“0.08秒差”でメダルを逃しても……スキークロス・古野慧の4位を「大健闘」と言える理由

スポーツナビ

「強み」がかみ合った1日

決勝を終えた古野(左)からは「悔しさ」が伝わってきた 【写真は共同】

 レース後、古野は涙を浮かべながら語った。

「最後あと一歩のところまで来て、メダルをとれなかったことが本当に悔しいです」

 シーディングランから決勝まで、滑走は合計5本。足は小刻みに震え、疲労の大きさが伝わった。

「僕だけじゃなく選手全員そうだと思うんですけど、準決勝以降、疲労がすごくありました」

 コースセットや降雪の影響もあり、いつも以上にハードなコースだったという。決勝のスタートでやや出遅れたように見えたのも、疲労が影響した。

 それでも古野は冷静さを失わなかった。

「前日の女子のレース展開も見て、スタート勝負ではない、抜きどころがたくさんあると感じていました。後ろからでも焦らずいこうとコーチとも話していた。決勝で前に出られなかったのは残念ですが、意外と冷静に滑れた。最後ちょっと届かなかったです」

 古野の武器は瞬発力だ。その背景をたどると、彼はもともとBMXの選手。小学1年生からBMXとアルペンスキーに取り組み、小6でBMX世界選手権の年代別入賞も経験している。

 スキークロスを始めたのは高校1年生。BMX、アルペンスキー、スキークロスの3種目を並行し、クロス1本に絞って本格転向したのは大学1年生の時だった。そんなキャリアは、おそらく古野の強みにつながっている。

 今大会のコースは古野にとって相性が良かった。スタートセクションの細かさが瞬発力を生かせる形で、追い風になった。

「スタート直後の2連があって、この形状が得意なので、すごくラッキーでした」

 実際、決勝までのレースでは先頭を走る場面も目立った。ライン取りも安定し、後方の選手に隙を与える場面が少なかった。約1分と長いコースの中に、バンクやジャンプ、ロールなど多くのセクションが詰まっている。瞬間の判断と正確なライン取りが勝敗を左右し、ここは“頭脳戦”にもなる。

「スタートだけでなく、中盤のテクニカルなセクションも得意だと感じています。ライン取りや細かい動きで差を作れる点は、自分の強みが出せたと思います」

0.01秒を削る―小さなチームの総力戦

 クロス競技は板の走りも勝負を分ける。0.01秒の世界では「誰の板が一番走っているか」が話題になる。フランスが良い、イタリアが走る――そんな会話が現場では日常だ。

 古野はチームの支えにも触れた。

「スロベニア人のサービスマンが帯同してくれていて、いつも本当に滑るスキーを作ってくれています」

 さらに、こう続ける。

「限られたリソースの中でも、チームとして工夫しながら最善を尽くしてくれていると感じています。海外チームと比べると人員や設備で差はありますが、その分コミュニケーションが密で、チーム全体で戦っている感覚があります」

 環境の差を挙げればきりがない。それでも古野は“少人数の日本チーム”を強みに変えた。古野の滑りが生まれた背景に、このチームの力があったのは間違いない。

 クロスは個人競技に見えるが、実態はチーム競技でもある。

 今後に必要なことを問われ、古野は言い切った。

「今日のレースで殻を破れた」

 課題としていたレース展開の部分で、大舞台の中で一気に成長を示した。ここまで来た自信は、何よりの収穫になるはずだ。

 さらに先へ進むには、フィジカルの底上げは欠かせない。その一方で、古野は日本人の強みも明確に見ている。

「体格で劣る部分がある中で、日本人の武器は技術の精度や状況判断の速さ、そして細かい部分まで突き詰める姿勢だと思います」

 0.08秒は残酷だった。ただ、その差は届かなかったのではなく、届く位置まで来た証拠でもある。日本人初の決勝進出、そして4位。古野慧が切り開いたこの一歩は、次のメダル争いへつながる現実的なスタートラインになった。

(取材・文:岩垂かれん/スポーツナビ)

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