イタリアの老夫婦が「ラティーナからトップ選手になった」と誇る石川祐希 計画もあった五輪の聖火ランナーは実現せず

田中夕子

垂水優芽(右)と石川祐希(左)はイタリアのバレーボールファンの間でも人気が高い 【Photo by Loris Cerquiglini/NurPhoto via Getty Images】

チステルナで老夫婦が教えてくれた日本人選手の人気

 2月22日にミラノコルティナ五輪が閉幕した。

 現地イタリアと日本の時差は8時間、テレビやインターネットでの中継を見るために寝不足の日々が続いたが、冬季最多の24個というメダル獲得や、メダルだけでなく記憶に残るパフォーマンスの数々に熱くなった日々が終わった。

 さかのぼれば開幕は2月6日。同日、筆者は現地イタリアにいた。と言っても五輪取材ではなく、バレーボールの取材だ。しかも同じイタリア国内とはいえ、北部のミラノから約600キロ離れたローマよりもさらに南に位置するラティーナに隣接するチステルナ、そしてボローニャ、ペルージャと取材で訪れた場所は五輪で盛り上がる現地からは遠く離れていた。空港にも取材で訪れた街でもテレビをつけなければなかなか五輪に触れることはなかったが、五輪だけに関わらず、イタリアは変わらずいつも通りに、我が町のクラブや選手を応援する人たちの姿があった。

 たとえばチステルナでは、「毎日必ず(バレーボールセリエAの)チステルナの練習を見に来るのが楽しみ」という老夫婦に出会った。イタリア語と日本語、コミュニケーションはスマートフォンの翻訳アプリを駆使しての会話ではあったが、チステルナでプレーする垂水優芽や、垂水以外の選手のことを熱心に教えてくれる。

 イタリアに渡った一年前、「現地へ来るまでイタリア語はほとんど話せなかった」と言う垂水だが、2年目のシーズンを迎えた今季は練習中もチームメイトと談笑する回数は格段に増えていた。カメラマンが向けるカメラに向けて「自分も撮ってくれ」とばかりに笑顔でポーズをする選手とふざけ合いながら垂水も笑う。そんな姿を見ながら「44年間、看護師の仕事をしていて今はこの(練習を見に来る)時間が1日の中の最高の楽しみ」という老婦人がスマートフォンに入力された文字を見せてくれた。そこには「ユウガは夫の話が長いから、たまに聞いたフリをして聞いていない」と絵文字入りの冗談が書かれていたが、その後、続けてまた違うメッセージを見せてくれた。

「言葉ができなくても、イタリアでチャレンジしようと飛び込んできたユウガはすごい。ユウガのおかげで私たちも日本のバレーを知ったし、イタリアでも日本のバレー、日本人選手はとても人気です」

 遠く離れた場所で戦う、日本人選手を「すごい」と笑顔で称えてくれる人がいる。日本代表として戦う国際試合では世界各国で日本チームの人気を実感することもあるが、イタリアのクラブでプレーする日本人がいるからこその光景でもあることを、改めて感じる1シーンだった。

 明日もここへ来るのか? と尋ねられ、ボローニャへコッパイタリアファイナルを取材に行く、と伝えるとまだ笑みがこぼれた。そして、翻訳を使わなくてもわかる言葉を老夫婦が揃って口にした。

「ユーキイシカワ!」

 そしてこう言った。

「彼はラティーナにいたんだよ。この街から、トップ選手になったんだ」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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