現代野球を“見える化”する 最先端のデータ分析と戦略

「伸び」のある投球の正体は? 投手の球質を測る3つの要素と変化しやすい数値

川村卓

【写真は共同】

 データの進化とともに技術・教え方・戦い方が変わる球界の常識&トレンドを筑波大学教授で現役硬式野球部監督でもある川村卓氏がデータから"科学的"に検証。ラプソード・トラックマン・ホークアイとは?初心者に優しい最新機器の活用事情、大谷翔平や山本由伸のすごさとは?

「現代野球を"見える化"する 最先端のデータ分析と戦略」から一部抜粋して公開します。

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毎日計測することの大切さ

 トラッキングシステムの話をもう少し続けたい。

 昨今、MLBでも、NPBでも投手のレベルが上がり、「打者がその流れに追いつけていないのではないか」と、議論される機会が増えた。

 NPBにおいて、2025年はセ・パ両リーグで3割打者がわずかに3人(ソフトバンク・牧原大成選手、広島・小園海斗選手、巨人・泉口友汰選手)。2024年もセ・リーグの3割打者は2人で、じつに51年ぶりのことだった。「ボールが飛ばない」という声が現場からは聞こえてくるが、それを割り引いたとしても、投高打低が進んでいると見ていいだろう。

「はじめに」で述べた通り、野球という競技そのものが投手有利のスポーツであるのは間違いない。主導権はボールを持った投手にあり、自分自身の成長がパフォーマンスにつながりやすいポジションと言える。一方の打者は、どれだけスイングスピードが速くなったとしても、投手が投じるフォームやボールにタイミングを合わせなければならず、さまざまな球種への対応力が求められる。

 投手が成長している要因として、トレーニング理論や器具の発展とともに、トラッキングシステムによって「球質」をより正確に計測できるようになったことも大きいように思う。球速、回転数、回転軸などを総合的に見たボールの質を意味する。

 従来であれば、「スピードが速い」「スライダーの曲がりが大きい」といった抽象的な評価が主だったが、「ストレートがどのぐらいホップしているのか」「誰と比べて何センチ曲がり幅が大きいのか」など数字的な物差しができた。

 計測を続けることで、コンディションが良いときと悪いときで球質を比較し、「なぜ、この球質になっているのか」を分析したうえで、投球フォームの改善に生かすこともできる。私は大学生を指導する立場であるが、学生によく言っているのは「練習から毎日計測し続けることが大事」(主にラプソードを活用)。調子がいい日だけ計測しても、自己満足で終わってしまうだけである。

球速+回転数+回転軸で球質を計る

 球質について、掘り下げて解説していきたい。

 球速は言うまでもなく、ボールのスピードのこと。ストレート(フォーシーム)に関して言えば、速ければ速いほど被打率が下がり、スイング割合が上がり、空振り率が高まる、というデータがある。「スピードが速い=投手のリリースから打者に到達するまでの時間が短い」となるわけで、打者からするとボールを見極める時間に制限がかかる(105ページ参照)。当然、選球眼にも影響が出る。

 回転数は、1分間にどれだけボールが回転したかを示したものとなる。注意したいのは、バッテリー間での回転数ではない、ということだ。ストレートであれば、プロ野球選手の
平均は毎分2200回転〜2300回転、高校生は毎分1800回転〜2000回転。一般的には、球速と回転数は相関関係が強く、スピードが上がるほど回転数も増えるケースが多い。

 高校生や大学生がラプソードで計測した際、回転数が多いことを喜ぶ姿を目にするが、球速と回転数だけでは、正確な「球質」は計れない。

 大事なのは、もうひとつの回転軸である。基本的な話として、投球においてボールにかかる回転は「バックスピン」「トップスピン」「ジャイロスピン」「サイドスピン」の4つがある【図1参照】。バックスピンの回転数が多い場合は、回転軸に対して直角の力が働き、いわゆる「マグヌス力」の効果が大きくなる【図2参照】。実際には、重力の影響でボールは斜め下方向に落ちていくのだが、打者目線では浮き上がっているように見えるストレートとなる。

【出典:『 時代の野球データ論 フライボール⾰命のメカニズム』(2019 年)、p.131などより作成】

【出典:『野球データ⾰命』(2021 年)、p.49 などより作成】

 回転軸には、横から見た軸の方向と、真上から見た軸の方向があり、トラッキング機器で計測ができる。バックスピンの効いたストレートを投げたいのであれば、横から見た回転軸を0度にして(地面に対して水平)、手のひらをキャッチャーに向けてボールを離す【図3参照】。実際に腕を振るときには遠心力がかかるので、0度で離すのは現実的に難しく、オーバースローであっても、20〜30度傾く。WBC アメリカ代表のカー・ショウ投手(ドジャース)のように、体を傾けて真上から投げる投手であれば、0度に近い状態を作るのは可能だ。

 手のひらがキャッチャー方向に向く角度を0度だとした場合、小指が先行する形(右投手であれば手のひらが一塁ベンチ側に向く)でリリースされると、回転軸が傾き、ジャイロスピンの成分が入りやすくなる。「真っスラ」とも表現されるボールで、バックスピンの効果が薄れやすい。この場合、いくら回転数が多くても、打者にとっては打ちやすいボールになる。ただし、ジャイロ成分のすべてが悪いわけではなく、曲がり球系の変化球を投げる場合は、手のひらの角度でジャイロ成分を調整することが重要となる。

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