高木美帆がもがき続けた「ラスト1周」 女子1500mへの矜持を清水宏保が語る

吉田昭彦

「海外勢の躍進」と「気候とタイムの関係」

金メダルのライプマ(中)、銀メダルのビクルン(左)、銅メダルのマルテ(右) 【写真は共同】

 この種目の1組目は、今大会女子500m金、1000m銀のフェムケ・コク選手(オランダ)が単独走でいきなり1分54秒79の好タイムを出しました。それを追いかけるように、銅メダルとなったバレリー・マルテ選手(カナダ)が1分54秒40、銀メダルのラグネ・ビクルン選手(ノルウェー)が1分54秒15、金メダルのアントワネット・ライプマ選手(オランダ)が1分54秒09と、トップが目まぐるしく変わる展開となりました。上位陣の競り合いを見ていて、海外勢のレベルアップが見て取れました。

 1位から9位まで1分54秒台が並びましたが、タイム的には、他の種目でオリンピックレコードが出ているので、もう少し伸びるかなと想定していました。複数種目に出ている選手が多いので、少し疲れているのかもしれません。
 
 また、この日の外気温は非常に高くて、僕はTシャツでいたぐらいなのですが、そういったことも多少影響したのかもしれません。種目にもよりますが、氷温はマイナス7度からマイナス10度ぐらいが適温といいますか、記録が出やすいと言われています。外気温が高かったことに加え、多くの観客が入ったことにより、氷温が少し上がって表面が柔らかくなり、ブレードへの抵抗となったのかもしれません。

 高木選手が世界記録を出したのは気温の低いソルトレークシティ(アメリカ)で行われたワールドカップでのことです。条件が違うと全体的に選手のタイムにも影響しますから、一概に「ピークより5秒も遅い!」とは言えないのが氷の競技の特徴とも言えますね。

佐藤・堀川はマススタートでのリベンジに期待

今大会での引退を表明している佐藤綾乃。堀川とともにマススタートでのリベンジを目指す 【写真は共同】

 佐藤選手も、やはりラスト1周で力を出しきれなかったと思います。また2回目の五輪となる堀川選手に関しては、前回の北京がコロナ禍での無観客開催でした。無観客と有観客では全く会場の空気が違いますし、「本来の五輪の雰囲気にのみ込まれた」というようなことを本人も話していましたね。

 今回の結果は本人たちが望んでいたものとは違うだけに悔いはあると思いますが、「五輪に出る」ということだけではなく、「五輪で勝負すること」の大切さを見つけられたのでは、という気がします 。

 佐藤選手と堀川選手は、21日には女子マススタート種目が待っています。マススタートは、大人数で一斉にスタートする種目で、荒れやすくアクシデントも起こりやすい種目でもあります。

 速さといった実力だけではなく、マラソンなどのように駆け引きも重要になってきます。「先行逃げ切りで行けるのか」「先頭についていって終盤に賭けるのか」など、レース展開を読んでどこで勝負を仕掛けるのかを考えながら滑らなければならないのです。

 佐藤選手と堀川選手は、海外の強豪相手に難しい展開にはなると思うのですが、なんとか良いポジションをキープして最後まで食らいついていければ、チャンスはあると思います。自分でペースを作るというよりは、レースを動かす選手たちを見ながら虎視眈々とタイミングを見計らって、勝負に出る。

 平昌大会では高木菜那さんが金メダルを取りましたが、先頭を滑っている選手がカーブで膨らむことが分かったので、残り1周のカーブでインから抜く戦略で成功しました。その冷静さは佐藤選手も堀川選手も持ち合わせていますので、最後の最後まで目の離せない展開が続くと思います。ぜひ日本の皆さんも楽しんでください。

清水宏保(しみず・ひろやす)

【提供:有限会社Shimizu】

 1974年(昭49)2月27日、北海道帯広市生まれ。白樺学園高-日大。94年リレハンメル五輪から06年トリノまで4大会連続出場。98年長野では500メートルでスピードスケート日本勢初の金、1000メートル銅。02年ソルトレークシティー大会500メートル銀。世界距離別選手権500メートルで5度の金。10年に現役引退。

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著者プロフィール

元出版社勤務、現在はフリーランスで活動。サッカー専門誌をはじめ、モータースポーツ、ゴルフ、マラソン、トレイルランニングなどの雑誌作りに携わる。趣味はサッカーや陸上の観戦と、ゴルフ、マラソン、トレイルランニングの競技参加。

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