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「伸び」のある投球の正体は? 投手の球質を測る3つの要素と変化しやすい数値

川村卓

もっとも変化が見えるのが「回転軸」

 人間は2つのものを同時に見ることはできるが、3つを比較するのは難しい、と言われる。球質で考えれば、球速・回転数・回転軸となるわけだが、指導者側の視点としては回転軸を注視するようにしている。これは、投手本人にも伝えていることで、逆の言い方をすれば、球速や回転数はさほど気にしなくていい。

【出典:『野球データ⾰命』(2021 年)、p.51 などより作成】

 なぜなら、日々のブルペンで計測している中で、球速と回転数にはさほど大きな変化はないが、回転軸はその投手のコンディションによって違いが生まれるからだ。

 よくあるのが、体が疲れていないときは、ジャイロの角度が浅い。しかし、疲労が溜まってくると、ジャイロの角度が深くなっていく。下半身を使えなくなり、上半身だけで何とか頑張ろうとして、腕を巻き込むような投げ方になっていることがある。

 これは、ヒジにかかる負担が大きく、故障のリスクを高めることにもなりかねない。計測機器によって、こうしたこともわかってくる。

 また、スライダー系の変化球を数多く投げていると、どうしても小指が前に出るようなリリースになり、そのクセがストレートを投げるときにも出てしまう。「スライダーを覚えてから、ストレートの回転が悪くなった」とはよく聞く話だが、日頃から回転軸をチェックしておけば、予防できる。

 さらに加えれば、上半身を中心にトレーニングをしていると、下半身と上半身のバランスが崩れ、本来は下から生み出される運動連鎖が機能しないことになる。結果として、無理やり腕を振ることになり、ジャイロ成分が増えてしまう。

 ジャイロの角度は、「回転効率」(投じたボールにかかるバックスピン、トップスピン、サイドスピンが占める割合)で示すことができ、その数値が高いほどバックスピンがかかったストレートと定義できる。

 目安として優れたストレートを投げる投手はジャイロ角度が
10度以下で回転効率は90以上。ジャイロ角度が20度以上になると、回転効率は80〜90に落ちる。右投手が右打者の外角を狙う(左投手は左打者の外角)と、対角に投げようとするため、小指が前に出ていきやすい。内角に投じたときと比べて、回転効率が落ちる投手が多い【図4参照】。

回転数から見る「伸び」の正体

 プロ野球中継を見ていると、解説者が「伸びがありますね」や「キレのあるストレートですね」といった表現をする。私も「伸びって何ですか?」と聞かれることがあるのだが、非常に感覚的な表現なので、わかるようでわからない。何とも説明が難しい、野球用語である。

 ただ、ひとつ言えるのは、「初速と終速の差が少ない球=伸びがある」と考えるのは間違えということだ。トラッキング機器が現れる前は、初速と終速が小さいほど、バックスピンが効いた優れたストレートと思われていた。実際には、バックスピンがかかっているほど、空気の抵抗が大きくかかるため、初速と終速に差が現れる。

【画像提供:株式会社カンゼン】

 逆に、ジャイロスピンのように進行方向に対する回転が少ないと、空気の抵抗を受けにくくなり、初速と終速の差が小さくなる。

 打者それぞれによる感じ方の違いはあると思うが、私自身は回転数が多いとホップしていて、回転数が少ないとボールが減速せずに〝ドーン!〞と迫ってくるように感じる。

 とはいえ、投手ひとりひとりには個性や特徴があるもので、全員がきれいなバックスピンが効いたフォーシームを投げる必要もない。

「垂れ系」と表現されることがあるが、フォーシームの回転なのに打者の手元で沈む球を投げられれば、ゴロを打たせることができる。俗に、「汚い回転」と言われるボールだ。

 打者は同じような軌道のボールには対応しやすいが、「あれ? 今の何?」と思うボールへの対応は時間がかかる。トラッキング機器が出始めてからよく言われたのが、「平均から外れるボールは有効」という言葉だ。古い例えになるが、阪神時代の藤川球児氏(現阪神監督)のストレートが打たれにくかったのは、打者が想像している以上にホップしているように感じたから。その想像は、平均値によって作られたものと言える。

 ここで重要になるのは、「投手の役割は打者をアウトにする」という当たり前の事実を忘れてはいけない、ということだ。つまりは、打者がどう感じているか。回転数を上げることにこだわって、実際に数値は上がったが、打者からすると「素直な回転で打ちやすいボールになった」という事例はいくつもある。

 さまざまな数値を見て、球質に興味を持つことは大事であるが、投手としての本質を忘れてはならない。数値をクリアすることが目的化してしまわないように、指導者も選手自身も注意しておきたい。

書籍紹介

【画像提供:株式会社カンゼン】

 データの進化とともに技術・教え方・戦い方が変わる球界の常識&トレンドを筑波大学教授で現役硬式野球部監督でもある川村卓氏がデータから"科学的"に検証。ラプソード・トラックマン・ホークアイとは?初心者に優しい最新機器の活用事情、大谷翔平や山本由伸のすごさとは?

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