるのが、体が疲れていないときは、ジャイロの角度が浅い。しかし、疲労が溜まってくると、ジャイロの角度が深くなっていく。下半身を使えなくなり、上半身だけで何とか頑張ろうとして、腕を巻き込むような投げ方になっていることがある。
これは、ヒジにかかる負担が大きく、故障のリスクを高めることにもなりかねない。計測機器によって、こうしたこともわかってくる。
また、スライダー系の変化球を数多く投げていると、どうしても小指が前に出るようなリリースになり、そのクセがストレートを投げるときにも出てしまう。「スライダーを覚えてから、ストレートの回転が悪くなった」とはよく聞く話だが、日頃から回転軸をチェックしておけば、予防できる。
さらに加えれば、上半身を中心にトレーニングをしていると、下半身と上半身のバランスが崩れ、本来は下から生み出される運動連鎖が機能しないことになる。結果として、無理やり腕を振ることになり、ジャイロ成分が増えてしまう。
ジャイロの角度は、「回転効率」(投じたボールにかかるバックスピン、トップスピン、サイドスピンが占める割合)で示すことができ、その数値が高いほどバックスピンがかかったストレートと定義できる。
目安として優れたストレートを投げる投手はジャイロ角度が
10度以下で回転効率は90以上。ジャイロ角度が20度以上になると、回転効率は80〜90に落ちる。右投手が右打者の外角を狙う(左投手は左打者の外角)と、対角に投げようとするため、小指が前に出ていきやすい。内角に投じたときと比べて、回転効率が落ちる投手が多い【図4参照】。
回転数から見る「伸び」の正体
ただ、ひとつ言えるのは、「初速と終速の差が少ない球=伸びがある」と考えるのは間違えということだ。トラッキング機器が現れる前は、初速と終速が小さいほど、バックスピンが効いた優れたストレートと思われていた。実際には、バックスピンがかかっているほど、空気の抵抗が大きくかかるため、初速と終速に差が現れる。
打者それぞれによる感じ方の違いはあると思うが、私自身は回転数が多いとホップしていて、回転数が少ないとボールが減速せずに〝ドーン!〞と迫ってくるように感じる。
とはいえ、投手ひとりひとりには個性や特徴があるもので、全員がきれいなバックスピンが効いたフォーシームを投げる必要もない。
「垂れ系」と表現されることがあるが、フォーシームの回転なのに打者の手元で沈む球を投げられれば、ゴロを打たせることができる。俗に、「汚い回転」と言われるボールだ。
打者は同じような軌道のボールには対応しやすいが、「あれ? 今の何?」と思うボールへの対応は時間がかかる。トラッキング機器が出始めてからよく言われたのが、「平均から外れるボールは有効」という言葉だ。古い例えになるが、阪神時代の藤川球児氏(現阪神監督)のストレートが打たれにくかったのは、打者が想像している以上にホップしているように感じたから。その想像は、平均値によって作られたものと言える。
ここで重要になるのは、「投手の役割は打者をアウトにする」という当たり前の事実を忘れてはいけない、ということだ。つまりは、打者がどう感じているか。回転数を上げることにこだわって、実際に数値は上がったが、打者からすると「素直な回転で打ちやすいボールになった」という事例はいくつもある。
さまざまな数値を見て、球質に興味を持つことは大事であるが、投手としての本質を忘れてはならない。数値をクリアすることが目的化してしまわないように、指導者も選手自身も注意しておきたい。
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