チームに不可欠なピース――ユーティリティープレーヤーの価値

日本人がNBA選手になるために身につけるべきもの 八村塁や渡邊雄太も持っている重要な能力とは?

大柴壮平

今冬のウインターカップで1年生ながら福大大濠の連覇に貢献した白谷柱誠ジャック(右)は、日本バスケ界期待の逸材だ。八村塁(左)のようにNBA選手になるためには、どこをどう伸ばしていくべきか 【写真は共同】

 現在、八村塁がロサンゼルス・レイカーズで、河村勇輝がシカゴ・ブルズでプレーしているが、日本のバスケットボール選手にとってNBAは依然として高いハードルだ。世界最高峰のリーグに到達し、そこで安定したキャリアを築くのは極めて難しい。では、日本の若いプレーヤーが夢舞台に近付くためには、特にどういった部分を磨く必要があるのか。近年のNBAのトレンドも踏まえながら考察する。

スモールガードの価値が急降下している

ホークスのエースだったヤング(右)が大きな見返りなしにトレードされた事実は、サイズの小さいガードの価値が下がっていることを物語る 【Photo by Scott Taetsch/Getty Images】

 現地1月9日、トレイ・ヤングがワシントン・ウィザーズへトレードされた。

 アトランタ・ホークスが生え抜きのスターであるヤングの放出に踏み切ったのは驚きだったが、それ以上に衝撃的だったのはその対価だった。ホークスが獲得したのは契約最終年のCJ・マッカラムと、複数年契約だが格安のコーリー・キスパートのみ。トレードには1つのドラフト指名権も含まれなかった。つまり、ホークスは来季以降ヤングの巨額契約から逃れるためだけにトレードを決行したことになる。

 NBAにおけるスモールガードの価値が下がっているのではないだろうか。

 米メディアでそんな議論が巻き起こるなか、トレード期限直前に今度はクリーブランド・キャバリアーズとロサンゼルス・クリッパーズの間でダリアス・ガーランドとジェームズ・ハーデンのトレードが発生した。ハーデンは将来の殿堂入りが確実な選手だが、今年で37歳になる。一方のガーランドはまだ26歳で、これまでの常識で考えれば見切りをつけるには早すぎる若さである。

 ヤングは188センチ、ガーランドは185センチだ。NBAのなかではかなり小さいが、2人とも類稀なオフェンスの才能を持っており、複数回のオールスター選出を誇っている。彼らのような選手は、ある程度ディフェンスでやられることは織り込み済みで、それでも価値があるとされていた。しかし、その常識が崩れた。

 ディフェンスのスイッチを誘い、相手の弱点を突く。とりわけプレーオフではいかにその作業を緻密に遂行できるかが命運を分けることになる。ディフェンス側もスイッチを読んであらかじめ先にスイッチしておくなど、あの手この手で弱点を隠そうとするが、それにも限界がある。

 それならば最初からディフェンスの穴になるような選手を使わなければいい、というのが現在の大きな潮流だ。動きの遅い昔ながらのビッグマンがまず姿を消し、今スモールガードの価値が急降下しはじめている。生き残っているのは複数ポジションを守れる選手。日本のスポーツ界でよく言うところのユーティリティー性を持ったプレーヤーたちだ。

渡邊と八村も「バーサティリティー」を持つプレーヤー

渡邊は206センチのサイズがありながら、ガードが務まるほど幅広い能力を有する。ラプターズ時代には両フォワードに加えてシューティングガードでもプレーした 【写真は共同】

 NBAではユーティリティーという言葉の代わりにバーサティリティー(Versatility)という言葉が使われる。使用法は同じだが、言葉としてはユーティリティーが「役に立つ」というニュアンスを持つのに対し、バーサティリティーは「多才」とか「多機能」というニュアンスが強い。

 戦術の進化に伴いポジションの概念が急激に変わってきているNBAだからこそ、この言葉が使われるのだろう。

 バスケットボールのポジションといえば、長い間ポイントガード、シューティングガード、スモールフォワード、パワーフォワード、センターの5つだった。ところが近年では両ガードポジションをこなす選手をコンボガード、シューティングガードとスモールフォワードならウイング、スモールフォワードとパワーフォワードならフォワード、パワーフォワードとセンターならビッグマンというように、複数ポジションでプレーできる選手を指す言葉が増えている。

 田臥勇太以来、久方ぶりにNBAで本契約を勝ち取った2人の日本人もバーサティリティーを持つプレーヤーだ。

 渡邊雄太はトロント・ラプターズでの1年目とブルックリン・ネッツ時代にローテーション入りしたが、ラプターズではシューティングガード、スモールフォワード、パワーフォワードの3ポジションを、ネッツでは両フォワードでプレーした。

 私はメンフィス・グリズリーズと2way契約を結んでいる時期に現地で渡邊を取材したが、下部リーグではガードを、NBAではパワーフォワードでプレーする姿を目撃している。当時は大変そうだという印象が強かったが、今振り返ればチームが渡邊のバーサティリティーを評価していたことがわかる。

 八村塁も同様だ。若手時代こそビッグマンとして起用されていたが、その後はフォワードとしてNBAに定着している。スモールフォワードとパワーフォワードでプレーできるし、センターの経験もあるというわけだ。

 次の日本人NBA選手を生み出すには、ユース世代からこの点を意識していく必要があるだろう。

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著者プロフィール

バスケ雑誌『ダブドリ』発行人兼コラムニスト。NBA Rakutenにて「大柴壮平コラム」を連載していたほか、『ダブドリ』にて仙台89ERSを追うコラム「Grind」、フランチャイズ都市のディープスポットを巡る「ダブドリ探検隊」を執筆している。2024年には富永啓生選手との共著で『楽しまないと もったいない』を上梓した。ポッドキャスター(Trash Talking Theory、Mark Tonight NTR)、YouTuber(Basketball Diner)としても活動中。

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