“0.08秒差”でメダルを逃しても……スキークロス・古野慧の4位を「大健闘」と言える理由

スポーツナビ

古野慧はスキークロスで五輪史上初の決勝進出者となった 【写真は共同】

 現地時間2月21日、ミラノ・コルティナ五輪が行われているリビーニョでは、雪上の格闘技と呼ばれるスキークロスが特別な熱を帯びていた。初めて観た人なら「こんなに面白い競技があるのか」と驚いたに違いない。0.01秒を争う接戦、体当たりの駆け引き、そしてクラッシュ。勝敗を決める要素はただ一つ、“先にゴールすること”だけ。シンプルなルールが、レースの吸引力を極限まで高める。

 映像では伝わりにくいが、実際のコースでは滑走速度が時速90kmを超えるときもある。しかもアルペン種目と違い、コース上には自分以外の選手がいる。スタートからフィニッシュまで気の抜ける瞬間はなく、どんなアクシデントが起きても不思議はない。そんな競技の魅力を今大会で一段引き上げ、同時に私たちへ伝えたのが古野慧(26)だった。

 古野は男子スキークロス決勝で4位。メダルを逃した差は、わずか0.08秒だった。決勝は4人で争うが、表彰台に立てないのは1人だけ。クロス競技ならではの非情さが、結果にも表れた。

 それでも価値は揺るがない。古野はまずシーディングラン(予選タイムレース)では2位の好走で周囲を驚かせ、勢いそのままに勝ち上がっていった。そして、日本人として史上初めてとなるスキークロスの五輪決勝進出者となった。

 大会前、古野は「自分はメダル候補と思われていないかもしれないけど、狙っていく」と語っていた。そのとき日本人が決勝の舞台に立つ姿を、どれだけの人が想像できていただろうか? 想像を超える滑りが、最終日に現実となった。

体格差と環境の壁―“不利”を工夫で埋めた強さ

 スキークロスやスノーボードクロスといったクロス競技で、日本人が突き抜けた成績を残すことは簡単でない。理由としてよく挙がるのが、体格差と練習環境だ。

 まず体格差。クロス競技はフィジカル要素の中でも「体重」がスピードに直結しやすい。重い方が加速しやすい局面が多く、シンプルに有利不利が出る。身長の高い選手が多い海外勢は体の“容量”が大きい分、パワーも出しやすい。脚が長い選手はストローク面でも利点を持つ。

 今回の決勝を見ても、それは明らかだった。173センチの古野が、極端に小柄なわけではない。しかし、周囲の選手に比べれば小さい。欧州の強豪国では「体の大きい子に声をかけ、クロス競技を勧める」といった話も耳にしていた。競技の入口から、フィジカルに恵まれた選手が集まりやすい土壌がある。

 古野はこの差を正面から受け止めている。

「ファイナルでは体格の大きい選手たちのパワーを感じました。ただ、その差をどう埋めるかを常に考えて続けてきました」
「(体格差の)もどかしさを感じたことは何度もあります。でも、それが工夫するモチベーションになっています。自分なりの戦い方を磨くことに集中してきました」

 欠点を武器に変える、という言葉が彼には似合う。体格で劣る分、考え抜き、勝負どころを逃さない。古野の強さは、その“作り込み”にある。

 クロス競技は雪上のレースだが、勝負の土台は雪から離れたオフの積み重ねにある。フィジカル勝負の側面が強い以上、年間を通せば過ごす時間は雪上より陸上トレーニングの方が長くなりやすい。そこで求められるトレーニングの厳しさは、短い言葉で語りつくせない。

 もう一つの壁が練習環境だ。日本のスキー場には常設のクロスコースがほとんどなく、実戦に近い練習を積むなら海外、特にヨーロッパへの遠征が必要になる。同じフリースタイルスキーでもビッグエアのように国内で通年練習のできる施設が整っている種目もあるが、クロス競技は条件が厳しい。

 フィジカルでも環境でも不利を抱えながら、五輪の決勝に立った事実は尊い。メダルまであと一歩届かなかったとはいえ、まずはこの大健闘を称えたい。

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